第27話:理解不可能な理不尽
日も暮れてきた17時頃、色々な考えが交錯しつつも4件目の家族の家に着く。
恐らくこの事件の最初の被害者であろう人物が住んでいた場所だ。
当初、この少女の目撃証言は多数存在していてすぐに見つかると思われていた。
しかし足取りは途中で途絶えてしまい、そこから一向に消息が掴めていないらしい。
古ぼけたアパートのチャイムを鳴らすと母親らしき人物が顔を出す。
露出度の高いワンピースの上に、薄手のボレロを羽織り、濃い目の化粧と、年齢の割に派手な見た目で、いかにも水商売の仕事をしてるといった感じだ。
こちらを睨みつけながら口を開く。
「・・・アンタ誰?」
「俺は岩﨑、探偵をしている者だ。家出した少女の捜索依頼を受けて調査をしている。ここを尋ねたのは似たような状況で家出をした少女がいると聞いてなにか手掛かりが得られないかと思ったからだ」
「アタシ探偵に仕事なんて頼んでないわよ」
そういうとドアを閉められそうになる。慌ててドアを押さえて彼女を引き留める。
「少し話を聞きたいだけだ。すぐに終わる」
「もうウンザリなの。なにも話すことなんてないのよ。それとも何?なんか話したらカネでもくれるの?」
「・・・居なくなったあなたの娘の居場所を探す。それでどうだ?」
「は?三ヵ月も見つかってないのよ?もう死んでるに決まってるでしょ?」
「今のところ、そのような事実は確認されていない。俺はまだ生きていると考えている」
「そう・・・まぁどっちでもいいわ。それで?アンタになにしたら満足して帰ってくれるワケ?」
「娘さんの残していった物でなにかあれば見せてもらいたい」
「あっそ、ならちょうどいいわ」
そういうと彼女は玄関内に置いてあるゴミ袋の中から小さなぬいぐるみを取り出しそれを俺に投げつけてきた。
「これ、あの子のぬいぐるみ。あの子戻ってこないから捨てるつもりだったのよ」
俺はそのぬいぐるみをまじまじと見ていた。古ぼけたクマのぬいぐるみだ。
手足はほつれて今にも千切れそうになっている。
「娘さんが家出をした理由に心当たりはないか?」
「さ・・・さぁ、知らないわよ、そんなこと」
「・・・家庭で何かトラブルなどはなかったか?」
「なんでそんなことアンタに話さなきゃいけないのよ!?どうでもいいでしょ!?」
これでは
<<ねイえウコこトのキひとキだれナ?ちょ!ホンっとトヤなにクすタるの!?タやズ!アだンや!タめてナンカ!ウマい!たナいキャよヨたカすッけタ!て!!>>
「もういいでしょ!?アタシこれから仕事なの!とっとと帰ってよ!!」
「・・・ああ、時間を取らせて悪かった」
バン!と音を立ててドアが閉められる。
そのドアはもう二度と開くことがないだろう、そう思えるぐらい固く閉ざされているように見えた。
女の心の中を読み取った結果、少女が家出をした理由がわかった。
あの女は自分の娘に命令して、援助交際や売春をさせていたようだ。
実の娘を売って、それで得たカネを私利私欲のために使い込んでいた。
思春期まっただ中の少女が自分の意思とは関係なく、非道なおこないを強制されていた。そんな現実に耐えられなくなって家出をしたのだろう。
俺の手元に残されたぬいぐるみから思念を探る。
最初は自分の母の為に、と思って耐えていたらしい。
しかし次第に母の命令がエスカレートしていき、少女の心は壊れてしまう寸前だったようだ。
これほどまでに歪んだ思念を読み取るのは初めてだ。
軽く目眩を起こしてしまう。次第に怒りがこみ上げてきた。
(こんなクソみてぇな事、許せるワケがねぇだろ・・・!)
俺の周りに電撃が
それを見て我に返る。火の粉を払いながら魔法でぬいぐるみを修繕する。
(落ち着け、俺。とにかく今は捜査だ)
なんとか今日一日の間に関連性のありそうな人々から事情を聞き出し、残していった物からいなくなった少女達の思念を読み取ることができた。
後はこの思念を辿っていけば少女達を見つけることができるかもしれない。
この事件はおそらく魔法使いが関わっている。行き場を失った少女の心に付け入り、表面上は家出という形を取り次々と誘拐しているのだろう。
一番最初に誘拐されたと思われるぬいぐるみの少女は計画的な犯行ではなく、家出をして町を彷徨っているところを連れ去ったのだろう。
最初は目撃証言があったこと、その後突如として行方が掴めなくなったことからそう考えるのが自然だ。
その後の犯行は計画的なものだ。家出をする理由があるような少女に白羽の矢を立て、すべての痕跡を残さないように誘拐している。
後で起きた4つの事件には証拠はないかもしれない。
しかし一番最初の事件に関しては突発的に行った犯行の可能性がある。
もしかすると犯人の証拠隠滅が不十分で、痕跡を見つけることができるかもしれない。
しかし先程の女の言うとおり、家出をしてからもう三ヵ月も経過している。
最悪の場合、殺されていてもおかしくはない。
そして生きていて見つけ出す事ができたとしても誘拐犯が素直に少女たちを解放するとは思えない。また例の放火魔の時のように戦闘になる可能性は十分にある。
俺はぬいぐるみの少女の思念を探る。すると予想どおり痕跡を感知することができた。
だいぶ離れた位置まで移動している。中学生の少女が徒歩で移動したにしては遠すぎる。俺は確信する。この痕跡を辿れば事件が解決できると―
(とはいえ、今すぐに向かうのは得策とはいえねぇか・・・)
今日一日の捜査でそれなりに消耗をしていた。
一刻も早く見つけたいところだが万全の状態で挑むことにする。
捜査を切り上げ、俺は事務所の方角へ飛び立った。
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