第19話:新手の魔法使いか!
食事を終えると陸は杏莉さんの膝の上で丸くなっている。
それを撫でながら二人でテレビを見ていた。
普段はほとんど見ないニュース番組の中で、最近起きている事件などが取り上げられている。気になったのは俺たちの住む地域で発生している連続放火事件の話だ。
「去年の12月の初めから報道してますね・・・。最初はボヤ騒ぎが続いてましたけど、最近は規模が大きくなってきているみたいです」
確か、応接間で読んだ地方紙でも取り上げられていた。
火事があまりにも多発しているので放火の疑いがあるとかなんとか。
ニュースによると同一犯の犯行とみられる火事が約二ヶ月の間に30件以上あり、最初はボヤ程度で済んでいたようだ。
しかし被害は徐々に大きくなっていき、一週間ほど前からは空き家一軒が全焼してしまうまでになっているとのことだ。
唯一の救いは死傷者が今のところ出ていないことだろうか。
だがこのままエスカレートしていくとそうもいかないだろう。
「この家も犯行現場の範囲内みたいですし、心配ですね・・・」
「・・・そうだな」
犯行にはガソリンや灯油などの可燃性の物質が使われた痕跡はないらしい。
にもかかわらず最近の火事は火の回りが早く、消防が駆け付けた時には既に家一軒が全焼してしまっているらしく、専門家も頭を抱えていた。
(不自然な放火、なんの痕跡も残さない犯人・・・か)
魔法使いの仕業、そう考えるのが自然な流れだった。
動機は憂さ晴らしといったところだろうか。
おっさん妖精の言葉を思い出した。魔法を悪用する人間もいる。
覚悟はしていたがこれほど早くその状況に直面するとは―
(ヤツの口車に乗るつもりはねぇが、このまま放っておく訳にも・・・いかねぇよなぁ)
「浮気調査の依頼の目途はついてる。明日この事件を探ってみるよ」
「え?放火事件をですか?でも警察の方々の捜査でも手掛かりが全然ないみたいですし・・・というか今日の依頼、もうなにかわかったんですか?」
「ああ、旦那さんは黒だったよ。後は浮気現場の証拠を押さえればそれで終わる。だからそれまで少し時間があるんだ」
「すごい・・・でもだいじょぶですか?もし慧さんが犯人に見つかったりしたら・・・」
「その辺はうまくやるさ、心配無用だ。それにな・・・」
そこで言い淀んでしまう。彼女が話の続きを気にしている。
「うまく言えねぇんだけど、その・・・なんだろうな・・・君の親父さんが居たら、同じことをしていたんじゃないかと思ってな」
彼女は少し驚いた表情を見せたがなにかを考えるような真剣な顔をし始めた。
しばしの沈黙、そして彼女は話し始めた。
「絶対に、無理はしないと約束してくれますか?」
「ああ、約束する。危険な真似はしない」
「・・・絶対ですよ?」
「はは、大丈夫だよ。俺はまだ君の料理を満足するほど食ってないからな、夕飯までには帰ってくるさ」
「・・・慧さんって、食べ物のことしか考えてないんですか?」
「んなこたぁない。君の料理が特別なだけだよ」
「もうっ、慧さんったら!」
そういうとプイっとそっぽを向いてしまった。
本気で怒っているわけではなさそうだが初めて見る表情だった。
そんな仕草も可愛いと思えてしまう。
もう少しからかってやりたかったがその気持ちを抑える。
「やらなきゃいけないことはまだあるからな、だから無茶はしないさ」
そういって立ち上がる。ここ数日は一日が終るのが早い。
年を重ねたせいだろうか?それとも―
「それじゃ、また明日」
「はい、明日もよろしくお願いします」
「陸もまた明日な」
新しく増えた住人、もとい住猫にも声をかける。いつも通りにゃ~ん、と返事を返してくる。
それを聞いて俺は一ノ瀬家を後にする。
俺を取り巻く環境が加速度的に変化していく。
万物は一定の形を保たずに刻一刻と変化していくモノだ。
それは人がどれだけ否定しても変わることのない真理。
永遠に変わらないモノは果たして存在するのだろうか?
いくら考えても答えは出ない。
暗闇の中をひたすら探し続ける事、それしか俺に出来る事は無い―
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