第18話:猫なで声って出ちゃうもんだよな

「ただいまー」


自宅は開いていたので勝手に入っていく。


夕飯の準備をしていた杏莉さんがこちらに向かってくる。


「慧さん、おかえりなさ・・・あれ?そのねこちゃんはどうしたんですか?」


首をかしげながら当然の疑問を投げかけてくる。


「いやさぁ、帰り道で懐かれちゃってさ。餌とかあげたワケじゃねぇのに。俺んちはペット禁止だから飼えねぇし、そもそも飼い方が分からん。だから杏莉さんがよければここで面倒みてくれねぇかな?勝手な頼みで悪ぃんだけど」


抱えていた猫は腕の中からするりと抜け出して杏莉さんの元へ近づいていき、喉を鳴らしながら足元にすり寄っている。


「飼い猫だったのかしら?随分と人懐こいですね~うふふっ♪」


杏莉さんは膝をついてその猫を撫でている。猫も上機嫌の様子でゴロゴロと転がっている。


「昔がどうだったかは分かんねぇけど、今は野良だったみたいなんだ。だいぶ賢いにゃんこだと思うぜ」


「昔飼ってたねこちゃんと似てますね・・・かわいい~♪」


そういうと猫を抱きかかえた。彼女の胸元で猫がキョトンとしている。


(まったく・・・うらやまけしからん)


「う~ん、慧さんからのお願いなら断れませんね。うちで飼いましょう」


「マジ?いいのか?」


「はい、私も父も猫は大好きなので。それに昔飼っていたねこちゃんそっくりだから父が帰ってきたら、きっと喜ぶと思うんです」


「だってさ、良かったな」


猫に話しかけると嬉しそうににゃ~ん、と鳴き返された。


「人の言葉を理解してる気がするんだよな、だから気になって拾ってきたんだが」


「確かに返事をしてくれている気がしますね。そういえばねこちゃん、お名前はなんていうのかな?」 


杏莉さんがそう話しかけると猫はなにか言いたそうな顔でこちらを見つめている。


俺が決めろということなのだろうか?


「んー・・・りく、ってのはどうかな?特に由来はねぇんだけど」


「陸ちゃん、ですか?いい名前だと思います。陸ちゃん、陸ちゃーん♪」


杏莉さんが猫なで声で話しかけるとにゃ~ん、と返事をしている。


どうやら気に入ってくれたようだ。


「んじゃ今日からお前は一ノ瀬陸、だな。よろしくな、陸」


杏莉さんの腕から飛び降り二人の前に立ち、頭を下げてお辞儀のような仕草をしている。


彼なりの挨拶のつもりなのだろうか。


「うふふ♪私達によろしくお願いします、って返事をしているみたいですね」


彼女も同じ感想を抱いたようだ。


透明化を見破ったこともそうだが、コイツは本当に不思議な猫だ。




早速杏莉さんは急遽増えた家族の分も含め、料理の続きを始めた。


しばらくすると二人と一匹分の料理が食卓に並ぶ。


陸の分はねこまんまだ。人の目線からでもあり合わせで作ったとは思えないぐらい美味しそうに見える。流石だ、としか言いようがない。


一匹が増えた夕食は少しだけ賑やかになった気がした。


深く考えずに連れてきたわけだが悪い判断ではなかったようだ。


父が不在の間、彼女の心の支えになってくれるかもしれない。


そうであればこの出会いも大きな意味があったのだといえるだろう。


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