第1話 お高い店と大農園の化け者
大国家レイオート王国より3国ほど超えた国エイン
青年はその国の最南端の街イリールにいた。
その街はかつて商売人同士でにぎわっていた街だが
今ではすっかり廃れきった街だ。
「・・・笑えねぇ・・・この街ゃぁ何でこんなに飯が高けんだよ!」
飲食店で会計を済ませようとした黒いコートに銀飾りを施した格好の
青年は店主に訴える
「この値段は王国のレストラン並みだぜ?高すぎる!」
その声は店の中まで響いていた呆れた店主が申し訳なさそうな顔をし答える
「最近、農作物がこの街に届かず食材がないのです勘弁してください」
さっきまで訴えかけていた青年はふと何かを察し冷静さを取り戻した。
「こりゃぁ仕事か?」
そう小声で呟き店主に問いかける
「いつからだ?なにが原因だかわかるか?」
「あぁ確か半年くらい前だったと思います、
実はこの街の食材のほとんどは街の外れの大農園で補っているのですが・・・」
言葉を言いかけると店主は黙ってしまった
「・・・いょし大農園だな、おい店主!
もしも食料の問題解決したら次はリーズナブルな価格で頼むぜ!」
そう言い残し青年は金を払い店を出る、青年が見えなくなった頃店の奥から
店主の奥さんが店主に問いかけた
「なんで大農園にあんな子供を行かせたの?
街の騎士が調査に向かってからもう1ヶ月、
あの大農園には化け物がいるってみんな噂してるのよ」
店主はうつむいたままこう告げる
「あの少年のコートの胸元・・・白銀騎士団の銀飾りが付いていた・・・
それに少しだけしか見えなかったが、腰に下がった二つの銃、
銀の杭まで持っていた。あの少年はきっと白銀騎士のハンターだ」
店主はうつむきながら話を続けた
「白銀騎士団のハンターならあの大農場の化け物を倒してくれるかもしれない」
疑問そうな顔をしながら店主の奥さんは店主に問う
「白銀騎士団ってあの?ハンター?ハンターってなんなの、
それにあんな子供が銃を持ってるっていくらなんでも見間違いじゃないの?」
「白銀騎士団、名前くらいは聞いたことあるだろう?
数ある騎士団の中でも化け物退治を専門にしているレイオート王国の
聖騎士団のことだ」
店主は続ける。
「聖騎士団にはナイトという国内で活動する聖騎士と国外で
活動するハンターという聖騎士がいるんだ」
奥さんは少し黙った後に少し声を荒げ口を開いた
「でもあんな子供が、化け物退治の専門家って・・・」
言葉に詰まったようにそれ以上は言葉が進まなかった。
「確かにあの少年は子供だが大農園から食料が届かなくなってもう半年近い、
調査に出た騎士も帰ってこない、
こんな状況でもしも化け物を倒し解決してくれるなら」
店主は自分ではどうしよもなくなにもできない愚かさを悔やみ拳を握りそう呟いた。
店主の言うとうり大農園から食料が届かなくなってから半年近い。
この街はもう限界を迎えていたのだ、
にぎわいをなくした街はさらに活気をなくし誰もが絶望していたのだから。
夕刻の日が沈んだ夕焼けの頃、青年は大農園に足を踏み入れた。
そこは人の気配がなく血のむせかえるような香りが漂っていた。
「ビンゴだなこりゃぁ、しかし化け物が出る大農園だぁ?笑えるな
こいつは吸血鬼の仕業だってのに気づかねぇとはねぇ
この様子だと農場で働いているやつは全員吸血鬼に殺されたか、
吸血鬼化したってところか?」
青年が農園をしばらく歩いているとなにかに周りを取り囲まれた。
鎧のガシャガシャとした音が聞こえ目の前に
血で赤黒い色をした鎧を着た騎士が4人、
農園で働いていたであろう農家が6人立っていた
全員目は赤く閃光のように光り、
言葉ではなくうなり声のような声を発するだけだ。
特に一際目立つ牙は鋭く、口の周りを乾いた血で赤く染めている。
夕焼けが沈みかけその場にいる10の影は
ゆらゆらと揺れるシルエットのようで
赤く光る目はそれをさらに不気味に見せた。
「・・・第5世代か?」
青年は短いため息をつきその場にいる吸血鬼と呼ばれる10人の影に向かい告げる
「さぁ!断罪の時間だ祈りを捧な!」
聞こえている素ぶりが無く、大きく口を開き不気味な唸りのような叫びを上げ
揺れる影が7つ青年に向かい襲う
「ギャャャォゴゴ」
青年は冷静にコートの内側に手を伸ばし右腰に下がった銃をホルスターから抜く
それは、普通の銃よりも銃身が長く特徴のある形をしている。
もう日が暮れ、夜が近いというのにその銃は
白銀の太陽のような美しい輝きを放っていた。
銃声が鳴り響く1つ、2つと青年に真正面から向かって来た影が
2つ地面に飛び込むように倒れこむ、
さっきまで赤い閃光のように光っていた目の輝きはもう無く、
それどころかしばらくするとその影は跡形もなく無くなり
その場には鮮血の人型だけが残っていた。
「2つ」
さらに銃声が鳴り響く
「4つ」
それは一瞬で右側の影を2つ撃ち抜いていた。
左側の影2つに左腰に下がった銃を抜き照準を合わせた。
「5つ、6つ目!」
左手には先程の銃とは色が異なる銃が姿を見せていた。
まるで漆黒の夜のような不気味な輝きを放つ銃が
2つの影を撃ち抜き銃声が響きこだまする。
「・・・7つ!」
背後から襲いかかる影をするりと交わして振り向いた。
こめかみに銃身を突きつけ撃ち抜く
「残り3つ」
銃身から硝煙が上がり淡々と7つの影を撃ち抜いた。
夕陽も沈みきり月明かりに照らされ、残りの影に2丁の銃口が照準を合わせる
「8つ!!」
ゆらゆらと揺れる不気味な影を二丁の銃が撃ち抜く
「9つ・・・!?」
9つ目の影が牙をむき出しにしたまま突っ込んでくる、
その影に白銀の銃が照準を合わせ
引金に指をかけ引き金を引くが白銀の銃からは弾が出なかった
「・・・!?」
すかさず漆黒の銃を向け対応するも間に合わず影の牙が青年の首元を噛み付いた
「ゴゥッゥガガガッ」
不気味に発する声はまるで苦しむように唸っていた
「ってぇなクソ!!」
青年の首から血が流れた瞬間、
月明かりに照らされ重なる二つの人影は一瞬にして一つ消えた。
何が起こったのか・・・
青年は白銀の銃をいじりながら何も無かったような素ぶりをしながら
「また弾詰まりか、最近よく起こんだよなぁそろそろルアールに
修理依頼出しとかねぇと」
と不機嫌そうにぶつぶつと言いながら首元から流れる血をコートの袖で拭った。
残された最後の影は何が起きたのか理解できずにいる。
「ゴッゴルゥャァァォ!!!、」
唸りというより叫びに近い声を出し、
最後の影が青年とは逆の方向に走り出す。
ガッチャンと銃から音がし、白銀の銃の弾丸が再装填され、
背を向け逃げ出した影の中心に照準が合わさる。
「そんな姿にされてまで生きたいと願うあんたは正しいと思うぜ。
仇はうってやるよ」
硝煙が照準を曇らせ一発の弾丸が影を射抜き叫ぶ間も無く
人型の鮮血へと形を変え地面に消えていく
「10・・・」
その場にいた不気味な影のような吸血鬼をすべて退治し、
血で濡れた地面を青年はまたゆっくりと歩き出す。
10メートル程歩き農園をゆっくり見渡した後、
農園の端にある納屋の方を見つめ話しかける。
「出てこいよ!吸血鬼!お仲間はもう仲良く昇天しちまったぜ?」
納屋の奥から鉄を引きずるような音がなり響き納屋の奥から
スラリとし小綺麗な格好をした男が出てきた、
男の手には騎士が持っていたであろう身の丈より
少しばかり短い鋼鉄製の剣を引きずりながら
ニヤリと不気味な笑みを浮かべている、
その顔はぞっとするほど恐ろしい笑みを浮かべ、
口元には鋭い牙が剥き出しになっていた。
男は手に持った剣を引きずり地面を削りながらゆっくりと青年に近づき
笑みをゆっくりと解き話しかけた。
「おぉ素晴らしいぃ、気配を消していたはずなのですがよく見破りましたね」
赤く閃光のように光る目が青年を見つめる。
「子がいれば親がいるもんだろ?」
「・・・子?あの出来損ないの雑兵供が? ・・・
まぁいいでしょう、雑兵とは言えど吸血鬼、
あんなにあっさりと消し去ってしまうとはその胸の銀飾り
さすが白銀騎士団ですねぇ」
ゆっくりと話すその男に向かい青年は吐き捨てるように言い放つ
「第4世代、笑えねぇぜ、相変わらずテメェ等吸血鬼は胸糞わりぃ
無理やり血族にして雑兵扱いか?
悪ぃーがテメェの命は俺がここで狩ってやる」
男は顔を夜空に向け月を見つめる
「ふっはっは、狩る?私を?あなたみたいな子供が?
あの騎士や農家たち同様あなたも私の兵にして差し上げましょうか?
それとも無様にその身体から全ての血を抜き取り
絶望の中その短い命を終わらせてあげましょうか?」
月に雲がかかりあたり一面が闇に覆われる、
男は剣で地面を削りながら青年の
背後に素早く回り込み鋼鉄の剣を軽々と片手で頭上に振り上げ
そのまま力一杯青年に振り下ろす
「おいおい、最初から殺す気満々じゃねぇかよ!」
青年は振り下ろされた剣を見切ったよう交わし、
2丁の銃を構え同時に弾丸を撃ち込む二発の銃声はきれいに重なり、
男の左腕を吹き飛ばした。
雲間から月明かりが差し込みまたあたりを照らす男は吹き飛んだ自分の左腕を
見つめ驚いた表情を見せた
「!?・・・なるほど・・・私に一撃を入れるとは正直驚きました」
男の振り下ろした剣は地面に深く突き刺さっていた、
男は痛みが無いかのように
「ふっははは、腕が千切れたからなんだと言うのです?
千切れたなら再生させるだけのことでしょう?」
男は高らかに笑いながらそう言った。
本来、吸血鬼にとって肉体の再生や身体能力の向上などは難しい事ではない。
男は左腕の再生を直ちに試みる。
しかし
「何故だ!!何故!再生しない!貴様ぁ何をした!」
普段なら再生するはずの自らの身体だが左腕は何故か
再生せず男は冷静さを完全に失っていた。
今まで狩る側の人間に追い詰められたのが初めてだったのだろう
男の思考が混乱する。
「・・・銀製の弾丸?」
男の口から答えが導き出された
吹き飛んだ左腕を確認し男は驚きの表情を見せた。
さっきまで吹き飛び転がっていた自分の腕はその形の影を残したまま
地面に消えていったのだから、
男は焦りながら残された右腕で青年に目掛け剣を振り回す。
「銀製の弾丸か、惜しいとこ付いてるがハズレだな」
青年は答えを渋るかのように不正解を言い渡す
「そんなに疑問か?じゃぁ特別に1つヒントをやるよ、
こいつは特別製でね銀製の弾丸じゃぁない」
対吸血鬼戦に置いて人間が吸血鬼を狩る方法はいくつか存在する
吸血鬼の最も苦手な銀で作られた弾丸、杭、剣等で心臓を貫く方法が
一般的に挙げられる方法だが、
他にも血液が身体から無くなり出血多量に陥ることでも殺す事ができる。
男は再生できず傷口から流れ出るおびただしい量の出血で更に焦っていた
勝負を決めようと青年目掛け一気に踏み込み大振りになった剣の一撃を
青年は見逃さなかった。
それは一瞬の出来事、吸血鬼の身体能力の向上により倍以上速度で剣が迫る中、
青年は2丁の銃で男の両足を打ち抜き吹き飛ばした。
大振りの一撃は見事に空振り、男は勢いよく頭から地面に倒れこむ。
すかさず青年は残った右腕を踏み付け額に銃口を向ける
「テメェの負けだ!」
そう言って引き金に指をかける刹那、
残った右腕を自らの力で引きちぎり
男が飛びかかり青年の左肩に鋭い牙を突き立てる。
「勝ったぁぁぁぁあ、、!!」
男はそう小声で言いながら血を吸い始めたが、
男の様子が突如変わり最後の力を振り絞り
噛みついて吸った青年の血を直ぐに吐き出した。
「貴様はぁぁぁぁ!!!!一体何なんだぁぁ!!」
断末魔のような叫びが大農園に響き渡る。
地面に転がる四肢のない男が悶え苦しむ、
噛み付かれた青年は少しあきれたように答えを告げる。
「もう降参か?言っただろ?テメェの負けだって
俺の血が吸血鬼の体に入った時点でただでいられるわけがねぇんだよ」
青年は人差し指を立て答えを続ける
「しゃーない1つ特別に教えてやるよ
俺の呪われた血はテメェ等を殺すためにある。
まぁ血を吸われなくてもあの出血量じゃぁもう長くなかっただろうがな」
"こいつは特別製でね銀製の弾丸じゃぁない"
青年のあの言葉が吸血鬼の男の頭によぎる
「・・・まさか弾丸に自分の血を?」
弱くなった声で吸血鬼の男は答えを見事言い当てた。
「ようやく正解だ。
対吸血鬼専用弾こいつは俺の血を弾丸に混ぜ込んだ特別製だ、
当たれば吸血鬼はしばらく傷の再生が効かず止血も効かなくなる仕組みだ
まぁ第5世代なら大抵は一撃で済むんだけどな、
まぁ俺の勝ちは確定ってことで
・・・ご愁傷様」
青年は瀕死の状態で身体が半分溶解し始めた吸血鬼を背にし歩き出す。
吸血鬼の男は最後の力を振り絞り青年に質問した。
「・・・な・・なま・・え・を・・・わた・・・し・・・・をころ・・・し・・・・たそ・・・のな・・まえを・・・おし・・えてく・・・・れ」
青年は振り返らず前を向いたまま答えた。
「・・・レイン、レイン・アークだ、それがテメェを殺した騎士の名だ」
青年が自分の名前を言い終わると同時に吸血鬼の男は
地面に吸い込まれるように消えていった。
ゆっくり歩き出したレインは機嫌悪そうに叫んだ
「アーァ!ったく笑えねぇなぁ!!!
一晩で2回も吸血鬼に噛まれるなんて最悪だ!クソいてぇし!!
さっさと街へ戻るとするか、朝には着くだろうし」
青年レインは月明かりに照らされ、
街へと戻っていく先程まで戦場であった大農園を後にして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます