第22話


「それでさっきの話に戻るわけだ。秘策のマジックショット、そっちの金髪のおねぇちゃんが子供の頃にエルフに見せてもらった妙技で、矢の軌道を自由に操作できるというやつさ。エルフの妙技として結構有名なやつだが、確かに、あれができれば勝てるだろうなぁ」

「ですよね!」

 先輩はそう嬉しそうに言う。


 エルフ、学会における分類では「モンスター」となっているが人間にかなり近い存在であり、エルフと人間の間で子を産むことができることから、犬と狼の関係に近いのではという意見が主流。そのため学術的な分類を変えようという動きもある。

 法律的には既にほぼ人間と同じ扱いだ。

 古くは森の中に住んでおり、帝国に広く居住しつつ伝統的に弓を扱う。その妙技は語り草になっているが、エルフたちはその技術を外部に流失しないように万全の体制で守っている。


「でもあれ、魔法だぞ。競技会で使っていいのか?」

「ちょっといいかしら」

 そんな事情をよく知らず気軽に真似をしたいという学生二人と違い、そういった知識を蓄えている学園長がつい口を出す。

「ドーリーさんはなんでそんな事を知っているのかしら?エルフの弓の技術はエルフのみに伝わる秘伝の筈でしょう」

「いやぁ、昔田舎のエルフとさいころ賭博で勝負しまして。所持金全部巻き上げてそれでも足らねぇ、ってことで代わりに教えてくれたんですよ」

 お恥ずかしい、という笑顔だが元は傭兵。そういうのが日常だった商売だ。

「そいつ曰く、矢羽根に風の抵抗を受けるような魔法をかけて、風の抵抗をどう受けるかを調整することで自在に軌道を曲げられるんだという話だったな」

 Vが頭の中で鳥をイメージする。矢羽根が羽ばたき、上下左右に向きを調整する。

「確かに理屈上は曲がりそうですね。でもそんな魔法、聞いたことがないな」

「エルフ業界だけの秘伝なんだと。俺も説明を聞いて実際にその矢を使わせてもらったが、仕組みは全くわからんかったががたしかに曲がりはしたぞ」


「ホントですか?」

「そんな嘘ついてどうする」

 明らかに落胆する先輩の顔を見ながらドーリーはそう言い切る。

 その顔を見た後輩は

「先輩!落ち込まないでください!何か他の方法があります!」

と励ますが、じゃあどんな方法があるかといえばない。


 そして無いなりに考えた結果として

「私達に弓を教えてください!」

とドーリーに頭を下げた。

「嫌だ。というか無理」

これがドーリーの答え。

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