第14話

「自分のパーティーの実力を判断し、それに合った難易度の依頼を受ける。ダンジョンを攻略するにしても、自らの技量や装備にあったダンジョンを選択すること、もし戦力や技量が足らないと判断した場合は追加で人員を募集する、上級パーティーに応援を頼むなどで戦力の増強を目指すこと。こういった的確な計画により怪我や事故を減らすことが可能であり、それはすなわち回復魔法が目指す生存率の向上につながります」

 魔法の授業だと思ったらいきなりパーティーの組み方の問題。

 どう反応したらいいかわからない生徒達を見てドーリーは助け舟を出す。

「つまりは事前の予防ってことだよ。患者にとっては医者の技量というのも大事だが、それよりも事前の予防を行うことが大切だということだ。まぁ理想論で世の中そこまでうまく回ることはまずないけどね」

「そうですね。 特に冒険者や傭兵業界というのはかなり特殊な事情がありますから、生存率の向上という観点では回復魔法の技量よりも事前の予防策、計画立案が占める割合が大きくなります」

 そう言っているVの後ろでドーリーが黒板に簡単な絵と言葉を書く。


右から、オーク(モシスター)、前線基地、近隣の農村、そして都市部。


「モンスターの綴が違いますよ」

 それを見たドーリーがモンスターと書き直す。

「恥ずかしいな。 まぁ一般的なモンスター退治の位置関係を示した略式図がこれ。傭兵業界ならオークの代わりに 敵軍というのがいるし、その周りは前線つまりは戦争の真っ只中ということになる」

「ここでは略式化したこの図を使わせてもらいましょう。えぇ、腕が切り落とされた場合、接着できる時間に限界があるのですが誰か答えられますか」


「はい。適切な処置が行われていれば最大1時間と言われています」

「正解ですね。ただし適切な処置というのが落とし穴で、これは都市部の病院などでできる治療と処置であれば約1時間ということです」

 そう言って都市をさすV。


「農村などでは治療器具や薬品などは慢性的に不足していますし、都心部より高い技術の治療を受けることはまず不可能です。それでも腕をつなげる指をつなげるといった外科的な魔法については、農村での事故も多いので心得ている医者は多い。ですからまぁだいたい切り離されてから30分以内であればつなげることは可能でしょう。あ、これらはもちろんその腕の持ち主が生きていれば、という前提の上での話です」


 次にオークを指す。

「モンスター討伐のみで採算が合うような大物や群れがいる地域は、普通は村の近くにあるようなものではありません。ですから前線基地を別に設置します。大物モンスターであればここにも医療スタッフを用意します。ただ、 荷物と人が多ければ多いほど採算が合いませんから必要最低限と見積もった装備と人しかないのが普通です」


「そしてモンスターと戦うわけですが普通その討伐やモンスターの影響を受けて前線基地が崩壊しないように距離を持たせます。 近ければ1時間、遠ければ半日程度の距離でしょうか?」

「戦争だと比較的前線に近い部分に設置する事が多いかな。伝令をだす必要があるから」

「まぁ、ここはそう言った都合によって変わります。 逆にモンスターが小物であれば近隣の村などを拠点として少人数で動くこともあります」


 そしてVはモンスターの前に数人分の人の絵を書く。

「世の中100%はありませんから、どんなに対策を練ったとしてもモンスターと戦えば負傷する可能性があります」

 そう言って一人の右腕をこすって消す。

「仲間が最前線でモンスターに襲われ右腕を落とした。この場合どのような対処が正しいか。わかりますか?」

 困惑する生徒。


「その場でできる限り最善の治療を施すこと、いや、違いますね。なんとなくですけど」

 一人の生徒が挙手をしてそう答えた。

「これは冒険者業の試験で出される典型的な引掛け問題ですからね。経験もないのに違うと気付けるのは立派です」

 Vはそう言ってオークの首にバッテンを書く。

「最初に行うのはできる限りの安全の確保、つまりモンスターの討伐、もしくは追い払うか足止めすることが最優先です。治療はその次となります」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る