第74話 ナンバー2
「そう怖い顔をするな。別にだからどうこうするという話でもない。ただ、君の力をもう少し見てみたいと思っただけさ。――で、ここからが重要なんだが‥‥‥」
キャンサーは深刻な顔で俺の耳元に顔を近づける。
「――クローディアさんは来てるのか? 是非ご挨拶を‥‥‥」
「まだ言ってんのか! 会わせねえよお前とは!」
「やっぱり来てるのか! 頼む、会わせてくれ! 未来の嫁さんかもしれない!」
「キャンサーさん、昨日も別の人にそんな感じのこと言ってなかったっすか?」
「相性は日によって変わるものさ! なあ教えて――」
俺はしつこく肩を揺らしてくるキャンサーの手をはねのける。
「うるせえ! 人の保護者を何だと思ってんだまったく‥‥‥絶対教えないからな! 勝手に探せ!」
「おいおい、急に言葉遣いが悪くなったぞ」
「そりゃなるっすよ、大人のこんな気持ち悪いところ見たら誰だって」
「――おい、貴様それ誰のことだ?」
キャンサーがサジタリウスの胸倉をつかむ。
「ぎゃーこっちに矛先向けないでくださいっすよ! 何なんすかもう毎度毎度!」
「――じゃ、じゃあ俺はこれで‥‥‥後はごゆっくり!」
俺は二人があーだこーだ口論している間に、そそくさとその場を後にする。
ったく、本当いろんな奴が見に来てるな‥‥‥。
まさかゾディアックの奴らまで来てるとは。
まあということはアビスの連中が自分で言っていた通り今は何の動きもないと思っていいのかな。そっちの動きも別の人が追ってるみたいだし‥‥‥。
彼らが厄介ごとに巻き込まれてるってのは本当なのかもしれない。
とりあえず俺はこの新人戦を楽しもう。
サイラスも言ってたしな。
結局その後今度はクロとユフィに捕まり、戦いがどうだっただとか、かっこよかっただとか茶化されなんともむず痒い気持ちで急いで生徒用の応援席に戻る。
やばい、かなり遅くなってしまった。ドロシーの試合が始まってるどころか終わってるかもしれない‥‥‥。
「おいおい、随分上機嫌だな」
そう声を掛けてきたのはあの煽り男、リュークだ。
丁度控室に向かうところだったようで、相変わらず偉そうに腕を組んでいる。
「リューク‥‥‥」
「はっ! まさか貴様がなあ‥‥‥」
リュークは嘗め回すように俺の身体を見る。
「な、何が言いたいんだよ」
「いや、何。俺様の眼中にはベルベットしかいなかったが‥‥‥まさか貴様があのユンフェを倒すとはな。もっぱらの噂だぞ、汚い手を使っただの、弱みを握ってただの」
やっぱそうだよなあ。
まあ好都合っちゃ好都合ではあるが。
「‥‥‥噂なんてどうでもいいさ。偶然だよ。運が良かっただけさ」
するとリュークはビシっと俺を指さす。
「俺様を甘く見るんじゃない。貴様の実力くらいあの戦いを見ればわかる。‥‥‥まさかウルラのナンバー2は貴様だったとはな。まったく、まんまと騙されたよ」
ナンバー2ねえ‥‥‥。
「そりゃどうも。まあでも、俺にはお前がリオルに勝ち越してるっていう事実が胡散臭いけどな」
するとリュークの額がピクピクと痙攣する。
「ほ、ほう‥‥‥貴様俺様に喧嘩を売ってるのか?」
「先に売ってきたのはそっちの方だった記憶だが」
「減らず口の多い男だ。‥‥‥まあいい。貴様の所の次の相手は俺様が瞬殺しておいてやる。その後にお前の番だ。お前は俺の全力を持って徹底的に潰してやる。覚悟しておけ。周りはユンフェとのタイマンを期待していただろうが、致し方ない」
「倒せるもんならな」
「ふん、精々楽しませてくれるといいがな」
そう言ってリュークは足早に控室へと入っていく。
まったく、良く分からねえ奴だ‥‥‥。
リオルに勝ったってのも実際どうやって勝ったのか怪しいもんだぜ。寝込みでも襲ったんじゃねえのか?
「ギル君‥‥‥前哨戦でもしてたの?」
次にお出まししたのは、ミサキだ。
そうか、リュークと対戦だ、そりゃ来るか。
「そんなところだ。はぁ、困ったやつだよあいつは。‥‥‥ミサキ、俺は期待してるぜ」
「何、まだ私に殻を破らせようとしてくれてるの? ‥‥‥お人よしが過ぎるよ。そのせいでギル君、かなり目を付けられてるみたいじゃない」
「まあそれは否定できないけどな。だからこそ、今更引き下がれねえのよ」
「‥‥‥」
ミサキは何かを考え込むように俺を見る。
「言いたいことはわかるけどよ、俺はそれだけお前が自分を出して戦えるようになるのが楽しみなんだよ。‥‥‥俺の見立てだと、お前が攻撃に使わなくてもリュークには勝てると思うぜ?」
「本当に?」
「お前も分かってるだろ?」
「‥‥‥ま、戦ってみないとわからないわね」
「今更とやかくいう気はねえさ。あとはお前の気持ち次第だ。俺は約束を守ったぜ? 次の試合で待ってるよ」
「そうね。せっかくギル君が
そう言ってミサキは軽く微笑む。
「――おう、がんばれよ」
そうして俺は控室を後にする。
あとはミサキの問題だ。きっとSOSを出してくれたミサキなら、この闘いを乗り越えて俺と全力で戦ってくれるはずだ。
俺にしかできない役割が、その後に待っている。
いろんな想いを背負ってるな、この大会は。
――あれちょっとまて、ミサキとリュークが控室に来たという事は‥‥‥やべ、ドロシーの試合!!
◇ ◇ ◇
急いで選手用観客席に戻ってくると、ズーンと肩を落としたドロシーがちょうど席に座るところだった。
「ド、ドロシー‥‥‥?」
死んだような顔で俺を振り返るドロシーは急に顔を般若の様にして声を張り上げる。
「あ、あんたどこ行ってたのよレンのお見舞い行ってから!!」
「あーちょっといろいろな奴に捕まっててだな‥‥‥」
ドロシーは俺の両肩をグイっと掴む。
「何やってんのよもう!! あんたが応援来ないから負けちゃったでしょうが!!」
ドロシーは今にも泣きそうなのか、怒りで目が真っ赤になっているだけなのか、とにかく取り乱していた。
「は、はぁ? ええ‥‥‥いや負けたのは残念だけど、それ俺の応援のせいか?」
するとドロシーはハッと我に返り、急に顔を歪ませる。
「い、いや、その、あんたの応援が無かったせいとかいう訳じゃ全くないけど‥‥‥」
「いや今そう言ったじゃん――」
ガンっ! っとドロシーが俺の脚を蹴る。
「痛っ!」
「少しは察しなさいよ! あぁもう! こんなところで負ける予定じゃなかったのに!」
「まぁ応援できなかったのは悪かったよ……よく頑張ったな」
ドロシーの顔がさらに真っ赤になる。
「急にそういうのもやめろ、気持ち悪い! も、もう、知らないから! ギルなんかミサキに負けちゃえ!」
「子供か!!」
ドロシーは一通り怒って急に恥ずかしくなったのか、ぷんぷんと頬を膨らませ席に座る。
ったく、前はもっと孤高だったのに変わったよなあドロシーも。
それに、素直じゃねえが、ドロシーもミサキが次の試合で勝ち残ると信じてるのか。
ミサキ、お前は他人に興味ねえって言ってたけどよ、これだけ応援してくれてるやつがいるぜ? がんばれよな。
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