第1話 会長がやって来た
通学路。そして今。
俺の周りは、にわかにざわついていた。
「ねえ、あれ会長じゃない?」
「な、何故
「き、きっと見間違いですよ、あはははははは」
「神よ、どうかあの男に天罰を」
「どうやら神は俺たちを試しているらしい」
と、なにやら種々様々な噂話もとい会長に関するあれやこれやの話が聞こえる。
どうやら俺の隣にいるのは会長で間違いはなさそうだ。
「会長」
「…………」
「俺、佐久間スよ?」
「…………」
返事がない。そして会長と呼ぶたびに睨みつけてくるのも変わらない。何故かそれと同時に前髪をちらちらと直しているのがとても気になる。
「じゃあ先に行きますね」
なんだか怖くなった俺は会長を巻くため、強歩した。
が。
「……」
「……」
会長も負けじと、俺の隣を歩いてくる。うん。これはあれだ。アクティブストーカー。
「ひぃ! 助けて!!」
「…………」
俺の悲鳴にすら屈することなく会長は俺を追いかけて来る。俺は急ぎ足で、自分の教室へと入った。
× × ×
「…………」
「……」
「……なんだそれ」
突っ込み。自席へとつき、大地と顔を合わせていると、ぽかんとした大地が真っ先に放った。
「良かった、お前には見えるか。俺しか見えてなかったらどうしよかと思ったぞ」
「見えない奴がいるのか?」
「あ、あんたこいつが見えるのか……!?」
「特殊能力に目覚める主人公を示唆するおっさん止めろ」
しかしなんでこんなことになってしまったんだろうか。
「佐久間、お前また何かやらかしたんじゃねぇのか」
「覚えがなさすぎる」
「そしてなんで会長はさっきから何も喋ってないんだ」
「分からん。伝えたいことがあることまでは分かるが、肝心の伝えたいことが全く伝わってこない」
「何か話しかけてみろ」
俺は大地に言われるがままに、会長と相対した。さっ、と、会長が視線を逸らす。俺は意を決して、会長に話しかけることにした。
「会長、あだ名とか何ですか?」
「合コンの触りか」
「因みに俺は側転マックスドリアン」
「あだ名の理由が気になりすぎる」
大地が合いの手を入れてくる。会長は依然として口を開かない。いよいよ会長が口を開くまで話しかけるべきか。
「会長、おにぎりとトーストどっちが好きですか? ちなみに俺はそうめん」
「文脈の成り立っていない質問をするな」
「うどんでも可」
「情報量ゼロの備考」
「会長、今から英語喋ったら負けにしません?」
「勝ち目のない戦いを挑むな」
「……この変態っ!」
「まるで身に覚えのなさすぎる罵倒」
「ご来店は何名様でいらっしゃいますか?」
「一名以外ないだろ」
「二名様ですね、かしこましました。こちらへどうぞ」
「店員が霊能力者」
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「あるある敬語間違いを再現するな」
「す、すみません! マックスドリアンという商品は当店には置いてないんです!」
「あだ名の由来は絶対これだ」
「かかか会長、お好きなしりとりしませんか?」
「およそ存在しない概念」
「買うだけで幸せになる壺があるんだけど、どうだいお嬢ちゃん?」
「同級生に怪しい壺を売りつけようとするな」
「へへへお嬢ちゃん、良い体してるね。二万でどうだい?」
「同級生を売春しようとするな」
「じゃあ二万百、二万二百!」
「価格交渉が商店街」
「あなたは神を信じますか?」
「ヤバい人オールスターズ止めろ」
「皆ぁ! 狼だ! 狼が出たぞぉ!」
「狼少年の襲来」
「あなたは狼を信じますか?」
「奇跡のコラボレーション」
「この桃痛んでなくて? 値引きして下さらない?」
「価格交渉おばちゃん止めろ」
「このマックスドリアンも傷んでるわね」
「マックスドリアンの再来」
暫く声をかけ続けてみたが、会長は無反応だった。大地は困り顔で俺に視線を向ける。
「おい、全然反応しないぞ」
「お前が毎回途中で口挟むからこうなってんだろ! 黙っとけよ!」
「分かった」
俺は再度、会長に向き直った。
「会長、今日は何しに学校へ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「いや、勉強だろ」
「おいぃぃ!」
会長に質問して一分が経過しようとした時、大地が口を挟んだ。
「もうここまで出かかってたんだよ、ここまで! お前がまた邪魔するから会長が喋らなかっただろうが!」
俺は自分の喉元を指さす。
「いや、多分あのまま待ってても事態は変わらなかったはずだ」
「そういう勝手な決めつけが生徒の自主性を損なうんだろうが!」
「なんでちょっと口挟んだだけでこんなに怒られてるんだ」
「会長がまだ考えてる途中でしょうが!」
「終わりが見えなかったぞ」
「ラーメンがまだのびてる途中でしょうが!」
「早く食えよ」
大地と口論をしていると、会長はゆっくりと後ずさり、教室を出て行った。
教室がざわざわしている気がするが、こういう時に動揺すると俺に非があるかのように疑われる。堂々としているのが良い。
「なんだったんだ、一体……」
「お前が何か悪いことしたんだろ。よく思い出してみろ。生徒としてあるまじき行為をことをしていたはずだ」
「悪いが全く身に覚えがない。お前の弁当についてた醤油を黙って使ったことくらいしか覚えがない」
「てめぇこの野郎、ないないと思って店員のミスかと思ったらお前のせいだったのか」
俺は大地に怒られ、授業の準備を始めた。
本当に、一体何だったんだ。
× × ×
そして当日の昼休み。
会長の襲来もすっかり記憶らから抹消された俺は一人でトイレへと向かっていた。
「サインコサインタンジェント。あなたの頭はインテリジェント。そして俺たち超ジェントル~」
特にやることもなかったので最近予習して覚えた三角関数を口ずさむ。壁を曲がった先にトイレがある。
「昼休み短ぇ……」
「佐久間くん!」
「うわああああぁぁぁ!」
トリプルトゥーループ。壁を曲がった直後、突如として俺の眼前に姿を現した会長に驚き、華麗なジャンプを決めてしまう。世界を目指せる得点が出たに違いない。
会長は最初からここにいたんだろうか。
「ちょっと、話が……」
「助けてくれええぇぇ!」
何をされるか分かったものではない。俺は踵を返し、大地に下へと逃げ帰った。
「大地、出た!」
クラスに戻った俺はすぐさまドアを開け、言った。大地は流し目でこちらを見ている。
「何がだ」
「温泉!」
「良かったな」
「そんなわけないだろ! 会長だよ、会長! 助けてくれ!」
俺は大地に泣きついた。
「僕、大地が帰って来ても嬉しくない! これからもずうっと大地と一緒に暮らさない!」
「おい止めろ、実現するだろ。会長はどこだ」
「……」
振り向いたが、会長の姿が見えない。
「消えた……?」
「会長のことばかり考えすぎたんだろ」
「ねえ、会長って妖精なの?」
「なんでメルヘンチックな答えなんだよ」
どうやら会長は帰ったようだ。
「お前と一緒にいると会長が出て来ない」
「本当に妖精みたいだな」
はあ、と俺は大きなため息をつき、また自席に戻った。
どうやらこの受難はまだまだ続きそうだ。
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