夕飯
さて、色々躓きはあったものの、この世界の説明をしていこうと思う。
「まずは、簡単に説明するけど……この世界は、ある種のパラレルワールドでもあり、俺専用の異空間でもある」
サファイア色に透けながら、俺たちの足場として浮遊する
そこから見渡す限りに、幻想世界の代表とでも言うかのような世界が広がっていた。
「あそこに見える湖が、この世界の中心。あそこの上空から見渡せる距離までが、俺の世界の領域。その外は、また別の領域が広がっている」
異空間とは、世界と世界の狭間に存在する異次元のことだ。
特殊な魔法を扱える者たちだけが所有できる世界で、行使できる力も、領域も、何もかもがその魔法の練度によって決まる。
というのも、この世界における法則そのものが、その魔法だと言えるからだ。
その魔法を使ってカラスは白だと言えば白になり、雲は沈んでいると考えれば真下に現れる。
だからこそ、自分だけの世界と呼べるものなのだ。正確に領域を定めていないと、他者の法が絶対の世界へ迷い込んでしまうことになる。
それぞれの世界の主をそのまま世界主と呼び、彼らの一存で何もかもが決まる世界なのだ。
ちなみに、かくいう俺の世界はかなり小さい方だったりする。
そこまで説明したところで、美奈さんから声を掛けられた。
「あ、あの……」
「ん?」
「話に付いていけないんですけど、その……さっきから言っている魔法って何なんですか?」
まぁ、気になって当然だとは思う。
「んー、それについては、説明できないな」
「あ、えっと、その……すみません」
「いやいや、別に謝んなくていいぞ。この魔法のことを説明すると、所有権が奪われるからな。って言っても、美奈さんの魔力量的にかなり小さいのだけど」
なんたって、俺がそうして領域を得た訳だし。
勇者として召喚されてすぐに、神とか名乗る世界主に拉致されて、この世界で殺されかけた。もちろん、修行って名目で。
主の意思こそが全てだ。時間軸を、およそ無限大まで変革することだって造作も無い。まぁ、それには俺の数百倍の魔力が必要な訳だけど。
「そ、そっか……」
「ん、私も欲しい」
「そうなんだ……」
「やらんぞー」
「ん、良い」
(妙に諦めが早いな……)
若干怪しい。
横目を送ると、コクリと首を傾げるネミ。ちくしょう可愛い。
(それに……)
そのまま視線を動かすと、ぎこちないながらも小さく笑う美奈さんの姿がある。
ネミという同性が居たおかげで、馴染むのが簡単のようで良かった。
「さてと、それじゃあ一旦休憩するか」
ある程度異空間を見た後、元の世界に戻って来た。
時刻はおよそ7時頃。流石に暗くなってきている空を横目に、夕飯となった。
美奈さんも同席し、食事くらいは楽しく食べようということで、俺が豪勢に食事を作っている最中だ。
「え、ネミちゃんって料理できないの?」
「ん、――」
「うわぁっ!? あ、でもでも羨ましいかも……」
女三人寄れば姦しいとは言ったものだが、二人でも十分に楽しそうだった。っていうかネミ、いつの間に美奈さんとあんなに仲良くなったのだろうか。
この世界に来て、大きく成長したのはネミの対話力かもしれない。
にしても、どんな事を話すのだろうか。元凡人の俺に女子の会話というのは謎である。
時より、会話の内容……主にネミの喋る部分が小さくなり、その後に美奈さんから歓声もとい黄色い悲鳴が挙がる理由を知りたい。
異世界産の肉によく熱を通して、大胆にこれもまた異世界産のソースに浸す。
その後、もう一度簡単に焼きを入れて、ちょっと焦げ目ができたくらいが丁度いい。
レタスで飾り付けをして上からさらにソースを掛ければ、我流の焼肉が完成した。
「できたぞー」
「あ、うわぁ……これが噂の……」
「ん、豪華だね」
「さんきゅ。って言ってもまぁ、実費は凄い少ないけどな」
便利な異空間に、食糧も全部突っ込んであるからな。
「さて、それじゃあ――」
全員がしっかりイスに座ったのを確認してから、手を合わせる。
ちなみに、ネミも2日で完璧に覚えたみたいだった。何気に適応力が凄い。
「「「いただきます」」」
一口肉を頬張り、米も放り込むように口に入れる。
溢れるような肉汁と、仄かな塩気から染み出るタレの旨味、肉本来の旨味の濃縮されたような味が口一杯に広がって――
「ん……!」
「……!」
「ははっ」
『美味しいか?』なんて聞かずとも、二人の顔が熱弁に物語っていた。
美奈さんも、さっきの数倍くらい輝いた顔をしている。
やっぱ飯が一番だなと思うと同時に、この後の質問で重い雰囲気に戻ったらと考えると、少し勿体無い気がした。
さりとて今は食事が全て。肉は有限なり。
「俺の分まで食おうとすんなっ!」
「無理」
料理できないくせに他人の肉まで頬張ろうとする不届き者の天使と格闘しつつ、俺は久しぶりに豪勢な夕食を楽しむことができた。
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