第19話

「で、さっそくかついつものことだけど……」


「?」


「どこから行くの?」


エイリーンは自信満々に言う。


「今回は行くべき場所はわかっています。神具は東西南北それぞれの大陸に封印されていると聞いています。コウルの思う方角から行けばいいと思いますよ」


「東西南北かあ……」


コウルは考える。別にどこから行っても問題はないのだが。


「そうだ」


コウルは適当な棒を拾うと、まっすぐに立てる。そして棒はこけた。


「よし、あっちだ」


「いいんですか。そんな決め方で」


「い、いいの! 道に迷ったらこれが一番!」


「あちらは……西の大陸ですね」


二人はさっそく、塔から離れ西へ向かう。


その様子を遥か高みからエルドリーンが見ていた。




二人は西の大陸に着く。そこは――。


「寒い!」


二人は広大な砂漠にいた。昼の砂漠は暑いが、この世界は常時暗い。闇の太陽は暑さではなく寒さを振り下ろす。


「夜の砂漠は寒いっていうけど、この世界、常時夜のようなものじゃないか……」


「そうですね。……そうです!」


エイリーンは少し恥ずかしそうにした後、突然コウルに引っ付いた。


「エ、エイリーン!?」


「その……くっつけばあったかいでしょう?」


「そ、そうだけど……」


そう言いながらも、コウルは自ら身を寄せた。


マントに包まれた二人は寒い砂漠でも暖かく感じた。




二人はひとつの洞窟に入る。


エイリーンが言うには、その洞窟に神具が封印されているとのことだった。


「砂漠で洞窟かあ」


「なにか心当たりが?」


「いや、罠が多そうだなって」


フィクションで、砂漠の洞窟といえば罠が多いのがコウルのイメージだった。


「では、気を付けていかないといけませんね」


「うん」


そう言って二人で歩き出した時だった。二人して足元の何かを踏んだ。


「え?」


「さっそく何か踏んじゃいましたね……」


二人の進行方向の道と来た方向の道が閉まる。


「閉じ込められた!?」


「コウル、砂が!」


閉じられた部屋に砂が降り積もる。


「こ、こういう場所は罠を解除する仕掛けがあるはず!」


二人で壁や床を調べる。しかし何も見つからない。


「こうなったら!」


コウルは女神聖剣を呼びよせる。


「コウル、こんな所では……!」


「大丈夫。手加減するから!」


軽めに、しかし魔力を込め、コウルは聖剣を叩きつけた。


閉じた壁が崩れ、道が開ける。


「よし、行こう!」


壁を抜け、洞窟の奥へ進む二人。


だが、ことあるごとに罠を踏んだり、押したりしてなかなか先に進めない。


「もしかしなくても、全部の罠にかかってない……?」


「そうかもしれませんね……」


二人はボロボロになりながらも奥に進む。そしておそらく一番奥。そこには剣が飾られていた。


「ありました!」


「待って、また罠があるかもしれないよ」


「そ、そうですね。慎重にいきましょう」


二人でそっと警戒しながら近づく。罠らしき反応はない。


「剣の前までは来れましたね」


「絶対、取ったら罠が作動するタイプだ……」


しかし取りに来た以上は取るしかない。コウルはそっと剣に手を伸ばす。


すると二人の周りを光が包み、剣の台座と一緒に床がせり上がった。


「うわわ……?」


二人と剣を乗せせり上がった床は、吹き抜けの天井を抜け外に出る。


「これは……」


コウルとエイリーンは周りを見渡す。


二人を乗せた足場は、洞窟を貫き塔のようになっている。


すると声が響いた。


『汝ら、我を望むか』


「声、どこから?」


「これは……封印されし神具の意思?」


「神具の意思?」


神具の意思は語る。


『汝、我を望むならば力を示せ』


声が静まると、飾ってあった剣がひとりでに動き出し、二人に迫る。


「危ないっ!」


コウルはとっさに剣を抜くと、飛んできた神具の剣を弾く。


だが、剣は構わずに、引き寄せられるように、また二人に向かってくる。


「ただ、弾くだけじゃダメか。どうする……?」


「わたしが」


エイリーンが魔力を集中し、向かってくる剣に向ける。


凝縮した魔力が、剣を抑えつけるように動きを封じた。


「これなら……?」


だが剣は暴れるように、動こうとする。


「エイリーン、そのまま抑えていて!」


コウルは抑えられている剣に近づくと、その剣を握った。


「はああっ!」


抑えられている剣を、コウルはさらに自分の魔力で抑えつけ握る。


しばらく暴れていた剣も少しずつ大人しくなり、コウルの手に収まった。


「これで……?」


『よろしい。汝を我が主と認めよう』


その声と共に、せり上がっていた洞窟の床は降り、二人は洞窟へ戻っていく。


「無事に神具の剣が手に入りましたね!」


「うん、まあ。ここから帰るのが大変そうだけど……」


コウルは来る時の道のりを思い出しため息をつく。


「上、開いてますから飛んでいけるのでは?」


「あっ」


最初から飛んで、こっちを見つければよかったと、二人は息を吐くのだった。




「この後はどちらに行きましょうか?」


「順当に行くなら、次は北か南だね」


コウルはコインを取り出すと――。


「表が出たら北、裏が出たら南!」


そう言ってコインを投げた。


コインが指したのは……。


「表。北へ行こう!」


二人は北の大陸へ向け飛び立とうとする。だがその時、地面が揺れた。


「これは――?」


「飛んで抜けたから罰が当たったとか――?」


だが、それは関係なかった。


砂漠から巨大なモンスターが出現したのである。


「で、でかい!」


「砂漠に住むといわれる大型モンスター『サンドゴクン』! 大口で飲み込んくるモンスターです。逃げましょう!」


エイリーンはコウルを抱えると一気に飛び立とうとする。だが、サンドゴクンは大きく息を吸い込んだ。


「エイリーン、吸い込まれる!」


「この吸い込みの勢い……並みじゃありません!」


エイリーンは必死に飛び立とうとするが、どんどん吸い込まれていく。そして――。


「うわあっ!」


「ああっ!」


二人はサンドゴクンに飲み込まれてしまうのだった。

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