第17話
コウルとエイリーンは『風除けのマント』を入手するため、それを持つという商人を探しに出た。
町の北東の山はさほど遠くはなかったが、その山はかなりの絶壁であった。
「高いね……。こんな所に、商人なんているのかな?」
「ですが、他に情報はないですし」
二人は覚悟を決めて、険しい山を登り始める。
川を越え、岩を越えたあたりで雨が降り始めた。
「海では嵐、山では雨かあ」
二人は慌てて、ちょうどよくあった洞窟に駆け込んだ。
「元々、嵐のせいで濡れていたので、雨宿りしなくてもいいのでは?」
「いや、せっかく乾いてきたのにまた濡れたくないからね。それに……」
コウルはエイリーンの方から目を逸らす。
雨に濡れたエイリーンの服が透けて、コウルは目のやり場に困っていた。
そんな時だった。洞窟の奥から突然声がした。
「いらっしゃいませー! アキナインの洞窟店へようこそー!」
「「えっ」」
二人は洞窟の奥を見る。
そこにはひょうきんそうな男が、様々な道具に並べて座っていた。
「あの……これは?」
「あー、お客さん。客じゃなくて雨宿り?」
雨宿りに入ったのは事実だが、なんでこんな場所にとコウル思う。
「入り口に看板置いてあったでしょ?」
男『アキナイン』がそう言うので、コウルは洞窟の入り口に出る。
そこには確かに『アキナインの店洞窟』の看板が置いてあった。
「こんな所で店……?」
「へい、人が来るタイミングではどこだろうとお店です」
「へえ……」
コウルとエイリーンは感心する。そして聞いた。
「あっ、そうだ。町の人に聞いてきたんです。『風除けのマント』ってありますか?」
「へい、風除けよマントですね。50000GTPになりやす」
「「えっ」」
二人は驚愕した。女神世界と邪神世界ではTPからSTPさらにGTPと金の単位が上がっていく。50000GTPは凄まじい高額である。
「一応、確認してみる?」
二人は持っている財布を漁ってみる。とても足りる金額はなかった。
「ないです? なら残念ながらダメで……うん?」
アキナインは真剣な表情になり、コウルの剣を見た。
「少年、その剣をちょっと見せてくれないか」
「え、はい」
コウルは腰の剣を差し出す。
アキナインは剣を抜くと、それを品定めするように眺める。
「こ、これは『サファイアミスリル』の剣ではないですかー!?」
アキナインは驚愕の声を上げた。
「『サファイアミスリル』って……?」
コウルが聞くと、エイリーンも驚いた表情で剣を見つめていた。
「聞いたことがあります。『サファイアミスリル』……。女神世界では幻と言われる金属のひとつです」
「ええ!?」
自分が持っている剣がそんなレア物だと知り、コウルも驚く。
「でも、ジンさんはそんなこと何も……」
「知らなかった……なんてことはないですよね?」
「ジンさんに限ってそんな……」
二人は考えるが、それを無視してアキナインは続ける。
「こ、この剣なら、マントと交換……いえこっちが金とマントを渡せるくらいですよ!」
「そ、そんなに?」
今は確かに風除けのマントが必要。しかしジンの形見である剣をそう簡単には渡せない。
「それに僕のメインの武器だし……」
そう。女神聖剣があるとはいえ、普段コウルはその剣を使っている。渡してしまうと予備がない。
「そうです、商人様。この剣を預けますので、しばらくこのマント貸してもらうことはできませんか?」
「へえ? まあ、うちはそれでも構いませんが」
「えっ」
あっさり許可が下りてコウルは驚く。二人は風除けのマントを一時的に手に入れた。
「でもよかったのかな。こんなあっさり貸してもらえて」
「大丈夫です」
エイリーンは言った。『アキナイン』は一部で有名な何でも屋で、その商品と商売には安全性が高いとのことだった。
風除けのマントも剣を預けている以上は、十分に貸してくれるだろうとのこと。
「でも、これでモンスター戦は女神聖剣頼みだね」
「そこはコウルを信頼しています」
二人はいつものように照れながら、町に戻るのだった。
町に戻ると、二人は早速飛び立つ。
風除けのマントを二人で覆いかぶさって。
「この被さり方、変じゃない?」
「仕方ないです。マントは一人分のサイズですから」
掴まりつつ、マントの中でもごもご動くコウル。
しかし、マントの効果は抜群だった。嵐の風が避けるように、コウル達の道を作る。
前回よりも早くモンスターの元にたどり着いた。
「うん? いつぞやの二人か。また吹き飛ばされたいようだな」
モンスターはすぐさま二人に暴風を起こす。
だがその暴風をも、風除けのマントは切り開く。
「コウル、今です!」
「うん!」
マントの下で、コウルは聖剣を取り出すと、二人で突撃する。
「はあああっ!」
二人の突撃が、モンスターを貫く。
「ぐがっ……馬鹿な」
モンスターがそのまま消えると、周りの嵐はなかったかのようにすぐに収まった。
「坊主、嬢ちゃん。本当にやりやがったのか」
町に戻ると、男が他の町人と待っていた。
「ええ、なんとか」
「風除けのマントってのが本当にあったとはなあ」
二人が外したマントを見て男は呟く。
「信じてなかったんですか?」
「いや、そうそう都合のいい物が手に入るなんて思ってなかっただけだ」
男は笑うと、他の人に呼び掛ける。
「おーし、今日は宴だ! 俺らみたいなごついのしかいないが、飲んでいけ、坊主、嬢ちゃん!」
その日、二人は屈強な男たちに囲まれ、たっぷり飲み食いさせられるのであった。
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