第9話
「そしてわたしはその下に仕える、女神見習いエイリーン・エイナールです」
「女神見習い……? エイリーンさんが?」
女神エイナールと女神見習いエイリーン。
とてつもない真実にコウルは驚愕する。
「驚くのも無理はありません。女神などと言われても信じられないでしょう」
エイナールは優しく言う。
だが、コウルには思う節がいくつかあった。
自分を助けた回復の光。ジンさん曰く、自分以上の凄まじい魔力。
それはエイリーンが女神見習いという証明ではないのかと。
「女神だということは信じます。じゃあ、何故、エイリーンさんはあの荒野で倒れることになったのですか?」
エイナールに問う。それにもエイリーンが口を開く。
「わたしは女神見習いとして、この世界の危機になりえるもの、カーズを倒そうとしたのです。結果は以前話したとおりですが……」
女神見習いとして。それがエイリーンと出会うきっかけ。コウルはそれを心に留める。
「じゃあ、最後に。ここに来れたので、エイリーンにも力が授かるのですか」
コウルがリヴェルの所で修行したように、エイリーンも修行し力をつける。そうなるのだろうかと。
「それはもちろんです。ただしコウル。それには貴方の協力も不可欠です」
「僕の……?」
「ええ、ただまずはエイリーン。貴女から」
「はい。コウル様は少しお待ちください」
エイリーンはエイナールに案内され、何処かへと向かう。
「貴方はお部屋にご案内します」
ワルキューレに連れられ、コウルは神殿の客室に案内される。
「客室を使うのは久しぶりのことです」
ワルキューレは無表情のまま言う。
その道の途中である。
「あら、あなたがエイリーンが連れてきた人ね?」
突如、コウルに話しかけてきた少女。その姿はーー。
「エイリーン?」
その少女はエイリーンにそっくりだった。エイリーンよりも少し目が鋭く、話し方はやや強い口調だったが、雰囲気が似ているとコウルは感じた。
「私は『エルドリーン』。縁があったらまた会いましょう」
エルドリーンはそう言うと去っていく。
「彼女は?」
コウルはワルキューレに聞いてみた。
「エルドリーン様。エイリーン様と同じく女神見習いです。……女邪神見習いですが」
「えっ」
最後に小さく呟かれた『女邪神』という言葉に、コウルは驚く。
邪神見習い。そんな見習いがいて大丈夫なのだろうかと。
「邪神様も神様です。問題はありません。おそらく」
「おそらく!?」
無表情なワルキューレの頼りない返事に、コウルは不安を隠せない。
そんなコウルに、ワルキューレはさらに驚くことを言った。
「大丈夫です。エルドリーン様とエイリーン様は姉妹ですから」
「え……ええっ!?」
(姉妹? いや姉妹なのはいい。姉妹で女神見習いと邪神見習い?)
コウルの頭が混乱する。そしてなんとなく聞いた。
「ちなみにどっちが姉?」
ワルキューレは無表情のまま「そこまでは……」と言った。
「エイリーン。覚悟はできていますね?」
バルコニーのような場所でエイナールとエイリーンは話していた。
「はい。ですがコウル様は……」
「コウルを巻き込みたくないのですか? しかし今の貴女一人ではカーズには勝てません」
「それはわかっています。ただ……」
顔を赤くするエイリーンに、エイナールはフフッと笑った。
「大丈夫。彼も同じ気持ちですよ。きっと」
そう言うとエイナールは歩き出す。その後をエイリーンはついていくのだった。
コウルは部屋で本を読んでいた。
客室には退屈させないためか、本が大量に置いてある。
コウルは『神の系譜』という本をパラッとめくる。
「『女神。神属第三位に位置する神の一角。主に一世界を見守り、世界の危機に動く』か」
改めてエイリーンのすごさを感じ、コウルは寂しさを感じた。
ここまで来るのに早数ヶ月。コウルはエイリーンと絆を深めてきたと思っている。
だが、見習いとはいえ女神。そんなすごい人と自分が一緒にいていいのかと悩む。
悩みながらも、コウルは久しぶりのベッドの感覚に、眠りに落ちていくのだった。
「……さ」
「う……ん」
「……様」
「あと……5分」
「わかりました」
ーー5分後。
「コウル様」
「……うん。……!?」
コウルが声に導かれ起き上がると……。
「ええええ、エイリーンさん!?」
コウルの前にエイリーンがいる。……ものすごい透けてる服で。
「え、あ、え? どうしたのエイリーンさん?」
下着が見え、コウルの視線は右往左往する。
エイリーンも顔が赤いのが、この時はコウルもわかった。
「コウル様は……」
エイリーンの言葉がそこで詰まる。何か言おうとしているが、恥ずかしくて言えない。それがコウルにもわかる。
その時、コウルは恥ずかしさなく、ただそうしてあげたいと思い、エイリーンを抱きしめた。
「コ、コウル様!?」
エイリーンが慌てふためく。
だがコウルは抱きしめたまま、小さく言った。
「好きです。エイリーンさん」
「!」
慌てふためき動いていたエイリーンが、驚きで止まる。そしてエイリーンもーー。
「わたしもです。コウル様」
エイリーンがコウルを抱きしめ返す。
しばらくの間、沈黙が二人を包んだ。
「と、ところで、なんでそんな格好でここに?」
冷静になって恥ずかしくなり、二人は背中合わせに座る。
エイリーンは言った。
「エイナール様が言っていたコウル様の協力……です」
「え?」
「わたしが力を得る方法。エイナール様の修行もありますが、もうひとつあるんです。それが『女神の契約』」
「女神の……契約?」
エイリーンが頷く。
「二人の……その、愛し合う男と女神が抱きしめ合うことでできる契約です。魔力がつながり二人はより強力な力を行使できるようになるのです」
「へえ。二人の……愛し合う人が抱きしめ合うことで……って。抱きしめ合う? つまり?」
「はい。契約は完了してしまいました」
エイリーンは恥ずかしそうに呟いた。
コウルも先ほどの自分を思いだし、また赤くなる。
「あはは……でも、よかった。エイリーンさんが、同じ気持ちで。」
「はい」
「それに……女神の契約って抱きしめ合うだけでよかったよ」
「それは……?」
「いや、契約っていうからもっとあんなことやこんなことをするのかと……」
そう言って二人はまた顔を赤くした。
「ごめん……」
「い、いえ……」
それから色々、二人で他愛のない話をし、いつしか二人は一緒に眠りに落ちた。
「おはよう、エイリーンさん」
「おはようございます、コウル様」
二人は一緒に起きる。恥ずかしさはあるが、これが契約であり恋人なのだろうと、二人は納得する。
「ところで、その、契約したんだし、様付けはやめない?」
コウルがそう言うと、エイリーンも。
「コウル様も、さんをやめませんか?」
と対抗する。
二人とも少し考え、お互いに向き直し。
「エイリーン」
「コウル」
二人で呼び合った。そして二人で笑い合う。
「改めてよろしくエイリーン」
「こちらこそ、コウル」
二人はじっと見つめ合う。が、それを、遮るように少しイラついた声が割り込む。
「お二人さん。そろそろいいかしらー?」
「うわあっ!?」
「きゃあっ!? エ、エルドリーン。驚かさないでください」
「いつまでも二人の空間にいるからよ」
エルドリーンは呆れたように言う。
「エイナール様がお呼びよ。早く行ってきたら?」
それを聞いて二人は大広間に向かう。残されたエルドリーンは小さく呟いた。
「エイリーン、そして……コウル」
「契約は無事済んだようですね」
女神エイナールは見透したように言う。二人はまた照れ合う。
「これで、貴方たちは十分な力を得ました。よって女神エイナールの許に命じます。カーズを倒す、または止めなさい」
「「はい」」
二人は同時に返事をする。
「場所は南の大陸。遺跡の塔」
「遺跡の……塔」
「南の大陸って……」
「はい、わたしたちが出会った、最初の大陸です」
それを聞き、目標を聞いていざ出発と思ったところに。
「コウル、エイリーン、これを」
エイナールがワルキューレに持ってこさせたのは服。コウルとエイリーンのため、エイナールが用意した物だった。
二人は早速、着替える。
「お似合いです、コウル」
「エイリーンも」
ただ、二人の服は余りにも薄着にコウルは思う。
「この服はエイナール様とわたしが女神の力を込めて作ったものです。見た目と違い防御力抜群、耐熱、耐寒、様々な攻撃、呪い等にも強い、万能の服ですよ」
「へえー」
さすがと、コウルは感心した。
「ありがとうございます!」
今度こそ出発。と思いきや。
「エイリーン、聖剣の説明はしましたか」
「あ、いえ。まだです」
エイリーンはコウルを向く。
「コウル、わたしに手をかざしてください」
コウルは言われたまま、エイリーンに手を向ける。するとーー。
「うわっ!」
コウルの手に剣が出現する。宝玉等がついた輝く大きめの剣。
「これが、契約者の力『女神聖剣』です」
「女神……聖剣」
「コウルがわたしに手をかざせば、その剣はいつでも現れますし、いつでもしまえます。あなたの思うタイミングで使ってください」
そう言うと女神聖剣は消えた。
「以上です。今度こそ、いいですよ」
「うん、じゃあ、打倒カーズに向け出発!」
コウルの声が神殿に響きわたった。
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