第6話
コウルたちはようやく船に乗ることができた。
さらに船長が助けてくれたお礼として、最高級の部屋に案内された。
「うわー! フカフカだ!」
コウルは高級ベッドの触り心地を確かめる。
ポムはベッドの上を飛び跳ねていた。
「すごいですね。一番いい部屋を、無料でわたしたちに貸してくれて」
「人助けは大事だね」
二人はベッドを堪能しながら、船長を思い浮かべた。
しばらくのんびり部屋で過ごす二人とポム。
エイリーンはベッドから降りると、コウルに声をかける。
「コウル様。外を歩きませんか?」
「え、うん。いいよ」
コウルは起き上がると、エイリーンと一緒に外に出る。ポムは気持ちよく寝ていたので布団をかけておいた。
二人で甲板に出て、船の進む海を眺める。
「風が気持ちいいですね」
「うん」
コウルはエイリーンを見る。
風になびく銀の髪。綺麗なエイリーンの横顔。
見ているとまた顔が赤くなりそうなので、再び海の方に向きなおした。
「船旅は快適かね?」
二人の後ろから声がして振り向くと、船長がこちらに来ていた。
「ええ、気持ちいいです。ここも、あの部屋も」
「ありがとうございます」
二人が礼をすると、船長は軽く笑いながら言う。
「いやいや、助けられたのは私だ。礼などせんでいいよ」
「それはそれ、これはこれです」
「そうかね?」
二人と船長はしばらくの間談笑する。その最後にコウルは聞いた。
「どのくらいの日数で着きますかね?」
「何事もなければ二日後には着くよ」
二日。それを聞いて、コウルは思う。
まずは力を得る。それが第一。だが、カーズは一体あとどのくらいの時間大丈夫なのか。
のんびりしているつもりはないが、コウルは時間が気がかりだった。
とある大陸。とある遺跡のような場所。
「魔力砲。完成まであと少しか」
遺跡の中心にそびえ立つ塔の中にカーズはいた。
その前には、遺跡の外観に合わない巨大な機械が存在している。
「魔力もだいぶ集まった。あとはそうだな……」
カーズの脳裏に二人の影が浮かぶ
「コウルとエイリーンだったか。あの二人の魔力をこれに捧げよう」
カーズの高笑いが遺跡に響くのであった。
順調な船旅かと思われたコウルたち。しかし――。
「……すごい雨ですね」
「外の風も強いね。嵐かな」
船が波で揺れる。船は嵐の中にいた。
ポムは怯えて、布団の中で震えている。
「天気ばかりはどうしようもないね」
「船は大丈夫でしょうか?」
「この船は大きくて頑丈そうだから大丈夫と思う……よ?」
頼りなくコウルは言う。
しかしコウルから見て、この船は元の世界の船と比べても十分立派な船だった。
沈んだりはしない。コウルはそう思っていた。
だが――。
「うわわ!?」
「きゃあっ!?」
船が揺れ大きく傾き、コウルとエイリーンは部屋の隅に滑る。
「やばそう……」
コウルが呟いたちょうどその時。
大きく風が吹く。船が揺れ傾き――。
「うわあっ!?」
部屋の扉が開いてしまい、水が押し寄せる。
コウルたちはその水に飲まれ流されてしまった。
「う、うーん……」
コウルが目を覚ます。
「ここは……? そうだ、エイリーンさん! ポム!」
周りを見渡す。
幸いなことにエイリーンは近くに倒れており、ポムは風船のように浜近くに浮かんでいた。
コウルはポムを拾うように持つと、エイリーンに近づく。
「エイリーンさん!」
コウルが呼びかけると、エイリーンはゆっくりと目を開けた。
「コウル……様?」
「大丈夫? 痛いところはない?」
エイリーンはゆっくり立ち上がる。表情が少し虚ろげだ。
「わたし……少しだけ思い出しました」
「え?」
「記憶……全てではないですが……」
「本当!?」
うなづくと、エイリーンはゆっくり語りだす。
「わたしは、以前はもっと力がありました。何故かまでは思い出せていませんが……。
そして、ちょうど先ほどの嵐のような時に、あの人、カーズと戦い敗れました」
コウルは以前、エイリーンがカーズを見たときに怯えたのを思い出す。
「どうしてカーズと?」
「わかりません。ただ、止めようとしていたのは間違いありません。
そして、その時に記憶を失い、コウル様たちに助けられたのだと思います」
コウルはそれを驚きの表情で聞いていた。
「エイリーンさん、きみは一体……」
だがそれは、今の二人にはわかることではなかった……。
「さてと、ここはどこだろう」
「あまり目的地から離れていなければいいんですが……」
コウルたちは荷物を抱え動き出す。
幸いなことに荷物は全部、コウルたちの近くに流れ着いていた。
「近くに人気はないね」
「ポム」
「ポム」
「ポムさん? どうしたのですか、二回も鳴いて」
コウルとエイリーンがポムを見る。そこにはポムが二匹いた。
「え?」
「ポムさんが……二匹?」
コウルたちが連れていたポムより明らかに大きいが、それは間違いなくポムだった。
「ポムポム」
「ポムポム」
二匹は会話するように鳴きあう。
しばらくするとポムたちが動き出す。コウルたちのポムが「ついてきて」と言うように鳴いた。
コウルたちは道もわからないのでそれについて行く。
しばらく歩いていると――。
「ポム」
「ポムー」
「ポム!」
「うわあ」
そこは、辺り一面の草原にポム、ポム、ポム。たくさんのポムの群れがいる。
「ポムさんの村……でしょうか?」
「そうみたいだね」
そう言っていると、コウルたちのポムと二匹の大きいポムがやってくる。
「ポムポムポム!」
「え?」
大ポムたちは何かお礼を言っているようだがコウルにはわからない。
しかしエイリーンは「まあ、そうだったんですね」と笑顔で答えた。
「わかるの?」
「はい。なんとなくですけど」
エイリーンの翻訳で、コウルたちが助けたポムは大ポム二匹の子供だとわかった。
ポム族はたまに長距離飛行をするが、そのときにはぐれてしまったとのことだった。
お礼に、その日はポムたちがもてなしてくれることになった。
「偶然流れ着いた先が、ポムの故郷だったなんてすごい偶然だね」
「そうですね」
ポムたちが祭りのように騒いでる中、コウルとエイリーンは笑い合う。
そんな中、数匹のポムがが食べ物を運んできた。木の実やら草やらを。
「……これ、僕たちが食べても大丈夫かなあ?」
ためらうコウルをよそにエイリーンは一口木の実をかじる。
「少し固いですがおいしいですよ、コウル様」
「そ、そう」
コウルも適当な木の実をかじってみる。それはたしかに甘くておいしかった。
二人はたくさんの食事をし、その日はポムたちと寝ることとなった。
「ポムたちが知っているかわからないけど、明日は道を探して出発しないとね」
「はい」
そう言って二人はゆっくり、数匹のポムたちに囲まれてだが、眠りに落ちた。
「ポムー!」
「! なになに!?」
急にポムたちが騒ぎ出す。何が起こったのかと二人は村の中心に出る。
そこには男たちが、ポムを捕らえ連れて行こうとしていた。
「お前たち、何をしているんだ!」
「あーん? なんだ、ポムの巣に人間のガキ?」
何故、自分たちのほかに人間がいるのか怪訝そうな目でコウルとエイリーンを見る。
「なんでガキがいるか知らねえが、邪魔すんじゃねえよ」
「ポムさんたちを捕まえてどうする気ですか?」
エイリーンが聞く。男たちは鼻で笑いながら言った。
「知らねえのかよ。ポム族の身体はいろいろ売れるんだぜ? 皮やら肉やらなあ」
「皮……? 肉……?」
二人は驚く。このピンクの可愛い生き物の皮や肉を売るという発言に。
「コウル様」
「うん」
コウルは剣を抜いた。
「お前たち。今すぐポムたちを解放して帰るんだ」
海賊の時と同じ。まずは無血での解放を問う。だが結果はわかりきっていた。
「ガキが。なめるなよ?」
男が一人。武器を構える。コウルはハッとした。
男一人、リーダー格の男が武器を構えただけで、他の男たちはポムを連れて行こうとしている。
「させないっ!」
コウルは剣を振り上げ連れて行こうとしている男たちに向かおうとする。
だが、リーダーらしき男が道を遮る。
「どいてっ!」
コウルが剣を振るう。しかしその一撃はあっさり受け流された。
「っ!?」
コウルはバランスを崩しかけるが、すぐに持ち直し再び剣を振った。
しかし男はそれをあっさりとかわす。
「やはりガキだな。攻撃が単調だ」
コウルは挑発に乗るように剣での攻撃を続ける。当たらない。
前の海賊は倒せたという自負がコウルを焦らせる。
「おらっ!」
「ぐっ――!」
男はコウルの隙を付き蹴りを入れる。攻撃を外し隙だらけだった腹に直撃する。
「自信があったようだが、俺はただの賊じゃあないぜ? 元はそこそこ名のある傭兵よ」
驚くコウルに、男は「今度はこっちがいくぜ」と剣を振るう。
自称元傭兵は伊達じゃない。コウルは防戦一方になってしまう。
「コウル様!」
戦う力がないエイリーンは見ることしかできない。
そのエイリーンの横に一匹のポムがやってきた。そのポムは他のポムとは違い、髭のような物が生えている。
「ポムポムポム」
「え、ですがわたしは……」
「ポムポム」
「わかりました。やってみます!」
コウルはとうとう剣が弾かれる。そして男の剣が振り上げられた時だった。
男に向かい光の弾が放たれる。男はそれを紙一重で避ける。
「エイリーンさん!?」
「コウル様は傷つけさせない!」
エイリーンが光の弾を大量に放つ。その光の弾は――。
「これは……魔力弾?」
以前、ジンが教えてくれた、魔力の弾による攻撃。それをエイリーンが撃っている。しかも連続で大量に。
どこにそんな魔力があるかはわからないが、コウルは剣を拾いなおすと男に向き直り――。
「今だ!」
男がエイリーンの魔力弾を避けたところを斬りつけた。
「がっ……てめえ」
「卑怯でいいよ」
「いや……あの女一体」
男は倒れる。こうなると残りは烏合の衆だった。
リーダーがやられるとは思っていなかったのか、ポムを離すと逃げ帰っていく。
「ふう……」
「コウル様。大丈夫ですか?」
ポムを皆助け、休憩しているところにエイリーンがやってくる。
「うん。大丈夫だよ。今日はエイリーンに助けられたね」
「あれは……あのポムさんが教えてくださったから」
「あのポム?」
「お髭のポムさんです」
村を見回す。髭のポムはどこにも見当たらない。
「ポムポム? ポム!?」
一匹のポムに聞いてみると、それはめったに姿を見せない長老ポムではないかとのことだった。
「長老ポム……。エイリーンさんの力になるために現れてくれたのかな?」
「そうかも……しれません」
(コウル様を助けたいと強く願ったから……)
エイリーンはそう思った。
翌日。
ポムたちに道を聞いてみると。
「ポムポム!」
「いいんですか?」
なんと親ポムが目的の大陸まで送ってくれるという。
その好意に甘え、二人はそれぞれポムに乗った。
「うわー!」
「わあ!」
二人を乗せたポムは飛び立つ。
新たな地。東の大陸に向けて――。
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