第5話

いざ迷いの森に向かうと決めたコウルとエイリーンであったが、その道のりは相当なものであると知ることとなる。


まず二人はジンが残してくれた地図を確認する。


「えっと、今いる町は……」


「ここではないでしょうか?」


エイリーンが地図の一点を指さす。


そこは、最初にコウルがエイリーンを助けた荒野からそう離れておらず、今の町に違いなかった。


「で、迷いの森は……。そもそも迷いの森なんて載ってるのかな?」


「あ、ここに書いてありますよ」


地図の東の一点。


そこには通常の地図の字とは違う、ジンが書いたらしき別の字で『迷いの森』と書かれていた。


しかしそこは――。


「遠いね……」


マスターは東の森と言ったが、東も東、海を越えた別の大陸にその森はあった。


「一応、神の塔も確認しない?」


コウルは地図の中心を見る。そこにはやはりジンの字で『神の塔』と書いてあった。


「こちらもとても遠いですね」


「世界の中心ってマスターさん言ってたしね」


二人は相応の道のりを覚悟し準備を始める。


幸いなことにジンはかなりのお金を残しており、二人はそれで町に買い出しに出た。


「食料はこれくらいでいいかな?」


食料を買い込み、袋に入れる。ジンの形見の革袋は大きく、数日は持つだろう。


「コウル様だけに持たせるわけには……!」


エイリーンの強い願いにコウルはしぶしぶ折れ、エイリーン用に少し小さい革袋を買い、そちらにも食料を分け入れる。


その他、薬や予備の寝具、旅人向けのマントを買った二人。


「じゃあ、いざ出発!」


町を後に、まずは北東の港町に向かうのであった。




町を出て数日のこと。


「ポ……ム……」


小さな音が、コウルたちの歩いていた道をすり抜ける。


「コウル様、今何か聞こえませんでしたか?」


「うん、何か鳴き声のような……」


二人が辺りを見回すと、エイリーンが岩陰に何かを発見した。


それは、小さいピンク色の丸い物体。いや生き物だった。


手には翼とも手ともいえるものが生えている。足はない。


「ちょっと待って」


コウルは袋から一冊の本を取り出す。


それはジンが残していた手記。彼がこの世界での情報を記したものだった。


それをパラパラとめくり、とあるページで止める。


「あった。この生き物は『ポム』だ」


「だいぶ弱っているみたいです」


エイリーンは手をかざしポムの傷を回復させる。


少しするとポムは目を覚まし二人を見た。


「ポ……ポム?」


見知らぬ、しかも人間だからだろうか。ポムは戸惑っている様子で後ずさる。


「大丈夫ですよ。こちらへ来てくださいな」


エイリーンが優しく呼びかけると、ポムは少しずつだが寄ってきた。


「ポムポム!」


「よしよし」


エイリーンに抱かれポムはなでられる。


「そのポムは子供みたいだね」


「そうですね」


「ポムー」


ポムはエイリーンから降りると、二人を見つめる。


「……懐かれてしまったみたいだけど」


「連れていきません?」


「え」


エイリーンとポムに見つめられ、コウルは仕方なく首を縦に振った。


「いいよ。連れていっても」


「ありがとうございます、コウル様!


「ポムー!」


二人がコウルに抱き着く。


コウルは顔を真っ赤にしながら、エイリーンとポムをどけた。


「じゃ、じゃあ、いくよ!」


赤面を隠すようにコウルは先に歩き出す。


その後ろをエイリーンとポムが追いかけるのだった。




港町についた一行。


さっそく船に乗るために港へ向かったが……。


「船が出ていない?」


定期船が出ておらず、コウルたちはさっそく足止めを喰らう。


「はい。それが、定期船の船長が昨夜から行方不明でして……」


それを聞いたエイリーンは「探しましょう」と一言。コウルも早く進むために船長を探すことにした。


二人で町の人たちに話を聞き、情報を集める。


そして二人が集めた情報で、近隣の海賊が怪しいと突き止めた。


「海賊か……」


海賊と聞いてコウルは悩む。


交戦になるかもしれない。その時自分は、人を斬れるだろうかと。




二人は海賊のアジトへ向かう。入り口には見張りらしき男が一人。


「どうします?」


「一人なら、気をひければ気絶させれるかも……そうだ」


コウルはポムを静かに呼ぶと、ポムを見張りの前に送り出す。


「うん? なんだこの生き物は」


見張りがポムに近づく。コウルはその隙に背後に回り込み、剣の鞘で強く殴った。


「がっ……」


見張りが気絶する。コウルはその場で謝ると、アジトに侵入した。




「コウル様、あそこです」


エイリーンが指さす方向には海賊らしき集団と、その奥に捕らわれている船長が見える。


「どうします?」


「……エイリーンさんはここで待ってて」


コウルはその場で立ち上がり堂々と、海賊たちに近づいた。


「あん? なんだてめえ」


海賊の親分らしき男がコウルを睨む。


コウルは一瞬、怯みそうになったが睨み返しながら言う。


「船長を解放してください」


海賊たちは笑う。少年一人が何を言っているのかと。


コウルはその笑いを無視し、剣を抜き海賊たちへ向ける。


「解放してくれないと、あなたたちを斬ることになります」


この発言はコウルの覚悟のなさがでていた。


諦めてくれればよし。ダメでもそれは自分の責任ではないと。


だが海賊は笑いながら、武器を取り出した。


「小僧、なめるなよ。てめえが剣を構えたところで怖くもなんともねえ!」


海賊たちが突撃してくる。


コウルは仕方ないと感じながら、全身に魔力を巡らせた。


(あの時の感覚を……!)


アンデッドではない。相手は人間。だけどやることは同じ。斬るのみ。


コウルは海賊の攻撃をかわすと、すれ違いざまに斬る。


血は出ない。出るのは魔力の光のみ。それがコウルに少しだけ安堵感を与える。


「てめえっ!」


海賊たちは武器を振り続けるが、コウルはそれをかわし斬ることを繰り返す。


そしてついに、海賊は親分を残すのみとなる。


「て、てめえ。何者だ」


「通りすがりの旅の者」


コウルが親分の武器を弾き飛ばしとどめをさす。その時だった――。


「きゃああっ!」


「!?」


コウルが振り向くと、エイリーンが海賊の一人に捕まっている。


その海賊は入り口で気絶させた見張りだった。


「エイリーンさん!」


「おっと、隙ありだぜ!」


親分が拳を振るう。コウルは避け切れずまともにくらう。


「っ!」


気絶しそうになるのをなんとか踏みとどまる。


しかし、エイリーンが捕まってる以上、手出しができない。


「おらおらどうした! さっきまでの勢いは!」


親分はコウルを殴り続ける。そしてついにコウルは倒れた。


とどめといわんばかりに親分は近くにあったオノを振り上げた。


「コ、コウル様ー!」


その時だった。エイリーンの身体が魔力の光に包まれる。光は海賊を吹き飛ばし、さらに親分に向け光が放たれた。


「な、なにーっ!?」


海賊の親分は光に飲まれる。その光の勢いは親分を吹き飛ばし壁に叩きつけた。


「コウル様っ!」


エイリーンはすぐさまコウルに近づき回復の腕をかざす。


「っ……」


コウルは目を覚ますと首を回してから言った。


「かっこ悪いところを見せちゃったね……」


「そんなことはありません! わたしが捕まってしまったせいでコウル様が……」


エイリーンは涙を浮かべながらコウルに抱き着いた。


コウルは照れつつもエイリーンの背中をなでた。


「……ポム」


「……いいかね?」


二人に近づいてきた、ポムと捕まっていた船長。


「うわあっ!?」


「きゃあっ!?」


二人はさっと離れる。お互いに顔が真っ赤だ。


「おほん。きみたちのおかげで助かった。礼を言う、ありがとう」


「あ、いえ」


船長がおじぎをする。


それを受け止めると、コウルたちは船長を連れ町に帰るのだった。

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