真魚座市環境浄化作戦
アレ
戦う目田波駄目男
◆
やあ!ぼくは目田波駄目男!丸出高校の生徒だよ!ぼくが住んでいる真魚座枝村団地は、合併した真魚座市のはずれにあるんだけど、すごいところなんだ!
何がすごいかって?そりゃあ、立派なところに決まってるさ!
いけない視線を許さないことを自治会で決めて、みんなで実践しているんだぜ!えらいだろ!さて、今日も、一発、決めよう!
通学路は今日も健全だ。ぼくたちがビラやチラシを見つけたらすぐ撤去するからだ。毎朝30分かけて見回りをしているんだよ。
近所の人たちも、できるだけ同じように、見回りや点検をしてくれている。だから、この街はいつも健全なんだ。健全ってすばらしいよね。
いけない、ゆっくりしていると遅刻だ!ギューンと走ってもあんまり速くはないかも知れない。でも、ぼくは、できるだけのことをするようにしている。どんなときも、どんなことも。だからズババババーンと走る。
あっ、しまった、走っていたら誰かにぶつかった!
「いったぁい…ああ、またあんたね。」
湿田蔓子。同じクラスの隣の席の、いろいろ口うるさいヤツだ。同じ保育園にいたことがあって、言ってみれば腐れ縁ってヤツかな?
しかも、こいつは、うるさいだけじゃない。ああいう視線を嫌がらないんだ。許せないよね、こういうヤツは!けしからんッ!!しかもいちいちうるさい!
「あんまり騒ぎを起こされるとクラスが変な目で見られるし、おとなしくしてよ。」
「何を言っているんだい?それは、君たちがおかしな視線を持つからなんだ。」
湿田は黙った。今日も、論破した。いいことをすると気持ちがいいぜ!
やっと校舎に入れた。遅刻はしないで済みそうだけど、下駄箱が混雑している。ゆっくりできないのは…あっ。ぶつかった。
「またあんた…今日は最悪ね。」
こっちは転んだんだよ、上から何を言っているんだよ。汚いものを見せるなよ。でも白かったな。
一時間目は、国語だ。
「そんなわけで、ここんとこ、作者はどういう意図なんだろうな、目田波!」
「はい、高瀬舟という性器のメタファー、そしてそもそも許されないまなざしを持つという罪が…」
「ああ…もういい、次、湿田!」
「はい、罪人といってもどうたらこうたら…」
どうして先生はわかってくれないんだろう。そこを抜きにして話なんかできないのに。それこそが本質だというのに!
さて、次の時間だ。英語の教師が、なにやら説明してくれる。
「で、なんでこれの代名詞がsheかというと…」
ぼくは突っ込まずにいられない。
「先生、それは間違っています!男社会の論理が…」
「あ、君はいいから。えっと、どこまでやったっけ。まあとりあえず湿田、次んとこ読んで。」
"Why don't you buy a replica of it? That's a good idea!"
湿田の発音はいいなあ。それにしても、どうして先生はわかってくれないんだろう。これこそが大切なところなのに。まあいい、一人でもできることはある。
休み時間になった。いつも、止めないといけない会話が多過ぎる。どうしてこいつらはこんなに性的な視線ばかりなんだ。
「この放物線、垂れ乳っぽいよな。」
知らないヤツがそんなことを言いながらグラフを見せている。
「おっぱい!おっぱい!」
調子に乗って騒ぐヤツまでいる。よし、一発決めよう。
「やめろよお前ら!性的なメタファーを読み取るなんて、どういう視線なんだよ!」
「え?」
そこに女子たちがやってきた。三人組だ。こいつらはいつも固まっている。
「きんもーっ☆」
合唱した後に、鈴木が言う。
「お前、なんでもそういう話にするよね。」
お次は佐藤だ。
「お前の方がよっぽど、そういう見方をしてるってことだよね。」
そして田中もうるさい。
「おかしいんじゃね?さっきもパンツ見てにやついてたよな?」
もう一発、おそろいで言ってくれる。
「きんもーっ☆」
湿田までやってきたぞ。
「はいはい、もうすぐ授業ですよ。」
鈴木がいやな顔をしている。
「保護者登場かよ…やれやれ。」
湿田が言う。
「ひどい…保護者にされちゃったよ…」
なんという屈辱だろう。正義のために戦っているぼくをこんなふうに扱うなんて、許せない!特に短髪のあの鈴木、男もののパンツをはいているくせに…
それにしても…改めて考えると、ひどい環境だ、この学校は。男根のメタファーがいくらでもあるじゃないか!なんということだ!
それはそれとして…昼休みは、まずは階段を見回りしよう。ああ、また覗いているヤツがいる。
「おい、やめろ!」
「え?」
なんだこいつ、シラを切ってるぞ。
「こんなところにいるなんて、覗きを企んでいるに違いない!」
「俺は売店に行くだけだ。うぜえ。」
犯人は平気で嘘をつくぜ…でも深追いはやめよう。うまく言いくるめたり逃げたりされるだけにちがいないからだ。
そんなわけで、ぼくはズバーーーーっと食堂に来た。
このパンを見るがいい!太くて長い形、口に入れる食べ方。完全に男根のメタファーじゃないか!そんなものをねちねちとしゃぶる連中のはしたないことときたら!こんなことを許してはいけない。
ぼくは武道とかをやっていないし、全員を咎めて回ったら何時間あっても足りない。だからと言って、黙ってもいられない。
だから、ポスターを作ってみたんだ。男根のメタファー禁止。みんなの良心に訴える。これしかない。これでよし…みんなも少しは気にしてくれるだろう…世界がよくなるまで、あと少しだ。あっー…またあいつらだ!
「きんもーっ☆」
「わけわかんないもんを貼るなよ。」
「いい加減にしてくんない?みんな困ってるんだよね。」
「はいはい、おしまい。」
三人組はポスターに手を伸ばして、やることをやって、去った。貼ってから2秒後に、ポスターは破られた。でも、ぼくはこんなことではくじけない。正義のために。
そんなこんなで、授業は終わった。けしからん吹奏楽部の練習が続いている。本当に許せないぜ、あいつらのやることは。
えっ、何が、って?太くて重たい管を、口で吹くんだぜ!どう見ても男根のメタファーじゃないか!!!いやらしい!君は気にならないのかい?太くて重たい管を、口で吹くんだぜ!それがメタファーに見えないなんて、どうかしているんじゃないのか?
でも、吹奏楽部の人数がすごいので、ぼくにはどうすることもできない。ぼくが戦っても勝ち目はないんだ。
だから、今日も図書室に行って、許せない本をなんとかするんだ。これなら、ぼくにもできる。正義だぜ!
今日は、理科の本のコーナーで戦う。生殖とか、そういういやらしいものをこの世界からなくすために。
「ちょっと、またアンタ? 問題になってるんだからいい加減にしなさいよ。」
物陰から出てきたのは図書委員だ。見つかってしまった。これでは任務を遂行できないぜ!仕方がない…今日は帰るとするか。
よこしまな連中に注意をしていたら、もう夕方だった。急いで帰らないと。まったく、健全な青少年は大変だ…
◇
校舎の裏で、土木曽は嘆いた。
「またあいつにやられたよ。エロ本、チクられた。」
池池もため息混じりに述べる。
「お前はまだいい…どうせ見つかればアウトだからな。」
尾羅は、池池に尋ねる。
「お前、何された?」
「パンを食ってたら怒鳴られた。」
土木曽は口走る。
「なんでだ。なんとかしないとな…」
尾羅は自然に言う。
「さらって埋めるか…」
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