真魚座市環境浄化作戦

アレ

戦う目田波駄目男

 やあ!ぼくは目田波駄目男!丸出高校の生徒だよ!ぼくが住んでいる真魚座枝村団地は、合併した真魚座市のはずれにあるんだけど、すごいところなんだ!

 何がすごいかって?そりゃあ、立派なところに決まってるさ!

 いけない視線を許さないことを自治会で決めて、みんなで実践しているんだぜ!えらいだろ!さて、今日も、一発、決めよう!

 通学路は今日も健全だ。ぼくたちがビラやチラシを見つけたらすぐ撤去するからだ。毎朝30分かけて見回りをしているんだよ。

 近所の人たちも、できるだけ同じように、見回りや点検をしてくれている。だから、この街はいつも健全なんだ。健全ってすばらしいよね。


 いけない、ゆっくりしていると遅刻だ!ギューンと走ってもあんまり速くはないかも知れない。でも、ぼくは、できるだけのことをするようにしている。どんなときも、どんなことも。だからズババババーンと走る。

 あっ、しまった、走っていたら誰かにぶつかった!

「いったぁい…ああ、またあんたね。」

 湿田蔓子。同じクラスの隣の席の、いろいろ口うるさいヤツだ。同じ保育園にいたことがあって、言ってみれば腐れ縁ってヤツかな?

 しかも、こいつは、うるさいだけじゃない。ああいう視線を嫌がらないんだ。許せないよね、こういうヤツは!けしからんッ!!しかもいちいちうるさい!

「あんまり騒ぎを起こされるとクラスが変な目で見られるし、おとなしくしてよ。」

「何を言っているんだい?それは、君たちがおかしな視線を持つからなんだ。」

 湿田は黙った。今日も、論破した。いいことをすると気持ちがいいぜ!


 やっと校舎に入れた。遅刻はしないで済みそうだけど、下駄箱が混雑している。ゆっくりできないのは…あっ。ぶつかった。

「またあんた…今日は最悪ね。」

 こっちは転んだんだよ、上から何を言っているんだよ。汚いものを見せるなよ。でも白かったな。


 一時間目は、国語だ。

「そんなわけで、ここんとこ、作者はどういう意図なんだろうな、目田波!」

「はい、高瀬舟という性器のメタファー、そしてそもそも許されないまなざしを持つという罪が…」

「ああ…もういい、次、湿田!」

「はい、罪人といってもどうたらこうたら…」

 どうして先生はわかってくれないんだろう。そこを抜きにして話なんかできないのに。それこそが本質だというのに!


 さて、次の時間だ。英語の教師が、なにやら説明してくれる。

「で、なんでこれの代名詞がsheかというと…」

 ぼくは突っ込まずにいられない。

「先生、それは間違っています!男社会の論理が…」

「あ、君はいいから。えっと、どこまでやったっけ。まあとりあえず湿田、次んとこ読んで。」

"Why don't you buy a replica of it? That's a good idea!"

 湿田の発音はいいなあ。それにしても、どうして先生はわかってくれないんだろう。これこそが大切なところなのに。まあいい、一人でもできることはある。


 休み時間になった。いつも、止めないといけない会話が多過ぎる。どうしてこいつらはこんなに性的な視線ばかりなんだ。


「この放物線、垂れ乳っぽいよな。」

 知らないヤツがそんなことを言いながらグラフを見せている。

「おっぱい!おっぱい!」

 調子に乗って騒ぐヤツまでいる。よし、一発決めよう。

「やめろよお前ら!性的なメタファーを読み取るなんて、どういう視線なんだよ!」

「え?」

 そこに女子たちがやってきた。三人組だ。こいつらはいつも固まっている。

「きんもーっ☆」

 合唱した後に、鈴木が言う。

「お前、なんでもそういう話にするよね。」

 お次は佐藤だ。

「お前の方がよっぽど、そういう見方をしてるってことだよね。」

 そして田中もうるさい。

「おかしいんじゃね?さっきもパンツ見てにやついてたよな?」

 もう一発、おそろいで言ってくれる。

「きんもーっ☆」


 湿田までやってきたぞ。

「はいはい、もうすぐ授業ですよ。」

 鈴木がいやな顔をしている。

「保護者登場かよ…やれやれ。」

 湿田が言う。

「ひどい…保護者にされちゃったよ…」


 なんという屈辱だろう。正義のために戦っているぼくをこんなふうに扱うなんて、許せない!特に短髪のあの鈴木、男もののパンツをはいているくせに…


 それにしても…改めて考えると、ひどい環境だ、この学校は。男根のメタファーがいくらでもあるじゃないか!なんということだ!

 それはそれとして…昼休みは、まずは階段を見回りしよう。ああ、また覗いているヤツがいる。

「おい、やめろ!」

「え?」

 なんだこいつ、シラを切ってるぞ。

「こんなところにいるなんて、覗きを企んでいるに違いない!」

「俺は売店に行くだけだ。うぜえ。」

 犯人は平気で嘘をつくぜ…でも深追いはやめよう。うまく言いくるめたり逃げたりされるだけにちがいないからだ。


 そんなわけで、ぼくはズバーーーーっと食堂に来た。

 このパンを見るがいい!太くて長い形、口に入れる食べ方。完全に男根のメタファーじゃないか!そんなものをねちねちとしゃぶる連中のはしたないことときたら!こんなことを許してはいけない。

 ぼくは武道とかをやっていないし、全員を咎めて回ったら何時間あっても足りない。だからと言って、黙ってもいられない。

 だから、ポスターを作ってみたんだ。男根のメタファー禁止。みんなの良心に訴える。これしかない。これでよし…みんなも少しは気にしてくれるだろう…世界がよくなるまで、あと少しだ。あっー…またあいつらだ!

「きんもーっ☆」

「わけわかんないもんを貼るなよ。」

「いい加減にしてくんない?みんな困ってるんだよね。」

「はいはい、おしまい。」

 三人組はポスターに手を伸ばして、やることをやって、去った。貼ってから2秒後に、ポスターは破られた。でも、ぼくはこんなことではくじけない。正義のために。


 そんなこんなで、授業は終わった。けしからん吹奏楽部の練習が続いている。本当に許せないぜ、あいつらのやることは。

 えっ、何が、って?太くて重たい管を、口で吹くんだぜ!どう見ても男根のメタファーじゃないか!!!いやらしい!君は気にならないのかい?太くて重たい管を、口で吹くんだぜ!それがメタファーに見えないなんて、どうかしているんじゃないのか?

 でも、吹奏楽部の人数がすごいので、ぼくにはどうすることもできない。ぼくが戦っても勝ち目はないんだ。

 だから、今日も図書室に行って、許せない本をなんとかするんだ。これなら、ぼくにもできる。正義だぜ!

 今日は、理科の本のコーナーで戦う。生殖とか、そういういやらしいものをこの世界からなくすために。

「ちょっと、またアンタ? 問題になってるんだからいい加減にしなさいよ。」

 物陰から出てきたのは図書委員だ。見つかってしまった。これでは任務を遂行できないぜ!仕方がない…今日は帰るとするか。


 よこしまな連中に注意をしていたら、もう夕方だった。急いで帰らないと。まったく、健全な青少年は大変だ…


 校舎の裏で、土木曽は嘆いた。

「またあいつにやられたよ。エロ本、チクられた。」

 池池もため息混じりに述べる。

「お前はまだいい…どうせ見つかればアウトだからな。」

 尾羅は、池池に尋ねる。

「お前、何された?」

「パンを食ってたら怒鳴られた。」

 土木曽は口走る。

「なんでだ。なんとかしないとな…」

 尾羅は自然に言う。

「さらって埋めるか…」

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