コント『変装』

 



〈浮浪者風の中年男が公園のベンチに寝ている。そこに、通りすがりの若い男が中年男の足元に落ちている財布に気づく〉


若い男「あのう……、財布落ちてますよ」


中年男「う、う、……ん?」


若い男「財布」


中年男「あっ、俺の財布」


若い男「落ちてましたよ、これ」


中年男「落ちてた? 盗んだやろ」


若い男「なんなんですか? 人が親切に拾ってあげたのに」


中年男「そんなもん信用できるか! ほな、中にいくら入っとる」


若い男「知りませんよ。自分で確認してくださいよ、ほら」


中年男「どれ。あっ、入れてた一万がない」


若い男「エッ!」


中年男「お前やろ、盗んだんわ」


若い男「僕じゃないですよ。開いてもいないのに」


中年男「財布にはお前の指紋がついてるんやぞ、言い逃れできんで。警察行こか」


若い男「信じてくださいよ。僕は盗んでません」


中年男「ほな、示談にするか?」


若い男「示談?」


中年男「ここに座って俺の話し相手になれば、無かったことにしてやる」


若い男「そんな時間ないですよ、急いでるんですから」


中年男「ほな、交番に行こ」


若い男「……分かりましたよ。座りますよ」


中年男「さてと、さっき食べてた弁当の残り、食べるか」


若い男「……どうぞ、ご自由に」


中年男「ムシャムシャ……。やっぱ、シャケ弁はうまい」


若い男「そうですか」


中年男「しょっぱいのより、甘いほうが好き」


若い男「……確かに、甘いほうが美味しいですね」


中年男「だろ? めしが進むよな。それと、卵焼きも、だし巻きより、砂糖が入ったふわとろが好き」


若い男「あ、僕もです」


中年男「気が合うな俺たち。おかんが作ってくれた弁当に入っとった、あの卵焼き、旨かったな~。なんか、本格的に腹減ってきたな。一緒にめし食いに行かへん? それとも、キャバクラにする?」


若い男「キャバクラなんて行かないですよ」


中年男「なんで?」


若い男「大阪に恋人がいるので」


中年男「遠距離恋愛か? 出会ったきっかけは?」


若い男「部長に頼まれて、大阪支店に行った時です。彼女が担当してくれて。一目惚れでした。笑顔がチャーミングで可愛くて。僕から告白して、付き合い始めたんです」


中年男「で、好きなんか?」


若い男「はい。結婚したいです」


中年男「なんで、せえへんの?」


若い男「彼女の実家に行って、『必ず幸せにします。お嬢さんと結婚させてください』とお願いしたけど、お義父とうさんがオッケーをくれないもんで」


中年男「そりゃあ、一人娘を嫁がせるんやから、簡単にはオッケーできんやろ」


若い男「え。ま、そうなんでしょけど……」


中年男「けど、ま、きょうのきみの対応で、オッケーにするわ」


若い男「エッ!」


〈中年男、野球帽と付け髭、メガネを外す〉


中年男「わしや」


若い男「お、お義父さん!」


中年男「ビックリしたやろ?」


若い男「どうしたんですか、こんな所で」


中年男「きみの本性を暴くために、わざわざ大阪から来たんや」


若い男「どうして、僕がここを通るって分かったんですか?」


中年男「数日前から尾行しとったんや。しかしきみは、判で押したような生活やな。仕事が終わったらこの公園を通って真っ直ぐ帰宅。この調子で結婚してからも真面目に帰宅せなあかんで。浮気したら許さんで」


若い男「浮気なんかしませんよ」


中年男「いや、分からん。ほな、これからキャバクラ行こ。浮気するかしないか、ジャッジしてやるわ」


若い男「行きませんて。お義父さんが行きたいだけでしょ? お義母かあさんに言い付けますよ」


中年男「あ、それだけはやめて。これから仲良くしよな」


若い男「はい。よろしくお願いします」


中年男「式はどこで挙げる? 娘の花嫁衣裳は何がいい? ウェディングドレス? それとも白無垢? ん? どっちがいい?」


〈中年男、食べ終わった弁当の容器が入ったレジ袋を手にすると、若い男と肩を組んで歩き出す〉


若い男「本人に聞いてみないと」


中年男「そりゃそうだ。娘のどこが好きだって言ったっけ?」


若い男「え? チャーミングな笑顔」


中年男「そうそう、チャーミーグリーン。なんちゃって」


〈会話をしながら夕日に向かっていく二人〉

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