140話「激昂の限定進化」

――――――


 (拙者は......八俣倭という名だ)

 (せ...拙者?珍しい個称だなぁ。あ、俺は森田信道もりたのぶみち!年は八俣と同じくらい17だ。よろしくっ!)

 (む...?お主も拙者と同じ年なのか?とても齢60には見えないが...)

 (え?何言ってんだあんた...?ぷははっ、面白いな~!)

 (あははっ拙者にお主って、時代劇が好きな人なのかなー?あたしはたちばなゆみり!花の女子大生だぞ~!)

 (む...?じょし、だいせい...?)



 (八俣、そう凹むなよっ。成長速度は人それぞれだからさ、焦らず経験積んでこうぜ!)

 (う、む......しかし拙者には突出した固有技能というものが無くてだな...お主らがよく使う奇妙な妖術が得意でもないし。剣術の腕はあっても筋力がそれほどでもないし...)

 (もーう、だから何だっていうのよ?今はイマイチでも、倭なら必ずあたしたちと同じくらい強くなれるって!)

 (そうそう!そういえば謙太の奴が倭から剣術を教わりたいとか言ってたぜ!倭の剣の腕は兵士団の人たちも注目されてるってよ!)



 (っ!?浩二こうじ...!くそぉ!!)

 (倭...お前の今の実力なら、魔人族のボスだって斬れるはずだ......お前なら勝てるって信じてるぜ、何せ俺が認めた立派な“侍”なんだからな...へへっ)

 


 (信道、ゆみり......拙者らは、勝ったんだな...!)

 (ああ......何人か仲間がやられたが、あいつらの犠牲は無駄じゃなかった!皆がいたから、俺たちはこうして...!)

 (うんっ!魔人の王を倒して、あたしたち人族が勝ったんだよ...!)

 (ああ、二人ともありがとう...!散った者たちに、報いることができた...!!)



 (そろそろ......お別れ、だな...。倭......俺たちの親友よ、後のことは全部任せる、ぞ)

 (あたしたちは、ずっと見守ってるからね......倭のことも、この国の皆のことも...!)

 (ああ......任せてくれ。後のことは全部......このに託してくれっ!)

 (ふっ、じゃあな......百数年後に、また会おう、な――)

 (っ!ゆみり、信道...!)


―――――――――







 「私たちも二人に続くわよ!!」


 ヤマタが斬り込んだすぐ後にスーロン・キシリト・ソーン・ギルスが四方から追撃する。


 “銅鑼撃”

 “魔力光線”(雷電)

 “鋼鉄拳アイアンナックル

 “雷鞭撃エレクウイップ


 打撃と魔法が混ざった4攻撃が魔人を襲う。


 「3秒後に二人でかかるぞ」

 「分かった」


 ヤマタの指示通り3秒後、“雷電鎧”を両腕に集中させて鋭利さを加えた拳を振るった。同時にヤマタも縦向きの斬撃を放った。


 “穿撃”

 “袈裟両断”


 狙いは肺部分。戦闘に時間はかけないけど楽には殺してあげない!私の復讐の為にも――!



 「も~~う、鬱陶しいわねぇ!!魔法攻撃とか斬撃とかばっかりぃ~~~!



 ~~~~~~~~~~ええ加減にせぇやごらああああああああああッ!!」


 “限定進化”


 突如怒声を上げながら形態を変えたネルギガルドから途轍もない戦気が放出されて、周囲にもの凄い風圧がかかった。


 「あ...!」

 「...!!」


 私もヤマタも吹き飛ばされる。態勢立て直して前方を見ると、さっきよりも大きくなった魔人の姿が。


 「これだけ戦える戦士がいるなんて予想外だったが、もう関係ねぇ。全員血祭りにしてやるよクソどもおおおおおお!!」


 見た目だけじゃない、口調も変わっている。


 「おらぁ!!」

 ズオオオオオオオオオオン!!!


 そしてパワーもあり得ないくらい増している。あの時みたいに、一撃で地面に底が見えないくらいの深い大穴ができていた。


 「く... “炎稲妻ほむらいなずま” !!」

 

 ギルスが炎と雷の複合魔法を放つ。だけどその魔法は魔人の黒い拳にあっさり破られた。


 「な...!?俺の複合魔法があっさり!?」

 「テメー程度の魔力で俺を傷つけられると思うな!進化した俺の魔防を甘く見過ぎだゴミがあああ!!」


 その場で手を地面に勢いよく突っ込んで、踏ん張る動作をすると地響き立てながら地面を掘り起こして持ち上げた。直径数百メートルもの巨大な地盤を、魔人は私たち目がけて投げつけてきた。


 「うおらあああああああああ!!」

 「う...そ...?」

 「ここまでパワーを増すのかよあの化け物...!」


 ソーンとギルスが戦慄した様子で呟く。アレをくらえば全員無事では済まない。まるで隕石だ。


 「障壁を張れる奴は全員展開しろ。破片に気をつけろよ」


 唯一、ヤマタが飛び出して行き、降りかかる地盤に突っ込んでいった!


 「あいつ、何を!?」

 

キシリトの疑問に答える間もなく、強烈な戦気を放つヤマタが刀を差したままぎりぎりまで地盤に近づいて、ぶつかる直前に音速で抜刀した。


 “居合斬り”


 ズパアァ...!巨大な地盤が横真っ二つに割れた。その光景に私たち全員が呆気にとられた。だがまだ終わりじゃなかった。


 “連閃れんせん


 目にも見えない剣撃で地盤をさらに切り刻んでいく。どんどん小さくなっていき、ガラスの破片サイズのあられ状になって降り注いできた。キシリトとギルスの障壁で身を守り、降り止むと同時に駆け出す。

 「神速」で魔人に接近して刺突の雨をくらわせる。


 “五月雨さみだれ


 ドスドスドスドスドス...!!

 計10か所もの刺突を全て急所にくらわせる。血を出させたものの、魔人が怯む様子は全く見られなかった。


 「痛ぇな!!人体の急所を突いたくらいで殺せると思うなぁ!!」


 “魔人拳まじんけん


 ドッッッッ...「が、あぁ...!!」


 連撃が終わった僅かな隙を突かれ、魔人の重い拳を腹にくらった。痛い。肋骨が何本も折れる音がした。進化して強化してもこんなにくらうなんて。


 (強過ぎる...!今まで戦ってきた敵と比べものにならないレベル...!)


 スーロンに抱き留められてどうにかダメージは軽減したが、体のダメージは深刻だ。私を守るようにみんなが立ち塞がり、立ち向かっていくが...



 「ガッ...!」

 「あぐ!!」

 「く、そ...!」

 「きゃあ!!」


 ダメ...全く歯が立たない。4人全員かかってもほとんどダメージを与えられていない。このままだと私たち全員殺される...!


 「この姿になるとやっぱりどいつもこいつも雑魚になるなぁ。本気で突いたらすぐ壊れそうになりやがる。まぁいい、さっさと殺すとしよう。一人ずつ一撃で確実に殺すとしよう!!」


 ゴウッと魔人の両拳にどす黒い魔力が纏う。ヤバい、あの拳を本気でくらったらダメだ...!


 「く...どうやってアイツを...」

 「......ふぅ。腹括る時が来たか...。ここが、俺の最後の戦だな...」


 何か覚悟と決意をした様子のヤマタが立ち向かおうとしている。そして今さら気付いた、彼の纏う戦気が明らかに異質と化していたことに。


 (何...あれ!?)


 ヤマタの戦気がひと際異質だ。何か息苦しさすら覚える感覚だ。近づけば圧し潰されそうな威圧感を放っている。


 「アレン。先にコレを渡しておく」


 そう言って私にいくつかの石を投げ渡してきた。独特な色をしたその石を見て思わず声を上げる。


 「これって...魔石の原石!?」

 「ああ。魔人族はこれを気体にして取り込むことであのふざけた強さを手に入れた。俺たち人族はその石を粉末状にして適量摂取することで、短時間あいつらと同じ力を発揮した。

 だが、魔石の摂取法はまだあることに俺は気付いた。それは...魔石そのものを体に埋め込み同化させることだ。今の俺のようにな...」

 「っ!?あなたまさか……!?」

 「ああ、以て5分以内ってところか...ふっ!!!」


 突然、ヤマタが魔人目がけて刀を二本振るった。直後、巨大な風の刃が飛んでいき、魔人を襲った。


 「ぐおぁ!?何だこの斬撃は...!?あの距離から飛ばして俺の体を傷つけただと?この世界のどんな物質よりも硬くて頑丈な俺の体に...テメェエ!!」

 「よし...ちゃんと効いたな。この二刀流形態、ようやくものに出来た。武蔵さん...すこしはあなたに近付けただろうか...」


 胸部分をぱっくり斬り裂いた様子を見て手応えを感じている。二本の刀を自分の腕のように振るう様は、とても綺麗だと思った。

 

 「魔石そのものを取り込んで...ただでは済まないはず。最後ってそういうこと?」

 「ああ。だがお前たちは俺みたいなことするな?連合国軍と同じ摂取法で行け。そして使いどころを見誤るな。俺はこれから奴と戦う。倒せるかどうかは分からん。だが奴を弱体化させることは確実にやってみせる。必ずな...!」


 ヤマタの言葉には凄く重みを感じた。これから死地へ向かう戦士のそれと同じ、それ以上のものを感じた。彼は、本気で...。


 「分かった。私たちも必ずやってみせる。あなたがくれるチャンス絶対無駄にしない...!だから生き残って!」

 「ふっ、あの後輩にも同じことを言われたなぁ。なるべく言う通りにしよう。そして...俺のことは倭で良い。じゃあ、上手くやれよ。魔石を摂取すればそのダメージも一時的には回復できるはずだ」



 そう言い残して、ワタルは魔人へ斬りかかっていった...!

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