141話「八俣倭」

倭視点


 さて、今は俺が精一杯出張って戦う時だ。後続の彼女たちの為に文字通り命を削ってでもこのデカブツを斬り刻んでいこうか。何なら真っ二つにするのもアリだな...できればだが。


 「テメーその異様な強さ...そういうことか。俺と同じやり方でその力を手にしたってことか!だがそれも長くは続くまい?異世界人とはいえ魔人族以外の生物が魔石を直接摂取すれば死は確実。数分後テメーは死ぬ――」

 「んなもん分かってるんだよ。だから無駄話に付き合う気はねーぞ。おらここからどんどん行くぞ」


 ギィンギィン!ズパン!ザクゥ!


 「がはぁ!テメェ...!調子に乗るなぁ!100年前と同じ結末になると思うな!勝者は俺たち魔人族だ!!」


 飛んでくる拳を右の刀で防ぐ...否、斬る!

 ドギイイイン!!ダメか。切断には至らない。が…止めるくらいはできるか。


 「同じさ。お前らは今度こそ消える、消される。俺と彼女たち、そして俺の後輩たちにな!」


 “螺旋刺らせんざし”


 左右交互に回転を加えた刺突を顔面・胴・腰の順に音速でくらわす。真っ赤な雨が魔人に降り注いだ。


 「くそがっ避けられない!なんつー速さだ!しかも俺の体を貫きやがる。とんでもねぇ剣速と力だ。だが、力なら負けねーんだよぉ!!“魔人脚まじんきゃく”」


 叫びながらデカブツの剛脚が俺に襲い掛かる。どす黒い魔力を纏ったその蹴りは、今の俺でもくらえば立てなくなるだろう。咄嗟に刀を交差させて防ぐ...が、ダメだ。破られる。


 「おら、死ねえええええ!!」

 「うむ力不足か。ならばさらに強くなるまで...」


 “限定超強化”


 ゴッと全身に瞬時に力が満ちて、魔人の脚を押し返した。


 「なぁ!?さらに力を増して!?」

 「悪いな、俺自身の固有技能をまだ発動してなかった。これが今出せる完全フルパワーだ。まぁ寿命をさらに、がはっ!縮めたが...」

 

 途中吐血してしまう。魔石との併用はやはり体の崩壊を早めてしまうようだ。残り2~3分か。ここからは全て大技でいこう。それで決着が着けば本望だ!


 「おあああああ!!」


 “怪力刀撃かいりきとうげき


 「怪力」を発動させた力いっぱい、されど正確性を欠くことない、渾身の一太刀を雄たけびとともに浴びせる。


 ザシュウウ!「ぐおああ!!馬鹿な...俺の力と互角...だと!?ああああああああ!!」

 

 ブゥン!「―っち!」


 肩部分を斬り裂く途中、奴の殺人蹴りを間一髪で躱す。が、蹴りから発生した衝撃波を全身にくらいダメージを受ける。


 (躱してこれか...正直力は奴の方がまだ上だ。幸い速さが劣っている分、躱しやすい。“見切り”を使ってしっかり躱せば問題無い)


 「ミンチになりやがれ!!“魔連拳まれんけん”」

 「断る」


 魔人の殺人拳の連撃を悉く躱していく。が、地面が穴だらけになり、足場が消える。ニヤリと笑いながら少し溜めた一撃を放ってくる。

 が、無駄だ!数十年の修行で、空気を蹴って飛ぶことを可能にした俺に無い足場など無い!


 ドンと力強く上へ飛んで、刀2本とも同じ向きにそろえたまま魔人の真下へ急降下する。


 “斬首刀ギロチン


 処刑技を躊躇なく使って奴の首を落としに行く。斬れやすくするよう、風属性を付与させる。


 「今度は上かよ!何度もくらってやるかよ!?“剛鋼アイアンブロック”」


 刀が奴のうなじに触れる直前、その部分が不自然に膨れ上がり、鋼製の拳が出現した。


 ドゴォ!「かは...!」

 かなりの威力で、俺は吹き飛ばされた。


 「俺の体は異形でねぇ...念じた部位のところから己の拳あるいは足を出現させることができる。敵を出し抜くのに持って来いの固有技能だぜ馬鹿が!」

 「わざわざ手の内を明かすとは、100年経ってもド三流戦士だなお前」

 「これから死ぬゴミだから明かしても平気なんだよカス野郎!“瞬神速”」

 

 予想外にも、奴には無いと思っていた超スピードを使ってきた。間合いが一瞬で無くなった。


 「俺にこんなスピードは無いと思っていたようだなぁ!?馬鹿が!!俺をただの脳筋だと思ってんじゃねーぞ!こう見えても頭を使える思慮深い性格してんだよ!!死ねぇ!!」


 “魔連脚まれんきゃく

 ズガガガガガガガガガガ!!!「がっ!ぐっ!ごは...!」


 「見切り」「瞬神速」を発動して回避を試みるも全ては躱し切れず、数発くらう。筋肉が断裂し、骨が砕けて、内臓に衝撃が入る。血と涎を吐き散らしながらもどうにか急所を避ける。

 

 (このままくらい続けるわけにはいかん。少しでも良い、足止めを...!)


 “疾風迅雷しっぷうじんらい

 ヒュン、バチチチチチチチ!!「がぎゃああ!!?」


 嵐魔法と雷電魔法を混ぜた斬撃性魔法で魔人の脚と足を斬り裂いて感電させた。


 「お前程度ならこれで十分隙をつくれるな。そしてこの時を待っていた...去ね」


 “聖刀せいとう


 ズブ...「あ?...ぐがあああああああああ!!」


 聖属性を帯びた刀を真っすぐ正確に魔人の臓器に突き刺した。この属性魔力を手にするのに本当に難儀したが、藤原美羽の聖魔法を見たことで俺にもついに発現した。そしてこの属性は邪悪に染まった生物に特に有効だ。今のこいつが良い例だ!


 「それは100年前にも見た聖の属性...!テメーも...!くそが...くそがあああああああ!!」


 ドゴォ!!「ぐが...!」


 刀を引き抜く隙を狙ったブローが入り、苦しみに呻く。が、ここで退けるかよ!


 “連閃”

 シュガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


 「がっ!このぉ、ごは!く、そが、ぁ...!!げああっ!!」


 この連撃は終わらせない。奴の息の根が止まるまで終わらせてたまるかよ......

 「――ぐぅ!?ごぱぁ...!」


 ...って格好つけたいところだが、もう俺はあと僅かってところらしい。マズい、目がかすんできた...。口から血が出続けてやがる。腕の、感覚が無くなっていく。

 

 俺の、百数十年にわたった生命が終わろうとしている...。

 

 (ハッ...なら最後の技、派手に放ってやる...!)


 痛くて苦しいはずなのに、どうしてだろうか?笑っていられるのは。自身の力を存分に発揮できているから?誰かの為に戦えているから?

 ......やっと、あいつらがいるところへ逝けるから?


 たぶん全部だろうな。別にこの世界に友や仲間がいないというわけで死ぬことに安堵したわけじゃない。ラインハルツにはまだまだ心配で頼りない、だが大切な部下どもや王がいる。あいつらと別れるのは惜しい気持ちでいっぱいだ。

 特に、俺を親のように慕ってくれたマリスには、悲しませたくねぇな...。


 (マリス...すまん。お前もアレンたちみたいに友をたくさん作れ。たくさん交流し、良き仲間と出会えよ。思い遣りがあるお前なら大丈夫、だ)


 あと数秒......やるなら、今だ!!


 「ぐがぁ!?また、雷で縛って...!」


 念には念を、拘束させてもらう。そして、くらえ...。


 俺の究極剣術を...!!


 「――“天閃てんせん”」

 

 神々しい光を纏った二振りの刀が、魔人を断ち斬った...!

 

 「がっ、ごぱぁ...!」

 

 そして魔人とすれ違った直後、俺は...


 心臓の鼓動が止むのを感じながら...


 倒れ伏した―


 

 (ああ......長いようで、あっという間だった。最後になった俺も、ついに終わりらしい。

 ゆみり......信道。俺も、そっちへ...)



 刹那、幻聴だろうか、ロクに聞こえなくなった耳に、誰かの声が聞こえた。



 “お疲れ様”



 その声音は温かくて、懐かしく、て…………



 (ああ。少し...休ませてもらうとするか.........)



 ゆっくり、瞼を、閉じた―――




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