113話「モノクロ闘技場での再会」


ザイート視点


 「ん?.........おいおい、マジかよ」


 人族の大国の連合軍。そのうち一つの大国…イード王国とかいう国を滅ぼすことで準備運動をしていた最中のことだった。

 魔人族の本拠地の方から濃密な戦気を感じ取った。魔人族は全ての種族の戦気を察知できる。もちろん屍族も同じく感知できる。

 人族の殲滅に夢中になっていたせいで、いつの間にか異物が我がホームに紛れ込んでいたことに気付かないでいた。

 今感知したのは、同胞の中には存在しない程の、強大で濃い屍族の気配だ。


 間違いない、奴だ...!


 「準備運動くらいはやらせてほしいと、存在を遮断してこっそり抜け出してきたのが仇になったな...。まさか我が本拠地の在り処を突き留めるとは思ってなかったしなぁ...何体かやられたな。同胞もやられるのも時間の問題か」


 まだ運動し足りないが、大至急戻るとするか。それにしても――


 「――土足で人ん家に上がり込んでんじゃねーよ!!同胞たち相手に好き勝手させねーぞ......待ってろぉ!

 カイダコウガぁ!!」


 奴との決着をつけるべく、俺は再度自分の拠点地へと戻って行った。






 (く......そぉ)


 ザイ―トが去ってから数秒後。僅かに、だがあと数秒で命が尽きる寸前の状態で、イード王国の国王ルイム・イードは、声を出す力すら残っておらず、心の中で毒づいた。

 傍には既に息絶えた兵士団長のハンスがいる。その体はズタズタに引き裂かれていて、見るに堪えない状態であった。

 ルイム本人も、四肢欠損、腹に大穴が空いているという無惨な様であった。


 (イードは滅んだ......申し訳ない、先代方。国を守ることができなかった......。すなまい、民たちよ...兵たちよ。こんな不甲斐ない国王、で.........)


 悔し涙をしばらく流し、やがてルイムの命は尽きてしまった...。




 大国がある大陸のどこでもない、名前も知らない島の地底。魔人族の本拠地はそこにあった。「追跡」を使って5人の魔人族の移動履歴を辿ったら、まさかこんな無名の島にあったとは思わなかった。まぁ場所はどうでもいいとして、いざ地下へ潜って奴らのお家に侵入。


 そして現在、大量のモンストールども前座の死骸を踏みつけて3体の魔人族を見据えている。


 今俺が放った魔法は、暗黒魔法に自身の固有技能「過剰略奪」を付与させたオリジナル魔法「悪食」。いっぺんに大量の雑魚敵どもを喰らい殺せる大量殺戮魔法だ!ゾンビである俺にぴったりの攻撃技じゃないか!経験値と固有技能を一気に奪えるし。まぁ今回は新しく得るものは無かったが。


 と、それよりも―


 「カイダ......そうか、お前がザイート様が警戒しているイレギュラーの!」


 褐色の女魔人が俺を睨んで確認するように言う。とりあえず「鑑定」。



ベロニカ 123才 魔人族 レベル369

職業 呪術師

体力 5006000

攻撃 900000

防御 3780000

魔力 9090000

魔防 7901000

速さ 6690000

固有技能 全属性魔法レベルⅩ 魔力光線全属性使用可 魔力防障壁 瘴気耐性 夜目 瞬神速 幻術レベル5 召喚魔術 限定進化



 さすがは魔人族といったところ。今まで遭ってきた魔族の完全上位互換の存在だ。能力値はほぼ全てが7桁、魔力に至ってはこいつの性質なのか特に高い。見たところ魔法攻撃型の魔人族らしい。

 残り二人は......ああ、特筆すべきところ無し。いや今までの魔族と比較すりゃあもちろん格上の奴らだが、「俺」と比較した場合は、ねぇ?


 「ベロニカさん、で良いよな?ここに今いる魔人族はそれで全員か?肝心のあいつがいないが」

 

 とりあえず現時点でいちばん立場が上であろうベロニカという女に声をかける。


 「私の名を...!?まぁいいわ。ふん、お前ごとき人族にも屍族にもなれないに、ザイート様の出る幕は無い!!私たちに消されるがいい!!」


 ――ピクッ


 ベロニカのとある単語に反応した直後、俺の足場・周りに超強力な重力がかかった。人族ならペラ紙になってるくらいか?


 「普通なら死んでるレベルのダメージだろうが、相手は不死レベルが非常に高い屍族もどき。塵にして消し去れば終わりだろう。やれ、二人とも」

「「はい」」


 重力魔法をかけたまま二人の魔人族に攻撃を命じる。途端二人は「限定進化」を発動して、形態を変えてさらに能力値を増加させる。あ、桁1つ増えた。

 方や両腕に赤黒いオーラを纏って鋭い爪をぎらつかせて、方や巨大な太刀を出現させて振り回しながらこちらを睨む。


 「人族だか屍族だか知らんが、魔人族より劣等な種族が粋がるな!!」

 「俺たち3人も相手に、まともに戦えると思うな人もどきがぁ!!」


 元気よく叫んで二人同時に俺に攻撃しにかかった。奴らが飛び降りて俺に斬りかかったその時間、1秒も満たなかった。

 だが俺にとっては非常にゆったりとした時間を過ごさせてもらった。「複眼」で動体視力を馬鹿みたいに発達させた俺の目は全てを見通す。


(脳のリミッター500%解除)


次の数舜で俺の体をバラせると確信した二人は余裕の笑みを浮かべる。それに対して俺も二人以上に残虐に笑ってみせた。




 「 あくびが出るなぁ?温いわ アホが 」



 

 刹那、体がバラされていたのは......魔人族二人の方だった。


 「え?」

 「あ?」


 二人は何が起きたのかまだ分かっていない様子のまま、半身が地面にどさりと落ちた。上からベロニカが息を吞む音と二人の絶叫がしたのは同時だった。


 「がああああああ!?」

 「お、お前!?今、何を!?」


 こいつらが言いたいこと、当ててやろう。「あの重力下でなんで動ける?」「マジでいったい何をしたんだ!?」「進化した俺たちがこんな一瞬で、あり得ない」...ってところか。

 残念ながらテメーらが一回限りの進化でどれだけ強くなろうが、「脳のリミッター解除」で無限に強くなれる俺の足元にも及ばない。ま、別にそれを声に出す必要無いし、さっさとやろう。けど、せっかくだからこいつらの疑問に少し答えてあげるか。


 それぞれの心臓部分に手を当てて、ゴミを見る目で二人に声をかける。


 「今の攻撃な?もういちいち技名つけるの面倒だから動作説明だけするぞ?

 “ただの手刀斬り” だ...!」


 そう言ってから、超極太の光属性の真っ白い魔力光線を放ち続けた。直前何か言いたそうにしていた二人だったが無視した。放ち続ける...今回は手加減は一切無し。こいつらの肉片一つたりとも残さない。ゾンビになったりしたら面倒だ。


 ......つーか、さぁ?


 「弱すぎこの二人。これが魔人族?想像してた以上に想像以下の雑魚どもじゃん」


 侮蔑を含んだ目で思わずそう言ってしまった。いや...俺が強くなり過ぎたのか?半年間休み無くレベル上げと技の習得・洗練していた俺に対し、こいつら魔人族はロクにレベル上げなどしていなかった...十分あり得る説だ。

 全く、悪役どもも主人公たちと同じように修行しとけってんだ。だからいつもテメーらが敗北するって形で物語が終わるんだよ。


 30秒経ったところで放出を止めて、塵も残らず二人を消し去ったところで、さっき3人がいた建物を見やる。

 そこにはベロニカの姿はいなかった。あいつだけ俺が手刀放つ直前に俺が重力の縛りを破ったことに気付いてすぐ魔法攻撃を解いてたな。

 その後あの二人を両断した様を見て、どこかへ去る気配を感知したが、本当にここから離れたようだな。


 「何を企んでいるのやら...前座の続きとしてもう少し付き合うか」


 そう思って集落か分からないこの建物だらけの奥地へ一歩進むと...


 「おっ......景色が?」


 目の前の建物が突然消えて、モノクロの世界へと変貌していた。




 「はぁ、はぁ、はぁ......あそこまでの戦気を持っているなんて!同胞が二人同時に......ザイート様が警戒して危険視していた理由が今になって理解できた...!」


 屍族もどき...ゾンビと言われるあの男が、私よりも強いかもしれない魔力光線を放っている隙にあそこから離れて、私の部屋へ駆けている。あの部屋には私自身の能力を高める装置や薬がある。


 今回は迎撃戦。しかも真っ向で戦って勝てる相手ではない。ならば搦め手で弱らせて隙を突く以外に勝機は無い。魔人族でありながら真っ向戦で敵わない生物がいることなど、考えたくもないが受け入れなければならない。

 だが、搦め手戦法なら、私ほど長けた魔人族は存在しない。100年以上前のあの戦争も、そういった戦い方でいくつもの国・種族を滅ぼしてきたのだから。相手がそういう手合いにどれだけ耐性があるのか知らないが、この地は私を完全に味方してくれる。


 自室についた私は、机のいちばん上の引き出しから薬瓶を取り出す。それを開封して中から数粒の錠剤を飲んだ。

 魔石を細かく砕いて強化ドーピング薬と混ぜ合わせて固めてつくりあげた、特製の“魔石薬”

 これによって「限定進化」の持続時間延長や自身のオリジナル魔術を強めることができる。一度魔石の副作用に耐えきったこの体は、今後魔石単体による強化は不可能だが、他薬品と混ぜれば再び強化させられることが分かった。しかも副作用の苦痛も効かない。ただし効果はそう長くは続かないが。

 

 「限定進化」


 早速進化してさらなる力を漲らせる。進化した私は、得意の幻術魔法や召喚術の質をより高められる。対象の姿が見えなくとも、お構いなしに幻術にハメられる。超強力な幻術で、彼の精神を徹底的に汚染して廃人にしてやる。


 もう一つ、彼を潰す為のオリジナル魔術だが...これも彼にぴったりなものがある。ここに近づく気配を感じながら急いで机にある資料を開いて彼の情報を確認する。


 「あなたは半年前に随分派手に暴れてきたそうね?さぞ“彼ら”の恨み・憎しみを買っていそうだわ...。だからこそこのオリジナル魔術がうってつけよ!!」


 勝ち気になった私は、勝利を確信しながら、彼にとって相性最悪であろうオリジナル魔術を発動した...!




 モノクロの背景の中を延々と歩き続けて10分は経った頃か。突然前方の真ん中に色が違う通路が出てきた。明らかに罠だろうが、同じ背景ずっと見させられてて飽きていたし、あえて乗ることに。白い道に従って歩き続けると、闘技場の形をしたドームの中へ誘導される。

 中は予想通り闘技場のそれと同じ空間だった。背景はさっきと同じモノクロ。真ん中地点まで進むと、入り口の扉が消滅して閉じ込められる形となった。直径200~300mの円形グラウンド、それ以外は何も無い殺風景なモノクロ空間だ。


 数秒後、地面があちこちから不自然に盛り上がって、何かが這い出てきた。それらが完全に出てきて土を払って立ち上がる様を見て、俺は驚愕のあまり思わず声を上げた!


 「テメーらは.........!?」


 地面から出てきたは、全員よく知っていた連中だ...悪い意味で。それも殺したいと思う程に......否、殺したはずだ...!!

 なぜならそいつらは――


 「久しぶりだなぁ?......甲斐田ぁ!!」


 ――半年前に無惨にぶっ殺した、復讐済みの人間たちゴミカスどもだったのだから...!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る