16話「俺のスタンス」

 そういえば、あの跡地で、何気に初めての殺人を犯したな。もちろん元の世界で人を殺したことはないので、生まれて約17年と11か月か?初めて人をそれもいっぺんに10人も殺したのだが、そのことに対して微塵も動揺しなかった。それどころか、殺人に対してもの凄く愉悦に浸っていた。

 さらに、殺す直前も、全く躊躇いは無かった。モンストールを殺す感覚で普通に殺した。


 元々俺は、元の世界でも、こうやって人を殺してみたいと考えていたのだ。俺を害する奴、不快感与える奴、そいつらをこの手て殺したいとずっと焦がれ続けていたのだ。その念願が先程ついに叶えられたのだ。罪悪感は皆無、むしろ歓喜の気持ちでいっぱいだ。


 「気持ちいいな...。害をもたらし、不快にさせてくる人間を殺すことが、こんなにも爽快で気持ちいい最高の気分になれるなんて!モンストール殺した時と比べものにならないくらいだ!」


 誰もいない小道を歩きながら、快哉を上げる。人を殺したのにこうも嬉しそうにはしゃいでいるなど、他人からは、俺はもう人として壊れている、破綻していると思われるんだろうな。事実、俺は元々普通とかけ離れている人間なんだし。感性が違うなんてレベルじゃない。もうこの人格は変わらない。

 だが、知ったことか。自分さえ良ければ、他人などどうでもいい。この考えはもう信念に近い。


 「別に誰彼構わず殺したいわけじゃない、俺を害するゴミどもを殺せればいいだけさ。俺が害だと認定すればそいつはもう死ぬべきだ。それだけさ」


 俺に殺されたくなければ、俺に関わらないか俺を害したり不快にさせなければいいだけ。基本俺から誰かを傷つけることはしないのだから。あ、ヤニカスは別だが。

 その点では、さっきの兵士たちはやらかした。だから殺されたんだ。よりにもよって、俺に聞こえるようあんな蔑称を口に出したのだから。

 ま、俺のスタンスはまとめればこうだ。


1俺さえ良ければ、他人がどうなろうが関係無い、知ったこっちゃない。

2俺を害する者、不快にさせる者は慈悲無く殺す。

3俺からどうでもいい他人に対して手をあげることはしない。ヤニカスは別。


 今のところはこんなものか。こうやって自分のルールを作っておくと躊躇いとか無くなるし、必要だと考えてる。

 さて、長い間自分の倫理感に浸っていたが、そろそろ次の行き先を決めるか。この小道の終わりに村か町があればいいが。


 「あとは...。冒険者ギルドも、いいな。」

 漠然と次の目的地を考えながら、小道をのんびりと歩いていく。




                 *


 30分後。小道を抜けた先に、小さな村があった。カルス村とよばれるこの村は、冒険者たちの宿地や物資補給の場として栄えている。村民らしき人の話によると、ここから馬車を走らせて1日半くらいかけた先に、王国があるらしい。


 サント王国。ドラグニア王国と同盟を結んでいる国で、武器の大量生産を売りとしている。

 あと、さっき俺が殺した兵士たちの出どころもその国だろう。これから入国するつもりだから、殺したことは秘密にしておこう。


 さて、俺はゾンビで「身体武装化」もあるから、補給物資や武器防具は要らないのだが、ずっとこのボロボロ服でいるのも嫌なので、服を見繕うことに。

 崖周辺から去る前、殺した兵士からくすねた金で服を買った。マントのような羽織るもの、その下は無地のシャツ、運動ジャージっぽいズボンみたいなのがあったのでそれを履く。靴は革ブーツみたいなものしかなかったが、どういう造りをしたのか、運動シューズと変わらない履き心地だったのでサイズが合ったのを購入。どれもやや安物にとどめておいた。王国へ行けばもっと着心地・履き心地抜群のものと出会えるかもしれないし。


 服を新調した以上、ここに用は無い。サント王国へ向け再出発だ。

 と、店を出ようとしたところ、店主が防具はどうするのかと聞いてきたが、大丈夫と手を振って出る。冒険者っぽい奴らが俺の格好を訝しげに見る。防具無しでこの先進むのは死活問題なのか。適当に聞いてみると、


 「サント王国へ行く途中、洞窟を抜けなければならない。そこには、モンストールは基本現れないが、獣種や蟲種が出てくる。レベルもそこそこ高いから、そんな格好で入ると骨も残らねーぞ」


 といった答えが返ってきた。モンストール以外にも人族を害する種族がいるのか。魔物みたいなのもいるのかな。

 答えてくれた人に礼を言った後、丸腰で悪目立ちしないよう、申し訳程度に防具をいくつか買った。後で捨てるからいちばん安いのを買った。


 さて、気を取り直して再出発だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る