――大江戸死霊戦線―― 〈禍々し〉

 星々の明かりをかき消す爆発の閃光と勢いよく燃え上がる炎。数百の松明が揺らめき声を荒げる武士達。

ゾンビが荒れ狂う高波の様に限りなく押し寄せてくる。力尽き喰われる者、ゾンビへと変わる者。次から次へとそれは湧き出てきた。


――「ここは拙者らに任せるでござる!」 助さん格さんの二人は無謀にもゾンビの大群を相手に向かって行った!


「ぬああ!」 青竜刀が、ガランと音を立て大量のゾンビの群れに巻き込まれてしまう助さん……


格さんは一心不乱にゾンビを倒し続けるが、やがて噛まれゾンビへと変わり果てた……


 杏音は散弾を放ち続けるが不発が続き、やがてマスケット銃は壊れてしまう。

周りには切死端の民の変わり果てた姿……


「父と子と聖霊の―― アーメン……」 杏音はその場に座り込み十字を切る。

一瞬にして杏音の姿はゾンビの群れに姿を消した……


「……正三よう、お前だけでも逃げ切れ。生きろ」 トウイチはそう言うとゾンビの群れに一人、ゆっくりと歩いて行った。


 暗闇から現れた数多くの黒妖犬がトウイチの体を噛む。

見る見るうちにトウイチはゾンビへと変わり果て赤目でゆらゆらと正三の方へと近づいて来た……


 後ずさる正三の足を掴むゾンビ。それは清吉であった……


「お前は…… オレと一緒さあ……」 


目前に迫る赤目のトウイチ。


グアアッ!――



――「うああっ!」 掛け布団をまくり上げ飛び起きる正三。


「なんだ。この野郎……」 暗い室内で一人、壁にもたれかかり酒を飲むトウイチがいた。


「ゆ、夢か…… やな夢だな、みんなゾンビに……」 正三は冷や汗を拭うと再び床に就く。


「縁起でもねえ事言ってんじゃねえぞ、コラ」


「むにゃむにゃ、大丈夫っスよ~」


「明日には江戸に到着でござるよ~」


「胸はいらぬ、尻でよいのだ…… グガー! グガー!」


 翌朝、もぬけの殻の宿を出発した一行はいたる所で屍の転がる静寂に包まれた街道を江戸へと進む。

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