――先覚者―― 〈街道にて〉

「それそれ! どけい! 道を開けぬか!」


「わわわっ!」


ズンズン! と地響きを立てながら馬に乗る武士の集団が街道を行く。

七人は道の隅から集団を眺める。


「白と黒のいでたちと、ひいふうみいよ……

 四十七人の赤穂浪士でござるな」


「へえ、本当に有名所が江戸に集まってんスね」 助さん格さんは呟いた。


――「栄誉や名声だろ」 トウイチが杏音の方を向きながら言った。


「私達は違いますよ!」 杏音は口を膨らませた。


「何てこと言うんですか! トウイチさん」 正三はとっさに杏音に詫びを入れた。


 赤穂浪士の集団が通り過ぎた後、七人が再び歩き始めると先の街道で、やつれた二人の村人がシクシクと泣いていた。


「どうしたんですか? こんな所で。ゾンビ…… 化物が出たら大変ですよ」 正三が村人に話しかけた。


「ワシらの村を救って欲しいって、あのお侍さん達にお願いしただ。無視されちまっただよ。もう終わりだ……」 そう一人が言うともう一人の村人が口を開いた。


「兄さん達は、旅芸人かい? 強そうなのがいらっしゃるが、ワシらの村を救って下さらんか? 頼んますだ」


「悪りいが無理だな。行くぞ」 トウイチは歩き出した。


「トウイチさん。話だけでも聞きましょう」 正三がそう言うとトウイチは溜息を付きながら立ち止まる。


――「事の始まりは化物が出始めてからだ。最近じゃ、あいつらのせいで村が全滅って事も珍しくねえだ。それに便乗してか賊の奴らも増えてきてまして。ワシらの村の近くに、あいつら砦を作りやがりましてね。毎日、化物から守ってやるってウソばかり付きやがりまして、やりたい放題、言われるがままでして。このままだと飢え死にです」


――「ふむふむ。ご隠居、拙者も気にはなっていたでござるが、江戸の不良どもが地方にゾンビが出始めているのを耳にして人々のいなくなった村の物をあさる。そして集団を作り大きくなる。江戸がもしも混乱、大災害と言う事になれば群れを成し戻ってくる……」 格さんは眉間にしわを寄せ話した。


「今のうちに手を打たねばならんのだ。助、格よ出来るのだ?」 ご隠居がそう言うと二人は深く頷いた。


「私もやります!」


「……僕だって!」


――「ゾンビと対人間じゃあ訳が違うぜ。なにも危険を冒してまで、こいつらを助けるがどこにある」 トウイチは言う。


「人殺しをする訳ではありません! ……懲らしめて、もう悪さをしないように」 杏音は返した。


「甘めえぜ。お姉ちゃん。ゾンビ狩りは達者でも、喧嘩は初めてなようだな?」 トウイチがそう言うと助さん格さんは小刻みに顔を縦に振った。


――「でも、このままでは絶対に後悔する! トウイチさん! 初めて会った日に話したじゃないですか。僕の両親も山賊に殺されたから気持ちが分かるんです!」 正三は二人の村人を見ながら力強く言った。


 数秒の間をあけてトウイチは言った。


「しょうがねえなあ…… 酒と寝床くらい用意しろよ」


「ありがとうございますだ!」

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