僕の体液はとても美味なのでサキュバスと吸血鬼に狙われてます
赤眼鏡の小説家先生
001 『涼ヶ峰姉妹のエナジードリンク』
「あら、
「いいえ、溜まっているのはリンパ液ではなく血液です。全く朝から血の気が多いですね、献血をして差し上げましょうか?」
唐突だけれど聞いて欲しい。
僕––––
具体的には、精液と血液を狙われている。
それは僕の精液と血液はとても美味しいから……らしい。
何を言っているんだお前はと自分でも分かってはいるが––––最後まで話を聞いて欲しい。
精液を狙っている方が、サキュバスの
長く艶のある黒髪と、サキュバスと言われれば納得出来るスタイルの持ち主で、いつもエロい事を考えている。
そして、血液を狙っているのが吸血鬼の
小柄な体躯をした少女で、セミショートに切り揃えた金髪と、可愛らしい八重歯を持つ。
二人合わせて
要するに、二人はそれぞれサキュバスと吸血鬼であり、僕の体液の味を気に入ったらしく、それで狙われている––––って話だ。
なんで姉妹なのにサキュバスと吸血鬼に別れているのかと言うと、父親が吸血鬼で母親がサキュバスのなんかよく分からない感じのハーフだからと昔聞いた覚えがある。
姉の
二人の正体を知った時は驚いたものだけれど、今ではとても困っているのが現状である。
「ちょっと、せっかく朝の元気な一番絞りを吸いに来たのに邪魔しないでくれるかしら」
「いいえ、血液というものは早朝、空腹、安静の状態で採血するのがベストなんです。病院でもそのように採血しているのを知らないのですか?」
「僕はお前らの眷属でもなければ、食料でもない! 下にある冷蔵庫にカルピスとトマトジュースが入ってるから、それでも飲んでろ!」
不満な表情を浮かべる二人を無視して、僕はベッドから出て急いで制服に着替える。
時計を確認すると八時を過ぎており、このままでは遅刻してしまう。
朝食を食べている時間は無さそうだ。
急いでワイシャツのボタンを留めていると、芹がおもむろにゴミ箱を持ち上げたのが見えた。
「着替えてる間にゴミを捨ててきてあげるわ」
「今日はゴミの日じゃないぞ」
「大丈夫よ、私にとってはゴミじゃないから」
と芹は訳の分からない事を言いながら、ゴミ箱を片手に僕の部屋を後にした。
中にはティッシュくらいしか入ってないと思うが、何故か芹は毎日ゴミ箱の中身を捨てたがる。
きっと綺麗好きなのだろう。
その光景を見ていた菘は「ずるい……」と呟いていた。
「何がズルいんだ?」
「なんでもありません。それよりも私にも血液をいただけませんか?」
私にも––––という表現に疑問を覚えたが、今はそんな事を気にしている余裕はないので、僕は菘を軽くあしらう。
「やだよ、朝血を抜かれるとフラフラしちゃうだろ」
「私も喉が乾いて、フラフラしちゃいそうです」
僕は先程芹が出て行ったドアを指差す。
「父さんと母さんは多分もう仕事に行ってるだろうから、勝手に冷蔵庫を開けて飲んでいいぞ」
「知っていますよ、お邪魔する時にご挨拶をしましたから」
くそ、母さんに芹と菘を絶対に上げるなと言っておいたのに聞きやしない。
それどころか、「毎朝起こしに来てくれてありがとうね〜」と言っている所さえ聞いた事がある。
正直に言って、朝から来られても困るし、僕には朝から献血する元気も、あのエロサキュバスに童貞を捧げる気もない。
というか、二人にとっては血液も精液も決して生きていくために必要なのではなく、栄養ドリンクとか、エナジードリンク的な位置付けらしい。
飲むと元気が出るとか、集中力が上がるとか––––そういう感じらしい。
まあ僕の生命力を吸い取っているのだから、栄養があるのは当たり前と言っちゃ当たり前なのかもしれないけど。
いやでも待て。
ちょっと待て。
僕は菘に血液をあげた事はある。
たまに首筋に噛み付かれて、血を吸われた事はある。
だが、芹に精液を提供した覚えはない。
なのに何故芹は、僕の精液を美味しいと言ったのだろうか?
アレかな、美味しい食べ物は匂いで美味しそうって分かるみたいに、芹からしたら僕はそういう匂いがするのだろうか……。
なーんて考えていると扉が開き、芹が空になったゴミ箱を片手に戻ってきた。
そして、ゴミ箱を手渡された。
「今日もいっぱい出したわね」
「いや、そんなにゴミは無かったと思うけど……」
疑問に思いながら芹の顔を見ると、口元に何か付いている––––ティッシュだ。
「口にティッシュ付いてるぞ」
「あら、本当だわ。飲んだ時についちゃったのね」
「飲んだって……カルピスか?」
僕がそう尋ねると、芹は「そうね」と含み笑いをしてみせた。
「濃厚カルピスよ」
「あっそ……」
まあ、カルピスは自分で濃さを調整出来るからな。僕もカルピスは濃い目が好きだ。
でも何故か絶妙に会話が噛み合ってない気もするが、気のせいだろうか?
そして、これまた何故か菘が羨ましそうに芹を見ていた。
「姉さんだけそうやっていつもズルいです」
「私は毎日このエチエチボディで誘惑してるもの」
そう、確かに誘惑されている。大きな胸を押し付けられたり、ほぼ裸も同然のような服で夜中に忍び込まれたり。
その誘惑に答えてしまうと、僕は一生芹に絞り取られてしまう気がするので、なんとか耐えているのが現状である。
おかげで僕のティッシュの消費量は多めだけどね(これでも僕だって年頃の男だ)。
逆に菘は、自身の胸を見下ろした。失礼かもしれないが、真っ平らな胸を見下ろした。
「なぜ私は姉さんとは違い、第二次成長期がまだ来ないのでしょうか……」
かける言葉もない。姉妹なのにその格差は年々開く一方である。
そんな妹を気遣ったのか芹は、菘の肩を叩いた。
「大丈夫よ、世の中にはそういう体型の子が好みの人もいるから」
「…………」
いやそれはどうなんだ……と思ったが、ややこしくなりそうなので僕は黙っておくことにした。
しかし、これは判断ミスであるとすぐに気が付いた。
「なら、湊さんはどうですか?」
「へ?」
「エチエチボディとペタペタボディ、どちらが好みですか?」
「どっちって……」
まさかこっちに飛び火してくるとは考えてもいなかった––––どうしよう。
「湊さんはペタペタボディの方が好きなんですか?」
そう聞きながら、菘は自身の胸の辺りをなぞる。その仕草は妙に色っぽい。
「あらあら、すずちゃんも誘惑タイムかしら?」
芹は僕のベッドに腰を下ろしながら、楽しそうに尋ねた。こいつ、この状況を楽しんでやがる……。
菘はその問いに対し、少し考える仕草を見せてから––––おもむろに僕に近づいてきた。
「お、おい、誘惑ってまさか……芹みたいなことをするつもりか?」
菘は無言でコクリと頷く。
そしてさらに接近する。
近い、とても近い。
どのくらい近いかというと、菘の瞳の中に映る僕の動揺した顔がはっきりと見える。
吸血鬼の目には、異性を誘惑する効果があるとか、何かの本で読んだことがある。
そして僕は、菘に見つめられとてもドキドキしている。
心拍数が上がっている。
血圧が上がっている。
「血圧が上がって来ましたね、その状態は体に負担がかかります。なので––––献血をしましょう。献血をすると、微弱ながら血圧が下がります、吸ってもいいですか?」
「性的な誘惑じゃなくて、採血的な勧誘かよ⁉︎」
菘は僕の言葉の意味が分からなかったのか、不思議そうな顔で小首を傾げ、芹は頭に手を当てていた。
「わが妹ながら、どうしてこう……微妙にズレているのかしら……」
「私はズレてなどいませんよ、姉さん」
それよりも、と菘は時計を指差した。
「ズレているのはあの時計の方ですよ」
菘に指摘され、よーく時計を確認してみると、針が止まっていることに気づいた(多分電池切れだ)。
なので、急いでスマホを取り出し時間を確認する。
……今日の遅刻が確定していた。
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