タイシとシナリのダイジェスト・・・夏

naka-motoo

シナリの個人的な戦い

 おそらくは病気による体躯の容姿を指さされて幼稚園の頃からいじめ続けられる人生を送ってきた少女・シナリが新薬の効能で痩身となった高2。

 戊辰戦争に藩士として参戦し戦死した武士を先祖に持つ少年・タイシと出会い、2人は高校を一年間休学して『市街戦』を戦うための日常を暮らし始めた。


 それが春。


 そして夏。


 通常は犯罪者まがいや犯罪者予備軍の中でも地に足のついた(愉快犯ではない輩どもという意味で)悪因縁の者たちを相手に素手やせいぜい木刀やらで世間に認知されないからこそ『合法』ギリギリのフィジカルな戦闘行為を繰り返してきた2人に唐突に異次元な敵が捩じ込まれた。


「軍隊と戦ってくれ」


 2人のスーパーバイザーであるタイシの祖母が指令を出した。

 祖母は自分勝手に判断はしない。自分の姑でありおそらくはホンモノの霊能・・・真実を言うと神威であったと思われる・・・を持ったその位牌に伺いを立て、間違いないと判断した場合にのみ自分の孫であるタイシと清涼なパートナー・シナリに敵へのコンタクトと殲滅を命じた。


 だが、あまりにも度を過ぎた敵にさすがの祖母も内心恐れおののきながらの指令だった。


「ばあちゃん。軍隊? なんだよそれ」

「タイシ・・・八月に入ると河川敷で花火大会があろう」

「うん」

「バイクのアクセルをふかす輩が集うんじゃ」

「おばあちゃん。それって暴走族のことですか?」

「おおそうじゃ、シナリちゃん。ボウソウゾクって言うんじゃな。それでそいつらがの」

「はい」

「銃を手に入れたんじゃ」


 タイシとシナリはしばらく絶句した。


「ばあちゃん。それで僕とシナリにどうしろと」

「だからその素人軍隊と戦ってくれ」


 タイシは暴走族がどういう経路で銃を入手したか、それを使って何をするつもりかは取り敢えず放っておいて祖母に三文字を告げた。


「いやだ」


 だがシナリが反応する。


「タイシ・・・やろうよ」

「シナリ。銃に勝てる?」

「大おばあちゃんのお告げでしょ? できるから断言してるんだと思う。そうですよね、おばあちゃん」

「シナリちゃんの方がよほど武士らしい。おんな武士じゃわ」


 事実シナリはかつて敵と対峙した時に命がけの『意思決定』・・・敢えて翻訳するなら自害・・・の本気を見せつけて敵の戦意を喪失させたことがあった。


「はあ・・・」


 タイシは一旦閉じた目を再度開けて祖母の言質を取ろうとした。


「死なない方法、教えてよね」


 ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎


 タイシは子供の頃、まだ両親と妹が生きていた時に家族揃って自転車で堤防まで出かけていたことを思い出した。

 小さな街とて夜の最後の飛行機が空港を経ってから打ち上げスタートとなる花火に地方の零細な大会とはいえ、憧れを持って見続けていた。


 その会場が戦場になるという。

 暴走族が暴力団から『現物支給』された安物の銃によって。


「まあ最近のヤクザと小間使いどももドライな関係のようじゃの」

「ばあちゃん。唐突に横文字使うのやめて」

「うるさいわタイシ。とにかく暴力団は暴走族に下働きさせる時に金か脅しかでコキ使っとったんじゃが最近の若い子はそういうものでも納得せんようでの。暴力団は暴走族のココロをつなぎとめておきたい。ならばということで若いモンどもの好奇心に訴えたわけじゃ」

「好奇心?」

「銃を撃ってみたいという好奇心じゃ」

「なにそれ」


 タイシのつぶやきにシナリも同意する。


「酷いですね・・・どちらもいなくなればいいのに」

「シナリちゃん。その通りなのじゃが両方とも娑婆に出てくる縁はしとるわいのう・・・」


 夜、タイシとシナリは台所で戦い方を練った。


「シナリ。とにかく暴走族を人混みから誘い出さないと」

「うん。花火の音に紛れて銃の『試し撃ち』するなんて」

「暴走族は人を標的にせずに試し撃ちするつもりらしいけどそれで済む訳ないよね、シナリ」

「うん。逸れた弾は小さな女の子の足を貫くかもしれない。暴発した銃の破片が隣の人を失明させるかもしれない」

「殺さないつもりで大勢の人を殺傷してしまう・・・か。新しいね」

「タイシ。新しくもなんともないよ」

「?」


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 台所での打ち合わせを終え、タイシは誕生日にシナリからプレゼントされたペンギンの抱き枕で安眠していたのだが冷感素材がぬるまったからだろうか、いつものようにではなく深夜3時ごろに目が覚めた。


「シナリ」


 超早朝の風で涼もうと庭に出るとシナリが立っていた。

 泣いているのかと見まごうた頰の雫は汗だった。


「なんでこんな時間に」

「絶対に負けたくないから」


 シナリは明日の晩に使う予定の竹竿を1,000回振ったという。上段から下段へ300回、下段から上段へ300回、左右水平に300回、突きを100回。


「タイシ。興味本位の暴力がわたしは一番嫌い。それならまだ経済的に不遇な国の子供がストリートギャングをやってるのの方がまだ理解できる」

「・・・そうだね」

「暴走族も、暴力団も、テロリストも、大嫌い。戦争だって、嫌い。『民間施設を誤爆』なんて開き直ってるのと同じ」


 そして最後にシナリは付け加えた。


「いじめをする子たちも、同じ。全員滅ぼしたい」

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