それぞれの無謀な目的

 


「でも、ゼクスの考えはただの空想じゃなくて実体験に基づいているのよ。私はミュウから聞いたのだけど、ゼクスは数年前両親についていって、短い間だけど村の外に修行に出たの。だけどその時に何かが起きて何人もの人間を殺したらしいわ、その時からそんな考えを持つようになったらしいの」


 人に歴史ありってことか、オルトはそんなものなかったから思い当らなかった。


 やはり理由がある殺人鬼より、理由なんて一つもない殺人鬼の方が怖いな。


「注意する人はそのぐらいかなあ」


「わかったわ。なら今までの話をまとめるとヒイラギのグループはおいしい食べ物、ファイのグループは人が少ない町、ゼクスは自分探しが目的というところかしらね」


「そうだね、あたしもそんな感じだと思うよ」


 確かに白い子の言うように、いつ問題を起こしても疑問に思わないような奴らばかりだ。


 じゃあ、しばらくほっとくか。


 放置しておいて一般人に被害を出すのも問題だが、何もしてないのに危険だからという理由で手を出すのもあってはならないことだ。


「とりあえず、オルトに警戒と警備の強化を命令しておくよ。君たちは何らかの報告が上がるまでは好きにするといいさ」


 とりあえずそこまでの結論を出すと、子供たちに頼まれて一時間だけ勉強を見てあげることになった。


 オルトはもう少し後に教室に来るから、それまで自習だったらしい。


 ぼくは基本的なアイテムの授業をしようと思った。


「君たちはアイテムのことについて、どのぐらいの知識を持っているかな?」


「えっと、私たちの村ではそんなもの使う必要がないから覚えなくてもいいって習いました」


 服屋になる予定の子が、小さな声でそう言った。


「成る程ね。まあトール村の価値観では確かにそうなるか。でも外の世界ではアイテムのことは最も重要な情報の一つと言ってもいい。基礎中の基礎の話をしようか」


 ぼくは、五歳ぐらいの子が学ぶ内容から語ることに決めた。


 ある程度、簡略的にだが。


「昔の偉人。賢者って奴が作って世間に広めた凄いものを総称してアイテム、っていうのが一般的な通称だけど実際には君たちが手に持ってる何の変哲もないペン。地面に落ちている石ころ。服とか薬とか、言ってしまえばこの世の全てのものはアイテムなんだと」


「そうなの?」


「ああ、世間は誤解しているみたいだけど、大昔に賢者が残した本にそう書いてあったよ。一般にはあまり知られてないけど、別に凄いアイテムを作れるのは賢者だけじゃないし」


「そうなの!?」


「そうだよ、誰でも知っているぐらいに世間に広めたのは確かに賢者だけど、広まってなかっただけで凄いアイテムならもっと古い時代からあるってことが歴史研究でわかってる。なんか賢者が生きていた時に長生きの種族に色々と話を聞いて本にしたらしいぞ」


「へえ、読んでみたいなあ」


「今の時代でも、大したことない奴にだって大したことがないアイテムなら作れるよ。ぼくにだってね」


「クルギスもアイテムを作れるの? 私はオルトから習って少しだけ知っているけど、クルギスが使っているアイテムは見たこともないものが多いわ。全部自分で作っているの?」


「いや、基本的にぼくはアイテムを作れても作らない。面倒だからな。ぼくが使っているものが君が見たことがないアイテムばかりに見えるのは、ぼくが人が見向きもしないような危険なアイテムや、役に立たないと思われているアイテムばかりを使っているからだ。あまりにも無価値に思われていて、本に載っていなかったり危険アイテムの本に載ってたりする。興味があるなら探してみるといい」


「なんでそんなものを使うの? できれば危ないものは使わないでほしいわ」


 白い子が、心配そうにそう言った。


「単純に威力が高い。一度使ったら壊れる代わりに桁違いの威力が出るからな。それと君と同じようにあまり知られていないから、対処されにくいという利点があるんだ。覚えておくといい、使い道がない役に立たないと思えるものにほど、たった一か所だけ他のアイテムなんて比べ物にならないほどの成果を出してくれるものだよ。どこに使えるかを探し出すのが持ち主の実力だ」


 そこまで話すと、教室にオルトが入ってきた。


「おや、クルが授業をしてくれていたんですか? ありがとう。でもだったらもっと遅くに来てもよかったですね」


 何を図々しいことを。


 適当に聞き流すと、さっき子供たちと話していた内容をオルトに聞かせる。


「ああ、それは不味いですね。今すぐ手を打ちましょう。クルはアイテムを使って今すぐにゼクスを探し出して何とかしてください」


「何で?」


「ゼクスは今、この瞬間にも大量殺人をしてもおかしくないからです。一刻の猶予もないと思いますよ」


「だから、なんで?」


「今までゼクスは、人間の数が少ない村で生きていたから色々なものに気づかずに生きてこれましたが、これだけ人だらけの世界に一人で出て行ってしまったら、人間の価値と言うものをあっと言う間に決定してしまうでしょう。それも悪い方に。こんな時代ですからね。悪い人間なんていくらでもいます。おれが聞いたところゼクスはとても純粋で脆い子供に聞こえます。全てに絶望してしまうのはとても速いでしょう」


 流石に、良く分かっているようだった。

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