様々な考えかた
「ヒイラギ君はクルギス君が茶髪の子って呼んでた男の子だよ、確か十六歳だったかなあ。私たちのリーダーって感じで、強さも子供の中では二番目だよ」
ふむ。
「頭もいいしね。でもあたしたちとは根本的な考え方がちょっと違ってて優しいんだよね。今回出て行っちゃったのも、自分が王都にいるのが嫌だったんじゃなくて、キオン君みたいな仲のいい友達が可哀そうだったから出て行っちゃったんだろうね」
「ふーん。トール村の人間は優しくないのが普通なのか?」
「そんなことはないと思うけど、基本的には自分だけが優先で、自分だけが中心かなあ。でも自分が認めた人の言うことはちゃんと聞くけどね」
野生動物かと思うような思考回路だ。
基本的には誰とでも戦って、負けたら服従する。とても現代人とは思えない。
特にぼくとは相容れない。
だからぼくは白い子が、心のどこかで苦手なのだろうか。
「次はキオン君ね、クルギス君は赤毛の子って呼んでたよ。うーん、簡単に言うと野蛮人かな? 短気で大雑把? 筋力とか素早さみたいな基本的な能力はあたしたちの中でもかなり高いと思うんだけど、心がダメダメだね。戦い方も単純すぎるから私たちの中だとそんなに強くないかなあ。でも一番トール村らしい男の子だとあたしは思うけどね」
それはつまり、トール村の人間は野蛮人だと思えばいいのだろうか。
でもこう言ってはなんだが、白い子は奇跡の子とは関係なく優秀過ぎるので当然としても、笑顔の子から深い知性を感じるのだが。
「次は別グループだけどファイ君かな。戦うのが好きだから退屈な王都になんていたくないって言ってたけど嘘だと思う。多分彼はイリスちゃんのために出てったんだと思うな」
「イリス?」
「うん、ファイ君の妹でね。なんか変なものが見えるんだってえ。なんだっけ、死んだ後の人間。幽霊だったっけ? そんなのが見えるんだって」
「へえ、トール村の人間は幽霊が見えるのか?」
「聞いたことがないわね。厳密にはわからないけど多分イリスだけよ。外の世界、例えば王都ではどうなのかしら?」
ぼくは白い子からの質問を、頭の中で軽く考えてみる。
「どうかな、他種族の事情は詳しくはわからないが、一応神族なんてものがいる世界だしな。でもとりあえずぼくが知る限り人間族には基本的に幽霊は見えない。幽霊が見える人間がいるなんて噂を聞いたこともない。幽霊が見えるということは理屈的に言えば、基本的には親しい人間が死んだことを受け入れることができない人間が、死んだ人間がまだ近くにいてくれて自分を見守ってくれているのではないかという願望だろうな」
もっともそれは決して馬鹿にしたものではない。
思い込みで、実際に見えているように感じている人間も確かにいるのだ。
その場合、確かにその言葉は嘘ではない。
嘘を見抜くアイテムを使っても嘘であるという結果は出ないからだ。
「それで、イリスが幽霊を見えるからと言ってなんで王都を出ていくんだ?」
「なんか、王都っていっぱい幽霊が出るんだって。イリスちゃんは毎日気持ち悪くて仕方がないって言ってたよ。王都に来てからの半分ぐらいは寝込んでたんじゃないかなあ?」
……確かに、死者が見えるというのならトール村と王都では人数が桁違いだろうな。
トール村の人口は五十人ほど。死人が出るのは年に数人程度だろう。
だがメテオ国の王都の人口は数百万人だ。年なんて言わず、月でも何十人以上死んでいるだろう。
しかもそれは自然死でという話だ。
王城の中ではさまざまな陰謀が渦巻いて、理由なんて問わずにガンガン人は死んでいく。
というか、最低でもぼくを殺そうとする他の王子の刺客を一月でも何十人も殺している。
積極的に殺そうとしなくても、ぼくを攻撃してきたやつをカウンター攻撃するアイテムで殺してしまうのである。
まあ、攻撃してきたやつを生かして返す気などさらさらないが。
「次はゼクス君かな。彼はねえ、よくわからないなあ。なんか村にいた時からすごく難しいことばっかり言ってたよ。あたしには一つもわからなかったけど。アンナちゃんが説明してよ」
「彼は命というものに疑問を抱いていたわ。トール村の人間である自分はあまりにも強すぎて戦えば勝つのが当たり前、つまり殺すのが当たり前。人でも魔獣でも簡単に殺してしまう自分にとって命の価値とはいったい何なのかって常に考えていたわね」
なんだそりゃ。
人のことは言えないが、若いのに随分と哲学的な考えを持っている。しかもその疑問に普遍的な回答なんて存在しない。
あくまでも個々人の答えしかないのだから納得できないのなら永遠に悩むものだぞ。
昔オルトが似たような悩みを持ってたからよくわかる。あいつは元殺人鬼だからな。
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