アンナの思考
「あと、七人か。お前たちやっぱり強すぎるんだな。攻撃を避けたり受けたりするのが下手過ぎる。今の一撃ぐらいなら普通に強い奴でも避けることが出来たぞ?鈍すぎる。いつもいつも一方的な攻撃ばかりしているからだ」
呆れながら事実を教えてやる。少なくてもあれぐらいは避けなければ。
避けられない攻撃はしていないのだから。
ぼくは余裕をアピールするかのように数秒の間目を閉じて、なにもしない。
体に走る衝撃から、千を超える攻撃をされていることがわかるが、一つのダメージもない。
ゆっくりと目を開けるとあまりの無意味さに気づいたのか、ぼくから距離を置いた赤髪の少年が床を砕き、砂埃が舞う。
これは目くらましのつもりなのだろう。
時間が欲しいのならあげることにしよう。煙が晴れるまでのんびり待つ。
まあ、煙に乗じて攻撃してきたら当然反撃するがな。
たっぷり二十秒は休憩が出来ると思ったら、声が聞こえてきた。
「クルギス皇子、これでは勝負になりません。どんなアイテムを使っているか教えてくれませんか?」
「相手の力がわからないことは当たり前だ。ぼくにはアイテムがあり、君たちには人数と素の強さがある。特に反則もない以上、その必要はないな」
「ですが、この勝負はおれたちの心を折ることにあるのでしょう?ここまで意味の分からない負け方をしてしまってはおれたちの心にはなにも残りませんよ」
「きみたちの心を折りたいのは国の意思だ。ぼくの意思じゃない。何度も言うがぼくは別に君たちなんていらないからな。ぼくにされた依頼は君たちに勝つことだけだ。他には興味がない」
「なら、この戦いに意味はないってことですか?」
「意味は初めからないよ。きみたちのための戦いというわけでもない。この戦いは単純にきみたちが王国に逆らったら死ぬ、という現実を教えてあげるだけの戦いだ。きみたちが王国に逆らったらぼくが追うことになるんだろうさ」
「……あなたは、わりとおれたちの味方側かと思っていたのですが、違うんですね?」
「それは当たり前だろう?でも敵というわけでもない。きみたちがちゃんと国王の命令に逆らわず裏切らなければ、どれだけ理不尽な命令をされてもぼくがきみたちの敵になることなんてない。言っただろう?ぼくはきみたちに命の代金分は働けといっているだけだよ。それ以外の全ては自由にすればいい」
「あんたって人は!」
「おっと」
凄いスピードで大剣が投げられた。
当然、ぼくには当たっても意味がない。
「遠距離攻撃も意味がないのね。でも、クルギスは?」
「アンナ!冷静に考えている場合じゃないぞ!これは無意味な戦いだよ」
「ならリタイヤすればいいでしょう?勝ち目がないから戦わないという程度なら、戦いなんてやめなさい。そんな人間は単純に少し強い程度で、才能の欠片もないから」
「なんでだよ。勝ち目がない戦いに意味なんてないだろう?」
「言い訳して、逃げて。簡単に勝てる相手とだけ戦うの?そんなのつまらない。勝ち目がないのなら作りなさい。負けたくないなら逃げなさい。そうすれば運命に追いつかれるまでは生きていけるわよ」
「……」
「私はこんなに楽しい戦いから下りる気はないわ。私にだけはわかりきっていたけど私より強い、それも圧倒的に強い子供になんて初めて会ったもの。楽しくてたまらないわ」
「お前は狂ってるよ!」
「そんなことはないわ。あなたと違って私には勝ち目がちゃんとあるもの。魔法の言葉がね」
アンナは、茶髪の子に冷たい笑顔で笑ってぼくに語り掛ける。
「ねえ、クルギス。あなたにとって、この戦いの意味って何?」
「意味も何もない。命令されたから従うだけだよ」
「あなたにとって国王って上司なの?あなたより格上の存在なの?」
「ぼくに、ではなくこの国の皇子にとって、というべきだな。そしてぼくの職業はこの国の皇子だ。仕事はちゃんとこなさなければならないよ」
「なるほど、つまり仕事としての価値はあるけどクルギス個人にとっての価値はないのね?ならクルギスにとっての価値があることってなにかしら?」
「今のところはそんなものはないよ。でも、強いて言えばちゃんと仕事をこなすことかな?理由を教える気はないけど、目的のためにぼくは自分の価値を上げる必要があるからね」
「じゃあ、皇子としての仕事って何?」
「この国を良くすることだ。そのための手段はたくさん存在する。役に立たない君たちを役に立つようにするのもその一つだ」
「なら、授業をしてくれないかしら?」
白い子が一つの提案をしてきた。こういう遊びは割と好きだ。実践なら気にもしないが、今回は付き合ってやってもいいかもしれない。
「ふむ」
「勝ち目の欠片もない戦いという授業はもう必要ないでしょう?十分理解したもの。授業の内容を変えましょう?」
「中々、頭が回るね」
「それはそうよ。数日だけど、クルギスのやり方を学んだもの」
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