勝負にすらならない
「仕方ない。なら少しだけ状況説明をするか。ぼくはこのステージの範囲の中に効果があるアイテムを使った。「単純な本音」という名前で誰かのルールを具現化する。ルールを守れば絶大な効果が生まれ、破れば何もできない」
「それは、「空間支配型」アイテムってこと?」
「そうだ」
空間支配型とは、決められた一定の範囲の中で好きなルールを適用させる、使い方によっては無敵にすら思える効果だ。
「誰かに聞いたんだけど、サード以上のアイテムにしか「空間支配型」は存在しないって聞いたわ。でも、私たち程度に、クルギスがサードのアイテムを使うの?」
「いや、使ってない「単純な本音」はランクゼロだからな」
アイテムのランクはファーストからフィフス。ゼロはそれ以下の欠陥品だ。使い手すらも危険に晒す。
「それはありえないわよ。ランクゼロでそこまで強力な効果が生まれるわけがないわ」
「普通はそうだ。だが、このアイテムは通常存在しない決定的な弱点を持っている。……今使っているのがどこの誰のルールなのか、誰にもわからないんだよ」
「……どこの誰のルールなのかわからないし、自分に有利になるとも限らないってことかしら?」
「その通り」
「私は面白そうだと思うけど、クルギスもギャンブルが好きなのかしら?」
「嫌いじゃないよ。でもこのアイテムを使うことを決めたのは君たちにも勝ち目が存在するからだよ。極端な話、運が良ければぼくに圧勝できたんだから」
「それで、どんなルールなの?」
「それはわからない」
「そんなことはないでしょう?クルギスは私たちに攻撃できたのに?」
「ある程度の推測は出来ているけど、別に確証はないし大体、それは自分で見つけるんだよ。君たちと同じようにぼくもわかってないんだからね」
「つまり、クルギスはアイテムを使った後に一瞬でルールを見つけたってこと?」
「時間的に言えば、そのぐらいだったけどそれでも百通り以上の実験をしているよ」
「それは凄いわね。つまり、心臓の鼓動から心理的な行為まで全て試しているのね?」
「個人のルールってものはね、余人には計り知れないものだよ。これはないだろうなんて理屈は存在しない。誰のルールかわかっていてもだし、十年来の友人でも想像もできない考えをしているなんてことは珍しい話ではないからね」
「そうね。……つまり私の発想自体が間違っているのね? 今回の場合全てを試してみるのではなく、クルギスに何ができるのかということを探るべきなのね?」
「どういうことだよ?」
なにも理解できていない茶髪の子が、白い子に戸惑いながら質問をする。
「クルギスには私たちを攻撃できている、ということよ。もしかしたら不完全な状態の攻撃をしているのかもしれないけど、それでも私たちが気絶するほど十分すぎる攻撃が出来ている。基本的な能力が私たちよりはるかに弱いクルギスが、よ? つまり、同じことが出来れば私たちに負けはないのよ。そして、「クルギスにできること」の範囲は、「全て」という範囲よりは遥かに少ないということよ」
「でも皇子にできることなんてわからないだろう?」
「これはそれを探る戦いなのよ。そして答えは私たちがクルギスより上手くできるようなことではない、という推測が出来るわ。私たちが苦手なこと、そして私たちが普段使わないことの範囲に含まれると推測できるわ。そうじゃなければ攻撃できているはずだもの。問題は私たち一人一人にも得手不得手があるということよ。同じ故郷でも差は歴然と存在する。二人だとその擦り合わせが出来ない」
自分の推理をそこまで喋ると、白い子は少し黙る。
「ねえ、クルギス。私たちに不可能なことではないのよね?」
「そんなものはルールしだいだ。完全なランダムな以上、君たちにだけは絶対にできないルールだということは十分あり得るさ」
「でも、そのぐらいは教えてくれるわよね。ルールは変わったもの」
「確かにね。……まあ不可能じゃないよ。そして、別に今のぼくが得意なものでもない」
「……魔法、あるいは魔力ね?」
「へえ」
「はあ?」
「クルギスに苦手なものはない。クルギスの中にあるものはその程度の才能じゃないもの。戦闘や運動だって単純に自分を鍛える暇がないというだけよね?つまり答えは世間的な一般ではないものに含まれるのよ。でも今の時代では後進に魔法を教えてくれる人なんていないものね。苦手なはずよ」
「いい線をついているよ」
「結論として魔力を、纏わせた攻撃をすればいいのね?」
「正解だよ。流石に奇跡の子だね。ぎりぎりだけど答えにたどり着いたようだ」
「そうね。一瞬で気づいたクルギスに比べれば遅すぎるけど、なんとか間に合ったわ。でも……」
白い子は腕を何回も振る。
「クルギスは、試合が始まるまでは魔力を纏わせた攻撃なんて出来なかったのよね?」
「当然だろう、そんなことが出来ても意味がない。覚えたってとっとと忘れるよ。脳みその無駄遣いだからな」
「そうよね。ならそれは諦めるしかないわね。私にはこの戦いで使えるようにはなりそうにないわ」
「棄権するのか?」
「いえ、特攻させてもらうわ!」
白い子は茶髪の子と二人でぼくに攻撃してきたので、簡単に腕を振るって潰した。
勝ち目がないことを完全に理解したのでとっとと負けることを選ぶのはいい手だと思う。
時間の無駄だからな。
流石に白い子は才能がある。戦いだけではなく頭脳も。
向いてはいないようだがリーダーシップもあるだろう。
もう少し学べばオルトにも負けない強さを得るだろう。
だが、本当の収穫は茶髪の子だ。彼は大したことがない。
弱いし、頭も悪い。
自棄になるように心だって弱い、年齢相応の子供だ。
だが、曲がりなりにも最後まで残ったし、素質は感じられる。
白い子には決して及ばなくても、大人になるころには一角の人物にはなれるだろう。
まあ、ぼくには関係がないが。
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