子供たちの扱い

 


「そのことはさっきの説明で、全員が理解しているだろう。だからこそどうすればいいのか説明が欲しいのだ」


「第十皇子様、我々は全員、この国のためを想って行動しているのです。我々は同じ思いではありませんか」


 同じ想い?誰が?


「いえ、違いますよ。ぼくは国王の命令に従っているだけです。国のためを思ったことなどありません」


「なんだと?」


 全員がざわめく。これまでで一番大きいざわめきだ。


 この人たちはこのぼくが国家ごときに何かを思っていると考えているのだろうか?


「ぼくは国王の命令に、ある程度ではありますが従います。そして国王は国の利益や平和のために動いている。つまりぼくも国のために動いているという見方もできるでしょうね」


「だとしても国家反逆を目論んでいると受け取られてもおかしくない発言ですぞ!」


「それでもぼくが国に出している利益は他の追随を許さないはずです。ぼくがこの国にいることによって救われている存在は数多いでしょう。それでも、ぼくは非難される立場だというのなら国外追放処分をしてくれても結構ですよ」


 出て行けと言うなら、色々と考えないこともない。


「そ、それは!」


「不可能だな。クルギスがこの国に来た八歳の時から、今までの四年間の功績を数えれば表に出ているだけで国中で五本の指に入り、全てを合わせれば誰も比べることが出来ないほどだろう。既に歴史に名が残るほどの存在だし、なにより全ての功績は純粋な頭脳によってのみ生み出されている。世論的にも民がどれだけの評価をしているか……」


「だ、第一王子様」


 論破され、救いを求める目を向けている。


 流石に国王の片腕である。


 第一王子はある程度は状況が見えている。ぼくがいなくなれば、この国はどうなるのかという現実を。


「国王陛下の命令に従うと明言しているのだ。この国の敵ではないと判断しなければならないだろう。クルギス、教えてくれ。これから子供たちをどうすればいいと思うんだ?」


 やはり、こいつは最低限分かっている。


「ふう、単純な話だよ。傲慢な奴に言うことを聞かせるには心を折るのが一番だよ」


「それは、力を見せ、従わせるというのか?それが出来る人材がいないからこそ使い道に困るという話ではないのか?」


 国王が話を継ぐ。


「戦闘力では、不可能です。ならそれ以外で屈服させればいいでしょう」


「それは頭脳でということか?だが、勉学で勝ったところで意味があるのか?」


「戦いと絡めればいいでしょう。例えば戦術とか。彼らは単純な個人主義ですからね。しっかりと戦略を練って罠にはめて半殺しにすればいいでしょう。幸いアイテムというものがありますし、使い方次第で少しぐらいは実力差を埋めることが出来ますよ」


「なるほどな。その人選は?」


「別に誰でもいいでしょう。どれだけ圧倒的な力を持っていようとも、ぼくが出した方針があれば問題なく倒せますよ。まあ、大人の誰かでいいのでは?」


 そんな人材がいれば、だが。


「クルギスがやるわけではないのか?」


「ぼくは子供たちに興味がありませんので、ぼくに屈服されても迷惑なだけですよ。自分の戦力にしたいと考える方が行動するのが合理的でしょうね。たとえば第一王子でどうですか?」


「別にかまわないが、なぜお前は子供たちに興味がないんだ?」


 心の底から疑問そうにぼくに尋ねる。


「いらないからですよ」


「いらない?」


「ぼくは自分が育てた人間なら、誰でもぼくの役に立つようになると思っていますからね。対象は誰でもいいんです。初めの才能にも実力にも性別にも年齢にもなんの意味もないのです。ぼくが育てれば十分な働きをするので。別に最初から強い奴らを育てる意味なんてまったくありませんから、気に入った人間を自分の部下に欲しいと考えています」


「随分な自信だな。それで今の部下は何人いるんだ?」


「まあ一人もいません。といいたいところですが、とりあえず鍛えている人間は一人だけいますよ。見所はあると思います」


「そうなのか?誰だ?」


 第一王子が目ざとく尋ねてくる。


「説明する必要はないですね。ぼくは第一王子の部下を全員紹介された記憶を持っていないので」


 もっとも、なにがあろうと教えてやる気はないのだが。


「では第一王子よ、この作戦をやってみるか?」


「志願したいところではありますが、やはり参謀殿か、軍師殿が行うべきだと考えます。それが最も国益になるのではないでしょうか」


「ぜひ私にご命令を!」


 参謀が声を上げた。


「可能か?」


「力だけの子供を倒すことぐらい簡単でしょう」


 参謀は自信がありげに答えた。


「では、参謀に任命する。トール村の子供たちを我が国の戦力にするのだ」


「はっ!」


 時間の無駄という言葉を飲み込む。


 トール村の人間は戦闘力が高すぎて、勝つには作戦を練るしかない。だが、多少優れた作戦ぐらいならなんの意味もないだろう。その程度の実力差ではないのだから。


 ぼくの見たところ、少なくてもこの会議室でこの作戦が達成可能な人間はいないだろう。だからこそ時間の無駄なのだ。

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