強いだけでは物足りない
「そうではない!なぜ騎士団に迎えるという意見があり得ないのだと聞いているのだ!」
参謀が机を叩き、叫んだ。仮にも皇子であるこのぼくに向かって。
「わからないのですか?」
「わかるわけがないだろう!あれだけの戦力を使わないなど!」
「はあ、では、質問しますが、参謀はトール村の人間の情報を持っていますか?」
そもそもの大前提から質問していく。
「当たり前だ。圧倒的な戦力を持った人類最強の戦力。たった一人で一国の行く末を左右すると言われるほどの連中だ。子供だとしても現時点で相当の強さを誇っているに決まっている!」
「では、その人間性、あるいは性格はどうですか?」
「なに?い、いやそんなものは個人によって違うものだろう?二十人もの人数、それも会ったこともなければ把握できるわけないだろう」
当然のことを語っているようにも聞こえるが、一国の参謀が会議の内容の下調べをしていないとはどれだけ慢心しているというのか。
ぼくが任務に行っている間にどうにでも出来たのに。
ぼくなんて帰ってきてから執事に軽く話を聞いた程度なのに。
……やはりあの執事は裏切り者だ。
「そうですか?ぼくが知っている情報では、トール村の人間は戦闘能力至上主義であり、弱い人間を見下し、個人主義で単独行動をとるような傾向があると理解していますが?少なくとも、白鴎騎士団の団長はそういう人間だと理解していますよ。」
まあ、多少はまともなところもあるようだが。
「うむ、確かに白鴎騎士団の団長はそういう性格だと言われているな」
「で、ですが個人で全体を判断するのは」
「報告書でも記載しましたが、そもそも村が滅びる原因や、王都に戻るまでの接触でも全体的にそういう印象を感じましたよ。そのことも報告してあります」
「ほう。それで?」
「失礼ですが、我が国の騎士団では従順に命令を聞かせるために、子供たちを屈服させることが出来るほどの実力を見せることは出来ないでしょう。命令違反をする騎士なんて足を引っ張るだけですし、教育のために相手をさせるのが白鴎騎士団の団長では、同じ村の出身ですから実力を見せる意味が薄い、そして団長が一人だけ強いことを見せつけても、二十人の子供たちを分散して複数の騎士団に配属するのなら、結局反抗されるだけだと考えます」
「では、全員を白鴎騎士団に所属させればよいのではないか?」
「我が国で最強の騎士団に新しい戦力を加えてさらに強くしても、国の騎士団全体が強くなるわけではありません。一つの団だけが圧倒的に強くなっても、むしろ纏まっている団の輪を乱してしまうだけでしょう。最悪の場合、騎士団が分裂してしまうかもしれません」
「では、全くの新しい騎士団を創設するべきか?」
「子供だけでたった二十人の騎士団を作るのですか?……初陣で全滅しますね。どれだけ強くても使いこなせなければ意味がない。罠にかけられて全滅するのが落ちでしょう。ぼくがせっかく国王からの命令を受けてまで命を救ったのに、なんの価値もありませんでしたという結果になりますね」
「ならば一流の参謀をつければよいだろう。戦闘能力はともかく、頭脳面なら十分なサポートができるはずだ」
「さっき説明しましたが一度でも弱いと思われたり、失敗をしたらあっという間に暴走を始めることになるでしょうね。なまじ実力があるだけに自分たちだけでやっていけると判断したら逆賊になるか、国を出て傭兵や他国の戦力になってしまうでしょう」
なんだかんだいっても、子供なのだ。
似たような年齢とはいえ、ぼくや執事を基準にしてもらっては困るのだ。
「なんて使いづらい子供たちだ。強すぎる未熟者とは手に負えないな。ではどうすればよいのだろうか?」
「ぼくの中にはいくつか候補がありますが、ぼくは特には関わる気がありませんのでお好きにすればよろしいかと」
ぼくが完全に話を切り捨てると国王がため息をついた。
「そう言うでない。そこまで正確に状況を読めているお主の判断が聞きたいのだ」
「皆様は、参謀の意見を支持したのでその通りに動けばよいかと」
「だから、そう拗ねるでないと言っているのだ。あまり失望するでない、いつものことだろう?我らの意見が的外れに聞こえたことによって機嫌を損ねているのだろうがクルギスほどの頭脳を持った人間など、少なくともこの国には存在せぬのだ。もう少し割り切ってくれ」
「ふう」
無能にも呆れるが、無能なふりをする国王にも呆れる。
国王と言う単独の権力を維持するために、無能な部下をつぶす手段としてぼくを利用するのは止めてほしい。
ぼくが嫌われれば攻撃を仕掛けてられ、その相手をぼくが潰すと思っているんだろう。
その場合、放っておくと確実にぼくにも被害があるので、どうしたって潰すしかない。
ぼくが国王を潰せば楽だし、話は簡単なのだが一応は上司だ。……逆らう気なんてないし。
「それに、今は、戦乱の時代なのだ。目先の戦力を求めるという考えは一面では確かに正しいだろう」
「いえ、完全に間違っていますが」
強くなろうとして内側から滅ぼされてはなんの意味もない。
もっと大局を見てほしいものだ。
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