履き違え

 


 白い子の、魔物への一方的な虐殺に呆然としていた一団を引き連れて王都に向かい、そして着いた。


 そのころには子供たちも半分ほどはまともな状態になったようで、白い子に言われて大人しくついてきている。


 一人ずつ頭の中がまともになるにつれて、ぼくの警戒度も上がっていく。まず安全だろうと思っていても、実力そのものをちゃんと図らなければ安心できない。


「……」


「どうした?」


 白い子が呆然としているので尋ねてみる。


「遠くから見ても凄かったけど、大きいのね。人もたくさんいる」


 白い子は王都の風景を見ながらそう言った。


「まあ、一応は国の首都だからな。でもこの国はそこまで大きな国じゃないから、世界を回ればそのうちの半分ぐらいはもっと凄いぞ」


「そう、いつか見る機会があるかしら」


 大きな興味があるように白い子は答えた。まあ、無理もないか。今までの人生を数十人程度の規模の村でずっと生きてきたのだから。


 ゆっくりと王都を進んでいると、暗い顔をした女性の将軍が声をかけてきた。


「失礼、皇子。先ほど、我が主との連絡により、全ての情報が共有できました。結果、宰相が民衆の前で、皇子の罪を断罪しようと企んでいるらしいのです」


「罪?」


 このぼくにそんなものがあったっけ?


「今回の任務で将軍を三人、兵士を半数以上犠牲にしてしまったので」


「ふーん」


「申し訳ありません。ですが我が主に隠し事はできませんし、これほどの犠牲を隠すことはできないでしょう」


「隠す?なんで?ぼくは悪いことなんてしていないさ。任務を果たして堂々の凱旋だ。胸を張って報告させてもらうよ」


 はっきりと告げると先に進む。


 すると宮殿前広場に国王を中心に重鎮や、見物の民がたくさん集まっている。


 なるほど。ここでぼくを糾弾し、手柄を奪い、それ以外にもぼくから色々な利権を奪う気なのだろう。


 実に楽しみだ。どうやって跳ね返そう。


 ぼくたちが広場に入るとやはりというか、まずは国王が声をあげる。


「第十皇子、クルギスよ。よくぞ帰った」


 一見すると労いの言葉に聞こえるが、実際のところはどうだろう。


「任務完了です。命令通り、生き残りは全員、保護して連れてきたよ」


 ぼくの軽口に色々な人間がざわつく。


 まあ、上司に対する口の利き方ではないが、それでも十二歳の子供に目くじらを立て過ぎだ。


「クルギス皇子、国王に対しその言葉は!」


「よい。常々言っておろうが。我が国は完全な実力主義であり、結果を出している人間はある程度の自由が認められる。義理とはいえ、我の子でもあるしな」


「しかし、それでは示しが!」


「なにより、クルギスは「皇子」なのだ。許される」


 その一言はとても強力だった。


 この国での「皇子」とは次の国王を指す言葉だ。


 ぼくは第十「皇子」だが、よっぽどの問題行動を起こさなければ、ほぼ確実に次の国王になるとそう言われている。


 まあ、そんな未来が来ないことは確定しているのだが、国王なんてくだらない存在になる気はないのだ。だが、この国にいる間は強力な権力になるので、甘んじて否定はしない。


「じゃあ、子供たちは引き渡すよ。ぼくは忙しい。部屋に戻らせてもらう」



 兵士を連れてのお使いは実に疲れるので、とっと帰ろうとすると引き留められる。


「待て!クルギス皇子よ。大体の報告は既に受けている。さらに一目見ただけでも瞭然なことに、ずいぶん兵士の人数が少なくなってはいないか?」


 宰相が大きな声で始めた。


「なってるよ。いっぱい死んだみたいだからね」


「将軍を三名、兵士を六百名死なせた責任はどうやってとる気だ?」


 的外れな意見を持っている宰相にある程度の説明をする。


「責任?そんなものはないだろう。ぼくは国王からの任務を完全に果たした。それに彼らが死んだのは「命令違反」に「独断専行」だぞ。上司の命令を聞けない部下の命までは責任は持つ必要はない」


「確かに、常人ならその理屈は正しいだろう。だが、クルギス皇子は常人ではない。聞くが、お前は本当に部下を「助けられなかったのか?」見殺しにしたのではないか?」


「当然だろう。さっきも言ったように上司の命令を聞けない部下なんて必要ない。命令を無視した時点でぼくが殺してもよかったぐらいだ。犬死できて幸せだったろうさ」


 ぼくの発言に、最初からざわめきが大きかった民衆のざわめきが比べ物にならないぐらい大きくなる。


「ほう、将軍たちはその理屈を通せるのかもしれないが、命令に従っただけの兵士たちはどうなるのだ?彼らにだって家族や友人がいたのだぞ。今、見物している人間の中にも多数な」


「だから?兵を連れてったのも命令したのも将軍たちだ。責任は彼らにある。兵が無理やり徴兵されたものだと言うのなら徴兵した国王に責任がある」


 履き違えるなと、ぼくはそう言った。

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