第二章 呪いからの解放編

初めて見るその強さ

 


 さて、今回のおつかいは国王の命令として大々的に行っているので、一人で勝手に王都に帰るわけにはいかない。


 残った兵士たちをしっかりと連れて大っぴらに帰らなければならないのだ。


 さて兵士たちは今、どこにいるのだろう。


 そういえば、地下に下りる前にぼくのカラスを飛ばし、本陣の将軍たちに村の色々なことを頼んだ。


 王都まで半日の距離の場所で、合流することを命令してあるので、既に辿り着いているかもしれない。


 でも目的地まで大した距離でもないし、移動手段も豊富だ。


 王都を出発したときよりも、人数がしっかりと少なくなってるし身軽に帰れるだろう。


 だが、困ったことに将軍たちは子供たちを連れて行ってしまったので、呪いが発動し襲われているかもしれない。


 話によると、子供たちの呪いは絶え間なく魔物が襲ってくるようなものではなく、有り得ないほどの強さの魔物が襲ってくるという呪いらしいので、運が良ければだが、彼らは無傷だろう。


 が、まあ急いだほうがいいだろうな。


 王都に直接移動していいのなら、門を繋げて一瞬で行けるが。そんな中途半端な位置に一瞬では行けない。


「悪いけど、急ぐよ」


「わかったわ。王都までは三日ほどよね?」


「いや、十秒で着く」


 白い子に一応一言告げておくが、何も動じることもないようだ。


 移動手段としては直線を高速で移動すると危険すぎるので、まず空を飛ぶ。


 正確に言えばジャンプする。直角に二度曲がればいいのだからその後、進行方向に超スピードで移動すればいいのだ。


「背中に乗って」


「ええ」


 流石に、腕を掴んで移動すると、危ないのだ。背中におんぶするとあまりの軽さに驚愕する。


 彼女は少し重い鞄程度の重さしかないのではないだろうか。


 実際の年齢を知らないからなんとも言えないが、命が心配になるほどの軽さだ。


 関係のない頭によぎった思考を横に置いておいて、靴に仕込んであるアイテムを起動する。


「一回!」


 強烈な振動とスピードで真上に跳躍する。


「二回!」


 空を蹴るように真っすぐに超高速移動をする。


 人間の体で音速を超えると常人は死ぬのでちゃんと自分たちの体をアイテムで守っておく。


 ぼくは完全な常人なので、高速移動中に風景などを眺める余裕も、空で急に何らかの計算することもできない。


 だが、全ては飛ぶ前に計算されていたので、なにもしなくても目的地に着いた。


 ぼくの身体能力は常人以下なので、心臓がどきどきするが、白い子があまりにも自然体なので疑問を持つ。


「全然、平気だったみたいだね」


「ええ、慣れているから」


 すごいことを言われた気がする。


 どうやって空の高速移動に慣れるのだろうか。もしかして、白い子は空を飛べるのだろうか。


「それより、大物に襲われているみたいね」


 白い子が指さした方向にはぼくの部下たちと、それを襲おうとしている大型の魔獣の群れが見えた。


 まだ接触する前のようで、戦闘は始まってはいない。


 だが、このままではかなりの被害が出るだろう。


 魔物に近づくと面倒が多いので遠距離攻撃で仕留めておくべきだろうな。ぼくは門から攻撃用アイテムを取り出そうとして、止められた。


「待って、あのぐらいなら私一人で殺せるわ。今回の獲物は大したことがないもの」


 白い子は凄いことを言った。


 あれだけの魔獣の数なら、かなりの数の兵士が死ぬレベルだと思うのだが。


「まったく、みんなはまだ気絶しているのかしら。誰か一人でもまともなな状態なら一瞬で倒せるのに」


 白い子は不機嫌そうにそう呟くと、まだ数キロ以上の距離があるのに、近寄って行かない。


「ねえ、何か武器を持っていないかしら?」


「何が使えるんだ?」


「使える?」


 白い子は不思議そうにぼくに問いかける。


「ああ。戦闘方法は剣術なのか?弓術なのか?」


「何を言っているの?武器ってただ単純に力任せに振るうものでしょう?技術なんていらないわよ」


 何か、恐ろしいことを言っている。ぼくは門から一振りの刀を出すと無言で渡した。


「これは刀ね?私、武器って美しいと思うわ。特にこの刀みたいに何の装飾もないものがいい。何もないってことはとても美しいことだと思わない?」


 意外なことに、心からの共感を覚えた。


 少し驚いていると、白い子は刀を数回振った。


 ただ、それだけで。


「群れが全滅したな」


「当然よ、弱すぎるもの」


 トール村の一族は人類最強、その言葉がよくわかる。白い子だけかもしれないが。これは接し方に最大級の警戒をしなければ即死だな。


「でもさあ、確かトール村では戦えない子供に魔物を寄せる呪いをかけられるんだろう?」


 これだけ戦えているではないか。一般人より遥かに強い。


「私たちトール村の人間は、生まれてすぐの赤ん坊の時に呪いをかけられて、成人するときに呪いを解かれる。でも、五、六歳から闘える強さを身に着けているわよ。そこから成人までの間は自分にかけられた呪いを使って修行時代だと言えるわね」


 なるほど、呪いを一石二鳥に使っているわけか。だが、それだともし弱かった場合、あっさり殺されてしまうのではないだろうか。


 ……やっぱりトール村では子供の教育が過酷すぎるかもしれない。


 外の世界に比べて死が近すぎるのではないだろうか。世界最強の称号の重さがよくわかってしまう。


 トール村ではどれだけ命の価値が軽いのだろうか。

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