コレクター(まだ本編は始まらない)

冬麻

プロローグ

世界の歴史 1

 


 世界の果てなど決して見えない世界。フィールランド。


 この世界では二十の異なる種族が存在し、一定の共存をしている。


 種族間には明確な序列が存在し序列の頂点が神族でその中の最下位が人間族だ。


 そして基本的に下の序列は上の序列に決して勝てないのだが、その中で歴史的にたった二人だけ例外が存在する。


 それは序列最下位の人間族が、最上位の神族を含めた全ての他種族に勝利したということを歴史が物語っている。


 一人目は賢者と呼ばれる七千年前の人間。


 賢者はその人生で全ての種族に対し様々な協力をし、良き方に導いた偉大な存在。


 この世に存在する全ての魔法を極めた人間だ。


 最終的に世界中から魔法と言う文化を駆逐し、それに成り代わるアイテムという文化を広めた偉人である。


 アイテムは魔法の何倍もの威力を誇り、誰でも使えるものだ。時代が移り変わって当然だろう。


 フィールランドの全ての種族の文明は有り得ないレベルの進化を遂げた。


 もう一人は千年前の人間。剣星と呼ばれている人類最強の一族が住むトール村の初代村長だ。


 剣星は幼少期から強さだけを求め、大人になるころにはたった一人で当時の世界戦争を終焉に導く一因になるほどの強さになっていた。


 そして晩年、当時世界最強であった神族の統率者を倒し、トール村を作り、初代村長として余生を過ごした。


 賢者とは違い、世界のために生きたわけではないが、直接的な戦闘で人間族が神族を倒したという結果を作った偉人だ。


 今でも、賢者と剣星はどちらが上かと言う論争を……。



 ★


「どうですか?クル」


 どうですかと言われても王国の教科書に載せる内容としては悪くないのではないだろうか。


 ただ、内容はわかりやすいのだが賢者のことをこれだけ褒められると嬉しい反面、腹が立つ。あれでも一応ぼくたちの身内なのだから。


「うーん、オルトの資料だと賢者と剣星が同じようなものに感じるけど、実際はかなり違うよね?」


「まあ、そうですね。賢者様は他種族にもいまだに崇めたり尊敬してたりしますけど、言ってしまえば剣星は大量虐殺犯ですからね。色々と物凄く恨まれてますし、千年前の話なのにいまだに剣星の子孫であるトール村の人間も憎まれてますね。まあ彼らはそれを利用して他種族を狩っているみたいな話を聞きますけど」


「そうだよね。それに剣星が倒した当時最強の神族だって、あまりにも強くて最強だっただけで特に悪い奴じゃなかったって噂があるよね」


「はい、でも最弱種である人間にとってはそんなことどうでもいいってことですよね。単純に神族を人間が倒したって事実だけで剣星は神格化されているだけですから。大衆は細かいことに興味はないんでしょうね。千年も昔の話ですし」


 人間の寿命は百年程度だが、多種族は桁違いに長く神族に至っては未だに昨日のことのように感じているのではないだろうか。剣星がただの力試しで神族の統率者を倒したのにそれでも人間族が復讐されないのにはいくつか理由がある。


 神族に比べ人間族があまりにも弱いこととか、賢者に一目を置いてるから見逃してくれてたり、剣星が他種族の強い奴らを大量虐殺したのでそんな余裕がなかったりと。


 基本的に全ての種族間は仲が良くないのでいつでも戦いが絶えない。神族は序列が上の方で争いあってるし、全ての種族でまとまって人間族を滅ぼそうと考えるには人間族はあまりにも弱すぎるのだ。


 強い奴らが弱い奴を潰すのはただでさえかっこ悪く、表面上でまとまっているようにみえてもすぐに内部から同士討ちが始まるので結果的に上手くいかなくて人間族はなんとか生き延びている。


 それにもっとも大きな理由として、賢者が広めたアイテムがある。


 アイテムはよっぽど凄いものなら剣星でなくても神族に勝てるほどになる可能性をすら秘めている。


 剣星が死んでからの時代でも強い恨みを持つ過激派が人間族を滅ぼそうと行動を起こしたことが何度もあるが、最終的には強大な力を持つ希少なアイテムによって撃退されている。まあ、他にも様々な要因はあっただろうけど。


 賢者はその存在をこの世から消した後でも間接的に人間族を救い、世界そのものをすら救っているという見方もできるのだろう。


 やはり、結果だけみるとあれでも賢者は偉大な人間らしい。


 でも、まあ何も知らない一般人に流す情報としてはこれぐらいわかりやすく持ち上げておく方が人間と言う種族に対して希望を持つだろう。文句があるなら自分たちでもっと詳しく調べてくれ。


「うん、いいんじゃないこのまま進めても。じゃあぼくは行くから」


 ぼくは立ち上がると手荷物を持ち部屋から出ようとする。


「おや、どこに行くんですか?」


「なんか国王がぼくにおつかいを頼みたいんだと。さっき第一に聞いたんだ」


「はて、さっき?クルは二時間前から机で仕事をしてましたよね?」


「そうだけど?」


 ずっと隣にいたのだからそんなことは確実にわかっているだろうに。


「いいんですか?急がなくて」


「さあ、急用だったら文句ぐらい言ってくるだろう?直接命令されたら急ぐけど、第一に頼んでるわけだし、具体的に何をしろって言われてないんだからまだ大丈夫だろう」


「うーん、クルは国王に忠実なのか、反抗的なのか判断に悩みますね」


「国王に忠実?まさか、ぼくは仕事に忠実なだけだよ。皇子という仕事にね」


 そう。ぼくはメテオ王国の第十皇子として国のために任務をこなすのである。


 ただ、別にやりたいからやっているわけではなく、あくまでもただの仕事なのだ。




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