愛?
一方通行の
「おじゃましまーす」
相変わらずカギは開けっ放しだ。
悪い腕毛モジャモジャのオッさんに襲われたらどうするつもりだ?エロ同人みたいに。
「…」
鼻まで布団がかかっている、人形のように綺麗な寝顔。だが…お腹が膨らんでいる。
ガバッと布団を剥がすと大量のジャパリマンが中から出てきた。
「…おはようフルルちゃん。こんな所でジャパリマン温めてるとお腹こわすよ…」
「ウーン…?おはようタクミぃ…」
で、よく見ると寝ている時に来ているのかダルダルになったパジャマが肩から垂れ下がっていて…その…見えそうだ。
しかし相手は見た目高校1年〜2年程なので犯罪でも犯したかのような感じになりそうで目をそらす。
眠そうにフルルちゃんが目をこする。
僕はサンドスターの粉をただ牛乳に溶かす。
「これで最後だね」
彼女がゴクゴクと牛乳を飲み干す。
口の周りに白いヒゲができる。
「お疲れ様、でもまだ病み上がりみたいなもんだし、休んでないとね」
そう言いながらハンカチでフルルちゃんの口を拭き取ろうとする。
「うん」
「といっても別にやる事ないしなぁ…」
「じゃあげぇむとかはー?あそこの棚の中にあるよ」
「ゲ、ゲームかぁ…」
ゲームはくっそ苦手です。
マ〇オカートとか体ごと付いていくパターンの人です。
「こ、これでどうだ!」
「タクミ、そっち崖ー」
光と共に弾ける僕のキャラクター、YOU LOSEの文字が点滅する。
『なんで負けたか、明日までに考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです、ほな、いただきます』
「…やめていい?」
フルルちゃんの使うキャラクターにどうしても勝てない…
親の声よりこの勝ちメッセージ聞いたんだが。
「うーん、フルルに勝ったらね?」
「それ永遠じゃん」
まぁ、フルルちゃんとの最後の日をゲームで過ごしてしまうのも勿体ない気はするが、でも彼女と一緒にいれる時間を大切にしたかった。
一秒でも長く。
いつも君といて楽しかった、振り回されてばっかりだけど。
海に行った時も、その帰りも、些細な話さえも今となってはいい思い出だ。
『YOU LOSE』
「もー、タクミ飽きちゃったのー?」
「あ、いやごめん、ぼーっとしてたよ」
「じゃあ、違うゲームする?」
「ううん、いいや。ちょっと外を見て回りたいんだ、ついてきてくれる?」
黙って彼女はコクリと頷いた。
玄関に並んでいるブーツは僕の靴より一回り小さく、熱で所々擦り切れている。
「うーん…っ…」
大きくフルルちゃんが伸びをする。
この澄んだ空気ともお別れが近い。
徐ろに歩き出す。
それに続いて、少し小さな歩幅で、少し僕より早足で彼女がついてくる。
「…結局、うまくいかなかったね」
「何が?」
「…マコさんと…フルルがくっつけるなんて偉そうなこと言っちゃってたけど…なんか、ごめんね」
「いやいや、大丈夫だって。他にも沢山いい人はいるし、今頃マコさんとカズキで遊園地デート、楽しんでるでしょ」
「…そうだね」
フルルちゃんが少し下を向く。
もっと楽しい話がしたい。
「海に行ったな、あれは楽しかったね」
「うん、フルルも久しぶりだったな」
「また、一緒に来れるかな…」
「そうだなぁ…タクミがフルルの休みに合わせてきてくれたらー…」
「いや無理かなぁ…」
丘に登った。
そこの一番上にはちょっと大きな木が生えていて、周りはさらに新緑、ただ二人の世界だった。
木の根元に腰掛けてみる。
またどこからかフルルちゃんがジャパリマンを取り出して僕に分けてきた。
このマジックは真似できそうにない。
「なんか、あっというまだったよ」
「はかせがねー?楽しいときはあっというまにすぎるんだって言ってたよ」
「はかせ?」
「ふふん、やっぱりタクミはジャパリパークをまだあんまり知ってないんだね」
「えぇ?そんな常識的な事なのか…?」
「…次に来るときはさ、フルルじゃなくて違うフレンズに会った方がいいよ」
「…なんで?」
「…わたしといると…わたし、まいぺーす、ってよく言われるから…きっとほかの子といた方が楽しめるよ」
「そうかな…」
「そうだよ」
「…でもさ、僕はフルルちゃんといて楽しかったよ?確かにフラフラさせられたけど…」
「…そう?かな…」
しばらく静かな時間が流れる。
フルルちゃんがまた下を向きはじめる。
彼女の気持ちをどうにか上げようと僕が話しかけようとした時だった。
「わたしね、なんかもう、タクミには会えないんじゃないかって気がしてるんだ…」
「え?」
彼女が腰を上げたかと思うと僕の肩を掴み、もう一つの手を首元のジッパーにかける。
潤んだ彼女の瞳がこちらを見つめる。
それに僕は思わず見惚れる。
「タクミも、わたしのことを忘れちゃうんじゃないかって」
ゆっくりジッパーにかけていた手が落ちる。
白いインナーが首元から現れる。
僕は彼女が何をしようとしているのか理解ができないでいる。
「だから…だからさ…わたしは…」
「え…ちょっと」
彼女の手が僕の肩を強く押して僕は仰向けになる。
その上に彼女の足が乗って、さらにジッパーは腰元へと落ちていく。
今にも涙を零しそうなくらいに溜めて、精一杯の震え声をフルルちゃんが絞り出す。
「絶対に…忘れて欲しくないの…」
僕はハッと、自分の置かれた状況に気づく。
フルルちゃんはフードを外し、肩にかけられているその純白の布をずり下げようと…
「…違う…」
その手を掴んだ。華奢な手だった。
「違うよ…何か勘違いしてるよ…」
これは僕のビビリなのかもしれない。
カズキだったらこうはいかなかったかもしれない。
でも違うと僕は…僕の頭が違う違うとそう言う。
「…ぇ…」
僕はゆっくりと体を起こして彼女を降ろす。
「君は…!君は勘違いしてるよ!…そういうことじゃないんだ…僕は忘れたりなんかしない!」
「違う!わたしはただ…」
様々な物を見て跳ね上がる鼓動。
相手の頰から水が垂れている。
「そうだよ!だって君は…だって君は第一にアニマルガールじゃないか!それに君が僕の事をどう思ってるかは分からないけど、それは好きとかそういうことじゃない!違うんだよ!」
「…ただ…」
その声はすすり泣きに変わる。
「…ごめん…でも…違うよ、だって…だって君と僕は…フレンズと飼育員じゃないか…」
彼女はバッと立ち上がり、泣きながら顔を抑えてフードもつけずに元きた道をかけて行った。
僕に残されたのはそのフード、赤い羽根、彼女をまた泣かせた罪悪感と、最後の最後に彼女の名前をまともに呼ぶことができなかった後悔だけだった。
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