赤の


ホテルからタオルを持ってきて正解だった。

まだ朝の8時だが、異様に熱い。

熱帯の林のエリアではあるのだが、それにしても暑い。暑すぎる。


「タクミ君、飲み物貰える?」


「はい、どうぞ」


麦茶をバックから取り出して渡す。

さっき買ったばかりなのにもうぬるくなっている。


暑いだけじゃない。

ここには雄大な自然が広がっていた。

見たこともないトカゲや鳥、蝶。

まるで、昨日見たテレビの探検のようだ。


「ひゃ!」


木の根元につまづいたアードウルフをサチコさんがキャッチする。


「あ、ありがとうございますっ!」


「いいのよ。気を付けて歩きましょう」


言動といい体格といい、ガチの探検隊みたいなサチコさん。

何が出てきても大丈夫そうだ。

例えば…


「止まって…みんな静かに…」


マコさんがみんなを制止する。

彼女が指差した方には小さな赤いセルリアン。

フレンズを捕食する無機生命体。

マコさんはポケットから小さな黒い物を取り出し、それを振り下ろすと虹色のような細工が施されている警棒が飛び出た。


「ぼ、僕がやります」


「いいの。下がってて。私に任せて」


次の瞬間、マコさんは真剣な表情に変わり、ゆっくりとソレとの距離を詰めていく。


「6々*\53€♪<\\!!」


近寄る刺客にセルリアンは気づく。

サッカーボール程の大きさだが、それでも油断はできない。


「せりゃぁぁぁっ!」


テニスのバックハンドの要領で的確にセルリアンの石を警棒が捉える。

虹のカケラとともにそれは爆ぜた。


「ふぅ。サチコ、時間と場所をメモしてもらっていい?」


「分かったわ」


シャッと得意げな顔で警棒を収めるマコさん。

カッコいい。

一樹、左頰の口角上がりっぱなしだぞ。


「すごーいマコさん!」


「えへへ!でしょでしょ!セルリアンなんて私に任せておけば大丈夫よ!」


その次の瞬間、見事にフラグは回収される。


マコさんの背後にドシンと赤い何かが叩きつけられた。

更に大きな…比べ物にならない…セルリアンだ…


「マコさんッ!」


一樹が咄嗟に手を伸ばしてマコさんを引き寄せる。


「ヤバい!逃げて!」


みんなを先に逃がす間に、セルリアンは大きな体を再び起こした。

僕にセルリアンの大きな目から視線が浴びせられる。ドス黒い眼孔、黒い眼差し。

まるで蛇に睨まれたカエルのように足が動けなくなっていく。

殿しんがりは僕か。なんてこった。


「タクミ君!」


体ごとセルリアンがこちらに倒れてきた。

あれ?これ助かりっこなくね?




赤い火花。

まるで花火、ストロンチウムを燃やしたよう。

それは熱くない。

心地よい暖かさの火花が全身に注ぐ。


「馬鹿者め」


大音響と共にセルリアンは跡形も無く蒸発する。

後ろからの悲鳴が打ち消される。

火花は更に量を増して木々にも降り注ぐが、焦げた葉も燃えた草もない。


突然、襟を裏返され掴まれる。


「何故逃げなかったのじゃ。死ぬ所だったのだぞ」


襟を掴んでいるのは僕より身長の低い、赤い鳥。

無理矢理飛んで襟を掴めるようにしている。

息は切れ切れ、汗をかいてかなり焦っているようにも見える。


「タクミ君!大丈夫?!」

「タクミ!」


赤い鳥は僕を突き放す。


「済まぬ。焦っていたものじゃから強く当たってしもうた」


「あ、ありがとうございます…」


「奴らに会ったら直ぐに逃げろ。戦おうなどと思ってはならぬ。守ろうと思ってはならぬ」


「あ、あの、あなたは…」


「我は四神、朱雀。灼熱の化身也」


うわ。そんな厨二ラノベみたいなのある?

というか…スザク…四神…

神のフレンズってことか?!


「すまぬ。今は急いでいるのじゃ。もしも何か有事の時は−(スザクは頭の羽根を一本だけ、大事そうに抜いた)−我を呼べ。助けになろう。では」


スザクは火の粉を撒き散らしながら、再び空へと飛び出していった。

貰った羽根は美しく燃えるよう。

時間が止まった炎を持っているみたいだ。


「スザク…なんであの子がここに…」


「マコさん、知ってるんですか?」


「彼女はパークを守護する四神の1人なの。本当にヤバい時しか出てこないって聞いてたんだけど…」


彼女は相当焦っていた。

大事そうにしている羽根まで渡した。

何がそこまで彼女を不安にさせているのか?


…気にしてもどうにもならないか。


「タクミ〜、その羽根見せて〜」


その羽根を見ると、みんな口々に褒める。

「すげえ!めっちゃ神々しい…」とか、「インスタ映えしそう!」とか。


インスタ映えって…

ま、そんなもんか。



帰り道のバス、みんなはサチコさんに寄りかかるようにしてぐっすり寝ている。

うん。疲れたもんな。


夕日がビックリするくらい綺麗で。

もう目は痛いのに逸らしたくないくらい。


「きれいだねー」


横で目を擦りながらフルルちゃんが言う。


「うん」


パークの飼育員ね…悪くない仕事かも。

ここ数日で僕の世界は広がった気がする。

カッコいい美人の飼育員、フレンズたち、何よりフルルちゃんのお陰だ、海に入れるようになったのは。


僕の肩にフルルちゃんが寄りかかって来た。

一瞬、心臓の位置がハッキリ分かってしまう。

君はもう寝てしまっている。

この感情がなんなのか僕はよく分かってない。

まるで思春期前の子供みたいだ。

そうだな…例えるなら…

バカバカ、そんな訳ないだろ。

一人で考えていて、外から見たらアホみたいだなと思って、少しクスリと笑う。


「ありがとう」


なんかよく分からないけど、心から溢れてしまった言葉と、肩に乗った君の頰を撫でる。

きっと気のせいだろう。

君の頰が赤くなったように見えたのは、きっと夕日の照り返しだ。

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