来世銀行貸金庫

「みなさまこんにちは。異世界テレパシーショッピングのお時間です。ご紹介しますのはナナ=ビンテージです」


「クーヘンだよー!」


「えー、今回、ご紹介いたしますのは、厳密にはコーポレーションの商品ではございません。もっと言えば商品というよりもサービスですね」


「あれ身売りしたの?」


「身売りじゃなくて委託販売なんだよ。コーポレーションは安泰だからね」


「だったらもうちょっと待遇良くしてよ


「それは今回の売り上げ次第だよ。ところでクーヘン君、君は一度死んで転生したんだよね?」


「そだよー」


「だったら、次の転生にはもう備えてるかな?」


「次?」


「そう次だ。君だって、前世は計画的に死んだわけじゃないんだろ? それで準備不足で色々と困ったんじゃないかな?」


「そりゃ困ったよ。デッキとか全部置いてきちゃったしさ。でも食べ物はラーメンあったからなんとかなったけど、次は勘弁して欲しいな」


「そうでしょうそうでしょう。みなさまも同じ考えだと思います。突然の異世界、これまで積み重ねたものとのお別れ、レベルリセットという絶望、そこから再起となりますと、二度目三度目でもやんなっちゃう。だから備えるためのサービス、来世銀行の貸金庫のご紹介です」


「来世銀行?」


「そうです! あの! 有名なビッグバンク! 来世銀行が新たな支店とともに貸金庫の増築を行いました! その! 独占先行予約を! コーポレーションが! ここだけですよ! ご紹介します!」


「え、ただの銀行でしょ?」


「とんでもございません! ご存じない方はおられないと思いますが一応、説明しておきますと、来世銀行は平成の世から続く由緒正しい銀行でして、通常預金、ご融資はもちろん、マネーロンダリングからGDPの水増しまで、お金のことならなんでもござれのビッグバンクでございます。そこでの貸金庫ともなりますと大人気でして、増設など滅多に無いのです」


「ほーん」


「もちろんここまで言うのですから、貸金庫もただの金庫ではございません。安心と信頼の時空封印結界『エタル』を用いることで時間経過そのものを停止させ、鮮度そのまま長期保存可! だいたい学校の教室サイズ以内なら対象を選ばず、思い出のへその尾からハーレムまで、ごっそり保管できます」


「ほーん」


「もちろんセキュリティもバッチリ! 異世界チートの怪盗含め、強盗、盗難は歴史上一切報告されてません! その秘密をプロモーション映像でどうぞ!」


「生じゃないの?」


「内部での撮影許可は出ませんでした。それだけセキュリティ万全ということで、出ますか? 出ますね? どうぞ!」


「あ出た出た」


「えーーー、入り口はこんな感じになってまして、受付にですね」


「はなせ詐欺師ども!」


「おやトラブルのようですね」


「黄金期のフルメンバーだぞ! 間違えるわけないだろ! 口座番号も九のゾロ目! それでなぜ違うとのたまわるのだ!」


「もめてますね。でもご安心を、こう見えても警備は万全、彼の死は決まりました」


「うぎゃああああ!!!」


「わーサイコロステーキだー」


「はい。詳しいことはお教えできませんが、今画面に写っている受付の壁や台や台帳などの多くがガーゴイルが擬態化したもので、このようななりすましを見つけたなら即、斬殺、見せしめとして店の前にばらまいております。その受付を終えたら廊下ですね」


「あ、音声」


「えーーーー無音もセキュリティです。こっから先は音もなしです。それでですね、飛ばし飛ばしですがこちらが廊下! 長い道のり隠れる場所はなく、がっちりガーゴイルが見張っております!」


「強行突破楽そう」


「そして突き当たり、見えますのがメイン金庫の大扉! 見てくださいこの厚さ! 横なのか厚さなのかも分かりませんね」


「蝶番ちっさいね」


「中はこの通り、まるでホテルのスイートかと見間違えるほど豪勢な内装! 壁の名画や彫刻は保管品ではなく調度品なのですよ。そしてトイレ、新聞コーナー、スープバイキングまで完備!」


「いる?」


「いります。保管前の準備や保管後の世代間ギャップを埋めるための施設です。そこまで考えてるのがビッグバンク!」


「質問、鍵とかどうすんの?」


「えーーー、はい、説明が抜けておりました。大変失礼しました。はい、えーっと、パスワード一択になります」


「どゆこと?」


「えー、経験なさってればご存知かと思いますが、基本的に転生後は前世のアイテムや魔力、肉体などを持ち越せません。なので本人確認のため、記憶力のみ、即ち十桁の口座番号に四十八の単語からなるパスワードでのみ、ご本人確認をしております」


「えぇ、それじゃあ当てずっぽで当たらない?」


「確率はかなり低いと思われますが、それでも数を繰り返されると危険です。ですので一度でも間違えたならサイコロステーキです」


「そっか。じゃあ安心だね」


「はい。来世銀行貸金庫、一度締まればパスワード抜きには二度と開かない絶対封印、封印後は中に何が入ってるか契約者ご本人にもわからない徹底セキュリティ、大事なもの、来世につなげたいもの、来世に備え、今から考え始めてください。無料見学会もやっていますので、お気軽にご相談してください」


「まってまーす!」

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