異世界転生すらも転売ヤーの手に堕ちた

ちびまるフォイ

需要 >>>> 供給

「あなたはなんらかの手違いで命を落としました。

 ですがこれから新しい世界で生活させてあげましょう」


「本当ですか! 嬉しいです!

 これが今若者の間で人気沸騰中の異世界転生なんですね!」


「はい。ではこれから転生を行います」


「あ、俺はいいです」

「え?」

「現実に満足してますから」

「え? ええ?」


「このままではせっかく俺を呼び寄せた女神様のために、

 ちょっとお願いがあるんですが……」


話を聞いた女神は首を捻った。


「それ大丈夫なのかな……。転生管理神がなんていうか」


「大丈夫ですよ。結局は転生されてやってくる人数に変わりはないでしょう?

 それに影響が出るのは異世界ではなくむしろ現実。もーまんたいのノープロブレムです」


「う、うぅん……」


押しと数字に弱い女神は押し切られる形で異世界転生権を渡した。

男は現実に帰還すると、血まみれの状態ですぐに異世界権を出品した。


「さぁ、異世界に行きたい人に限定発売!

 異世界に行ける限定チケットだよ!!」


およそ学生に払える金額でないほどの金額でも

親の財布から抜いたのか畑から引っこ抜いたのか

札束をもった学生たちがまだ見ぬ異世界への扉を求めてやってくる。


「お願いだ! 異世界に転生させてくれ!」

「おい! 俺のほうが先に並んでいたぞ!」

「ソレ、ホンゴク、モッテイク、カウ」


あまりの人気と競争率に血で血を洗うバトルロイヤルが勃発した。

巻き込まれて命を落とすと、親の顔より見た転生待合室で目がさめた。


「ここは……?」

「前にも来ましたよね?」


「また転生できるとは思わなかったです」


「あなたには転生資質があるみたいですね……」


「女神様、そこでちょっとお願いがあるんですが」


「また転生権ですか? もうあげませんよ。

 あのあと、私しこたま怒られたんですからね」


「そ、そうだったんですか」

「もうあきらめてさっさと転生してくださいよ」


「……わかりました。ではチートをいただけますか」


「よかった。その気になってくれたんですね」


女神がチートを与えると、男はチートを使って現実に帰還した。

さらには女神の持っていた転生権をすべてかっさらう泥棒根性を見せた。


「あ! なんてことを!!」


女神の悲痛な声は現実へのゲートのさかなで聞こえたが振り返ることはなかった。

現実に戻った男はまた法外な値段で転生権を販売する。


「さぁ、あの憧れの異世界転生ができるよ!

 人生イージーモードの勝ち組人生を味わいたくないかーー?」


「「「 うおおお!! 」」」


再び札束で殴り合う惨状と化した。

今までコツコツとバイトで稼いでいた日々がバカバカしくなるほど

異世界転売での利益はすさまじいものだった。


「はっはっは! この調子で売っていけば億万長者だ!!」


札束風呂に浸かりながら勝ちまくりモテまくりと記念写真を撮っていると、

「異世界代表」と書かれたタスキをつけた異世界主人公がやってきた。


「異世界から失礼します。あなたのやっていることは許されません」


「お前誰だよ?」


「私は異世界主人公ヤマト。女神様の招集により異世界転生後に、

 現実世界に再転生された使いっぱしりだ」


「その異世界主人公サマが俺になんの用だ?」


「お前のやっている異世界転売で資質のない人間が転生しに来ている。

 こっちも迷惑しているんだ」


「迷惑? 資質? ちょっと待てよ。まるで俺が悪人みたいじゃないか。

 俺は単に異世界に行きたいっていう人に夢を叶えているだけだぜ?」


「それを決めるのは女神様だ。お前が決めて良いものじゃない」


「女神様の犬にゃその言葉しか出ないわな」


「安い挑発を。いいか、お前は夢を叶えているというが

 お前が資質のない人間をやたらに転生させるから女神様も対応に追われ

 本来の招集すべき人間をリクルートできていないんだ」


「で?」

「でって……」


「何度も言ってるじゃないか。俺はただ売っているだけ。

 その先なんか知るものか。包丁を売ったからって凶器に使われるか

 料理に使われるかまで考えなくちゃいけないのか?」


「お前はただ金の亡者なだけだろ!」


「金のなにが悪い! 俺は異世界でBOTみたいに同じことしか褒めない

 ロボットヒロインに騒がれるよりも、現実の人間にちやほやされたいんだよ!

 そのためには金! なによりも金が必要なんだ!」


「お前がやってるのは身勝手な行為だ!」

「自分が認められない商売を否定するのか?」


「うるさいしね!」


異世界主人公は相手を悪だとわかっていても口では勝てなかったので

持ち前のチートで口封じに燃やしてしまった。


次に男が目覚めたのはいつもの待合室……ではなく、どこかの草原だった。


「ここは……異世界か?」


明らかに現実感のない風景に男は察した。

また女神待合室に転生されれば現実に戻ると思われたのだろう。


「くそっ……ダイレクト転送されたのか」


これから強制的に異世界ライフに身を投じなければいけないと思うと気が重い。

沈む男の前に願ってもないチャンスが舞い込んだ。


【 現実帰還権 ¥10000000000 】


「こ、これは!! まさか現実に戻れるのか!」


ダイレクト転送されたことで手荷物もそのまま。

スマホの画面には今一番欲しいものが出品されていた。

それも複数。


「ダイレクト転生したから所持金もそのままだ。

 ちょっと高いが……買えない額じゃない!」


すぐに購入ボタンを押したが反応がない。


「あ、あれ? おかしいな? 買えたはずだよな?」


もう一度押す。


【 売り切れました 】


「はぁ!? ふっざけんな!! どうなってる!」


次の現実帰還権を購入するも売り切れ。

いくつもあるはずなのに買う度買うたび「売り切れ」の4文字が表示される。


「ふざけやがって! どうして買えないんだ!!」


次に「売り切れ」と表示されたときには我慢できなくなり、

出品していた現実権の持ち主に直談判した。


「おい! 全然買えないじゃないか!

 俺は現実に戻りたいんだよ! 早く戻してくれ!」」



「すみません。とても競争率が高いもので……」


「嘘をつくんじゃない! 異世界のぬるま湯生活に浸った人間が

 今さら現実に戻りたいなんて言うものか!」


「いいえ、本当に異世界から現実に戻してくれと言う人が多いんです」


「そんなバカな!」



「なんでも……転売での異世界権は本人確認ができなくて、

 はざまの世界に転送されたから、現実に戻って復讐したいそうで……」

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