第24話 木田さん宅へのプレゼント ②

 今月もまた【何でも屋】の日がやってきた。

 連日の暑さで食欲がわかず、八百屋さんでフルーツジュースと果物とサラダを買った3人。アイスを買うと皆でお店にやって来た。

「もー。暑くってきっつい。この蒸し暑さが辛いよね。」

「体が重い、温かい空気に包まれている感じです。呼吸をするのが苦しい時もあります。」

「それはまずいんじゃないかしら。熱中症には気を付けてね。

 私は今年は日傘と強力日焼け止めにして、帽子と手袋は止めることにしたの。温度を下げるっていうカーディガンは羽織っているけれど暑すぎて効果があるのかはよく分からないわね。」


 ぐったりとしている3人。お店に荷物を置くとフルーツジュースで乾杯をする。一気に飲みほすと目を見開く。

「美味しい。生き返るわね。」

「ビタミンは日焼けでダメージを受けた肌にも良いです。それに、体中に栄養が流れていって元気になった気がします。」

 頷きながら雪は切った果物とアイスでお手軽パフェを作った。隣でチャチャっとサラダを盛り付けている花。香はお手製のほったらかしパンをカット、お取り寄せした有名牧場のバターを添えて机の上に置いた。

「香のパン美味しい。バターも濃厚。パンに塗るとすぐに溶けてパンに浸みこんで最高ね。」

 雪の言葉に賛成して、花もパンをほおばりながら笑顔で頷いている。嬉しそうに笑う香。

「ありがとう、パンなんて作らないから嬉しいわ。雪のレシピが良いのよ。」


 真面目な顔に戻ると香が真剣な声で話す。

「そういえば、花が送ってくれたメール見たわよ。気味の悪いファンからの贈り物。差出人不明っていうのが、怖いわよね。」

「そうなんです、しかも2回目のプレゼントは近所で木田さんの奥さんとアジを盗み撮りした写真ですよ。」

「頭おかしいよね、この近所に来てたなんて。変な人を見た覚えはないけれど私達余りここに来ないしな。」

「そういう奴って、隠れるの得意そうだから見つかりにくいんじゃないかしら。」

 真面目に話し合っている3人。

「皆の方はどうだった、私は怪しそうな物は見つけられなかった。」

「私もネットで三毛猫の写真とかこの近辺の事をブログや動画で公表している人を調べてみたけれど、アジ以外の猫か身元を公表している人だったわ。」

「私も同じです。やっぱり簡単には見つからないですよね。そもそも公表しなそうですし、ストーカーは。」

「何か出来る事はないかな。後はパトロールだけど、こういう時こそ防犯カメラの出番じゃないのかな。」

「警察が見たけれど特に怪しい人は映ってなかったって叔母が言ってました。一応私達にも交番の巡査が話を聞きに来るかもしれないそうです。

 森林コンビって言われていて、交番勤務の巡査で森健太さん27歳と林康太さん23歳です。近所ではイケメンで性格も良いのに彼女のいない残念な人達って言われています。」

「地域密着の交番は辛いわね。若いし格好のネタになるんでしょうね。」

 同情するようにうなずいた3人。

「私達は大丈夫だよね、変な視線は感じないし。」

 複雑な表情で黙り込んだ3人。そのまま、微妙な表情で食べ終わった朝食の後片付けを始めた。


 暫くすると、外から元気な声が響いてきた。

「ごめんください。交番の森と林です。」

 顔を見合わせて時計を確認すると10時だった。

「はーい、今行きます。」

 代表して香が向かうとその間に周囲を片してお茶の準備をする2人。

ドアを開けて挨拶を交わした香と森林コンビ。雪と花も後からやってきた。

「おはようございます。そこの交番に勤務している森です。こちらは同僚の林です。お向かいの木田さんの事でお話を伺いに来ました。」

「ええ、木田さんから伺っています。どうぞ、中へ。」

 ちょっと戸惑った顔をしている森林コンビ。それを見て不思議そうな顔をしている雪と花。

「ああ、私達3人いますしドアは開けておくので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。」

 香の言葉に納得した雪と花、森林コンビの気遣いに好感度が上がったのかにっこりと微笑んでいる。

「ありがとうございます。」

 お礼を言って中へ入った森林コンビ。質問をしようとした時に木田さんの奥様がやってきた。

「おはようございます。お2人とも早速来て下さったんですね。」

 挨拶をする皆。香が椅子を勧めながら話しかける。

「木田さん、大丈夫ですか。今回は写真を送り届けてきたって聞きました。皆で心配しているんです。」

「ありがとう、本当に早く相手がわかると良いんだけれど。アジも毎日慰めに来てくれているのよ。見張りのつもりなのかハンカチが届いた日から家にずっといるの。」

「アジもきっと心配しているんですよ。お利口だから何か起きているって分かっているんでしょうね。」


 皆の話が終わるのをじっと待っている森林コンビに雪が気づく。

「皆、お巡りさん達の話を聞かないと。」

「そうでした、すみません。」

「いえ、大丈夫ですよ。いくつか質問させてください。」

 3人に最近何か変わった事が無かったか知らない人を見かけてないか聞くが、余りここには来ないので分からないと言われた森林コンビ。念の為戸締りなどの注意と何か見たら教えてほしい事を伝えると帰っていった。


 残った木田さんが詳しい話を3人にしている。

「ハンカチも既製品で宅配の営業所でも送った人は分からなかったんですって。盗み撮りされた場所は商店街で近隣の人以外も使っている道なのよ。私の服とアジと一緒の事から土曜日のお昼前に、通った人を調べているの。

 最近では高性能な小さなカメラもあるらしいんだけれどスマホで普通に取ったのかもしれないそうよ。それだと持ち物から見つける事が難しいんですって。」

「また何か送ってくる可能性が高いと思います。その時がチャンスですね。写真を撮った人が男性とは限らないかも、女性っていう事もあると思いますよ。」

 雪の意見に頷く。香と花も木田さんを励ましている。

「今の時代若い男性が犯人とは限らないです。誰しもが犯人たる可能性がありますよ。」

「本当に、最近はね。知らない人がこの付近をうろついていたらすぐにお巡りさんに来て貰いましょう。優しそうだし親身になってくれそうですよ。」


 皆の話を頷いて聞いていた木田さんが最後の香の話を聞いて突然顔を上げて皆を見つめる。さっきまでの不安そうな表情は消えて今は嬉しそうに香を見ている。目がギラギラしていて少し引く香。

「そうなの、2人とも若いけれど親身に相談に乗ってくれてとても頼りになるのよ。見た目はちょっと今時っぽくて頼りなく見えるけれどあれでも武術をやっているって言ってたし、巡査だけど巡査部長を目指して勉強もしている努力家で将来も有望な2人なのよ。」

 その後も一生懸命2人の良さについて語った木田さん。話し終えて満足したのか、”皆も気を付けて”と言うと帰っていった。

「凄かった、香がお巡りさんを褒めたばっかりに。頑張ってね、香。」

「私は警察官の大変さはよく聞いているし、身内に既にいるので傍観します。頑張って下さい、香さん。」

「ちょっと、変な事言わないで頂戴。」

 笑っている2人に文句を言う香。その後【何でも屋】では、3人の恋バナが始まっていた。


 3人に森林コンビをお勧めできて嬉しそうに家に帰る木田さん。

「ただいま、誠さん。」

「おかえり。花蓮、今度はファンから刺身セットが届いたよ。カードにはあなたの大好物を送ります。この前食べているのを見ました。って書いてあるんだ。」

「ええ、そんなの外で食べた覚えはないわよ。家の周りの防犯カメラをすぐにチェックしてもらわないと。」

「もう頼んだよ。今2人が調べてくれている。」

「あ、【何でも屋】さんに依頼してみるわ。3回目の贈り物が捕まえるチャンスだって言ってたし、いつもの閃きで何かわかるかも。」

 帰ったばかりの花蓮、急いで【何でも屋】に戻っていく。事情を聴いた【何でも屋】は依頼を引き受けて木田さんの家にやってきた。

 ファンから贈られたものを見た3人。カードを見た時に花が顔を顰める。

「ねえ、これってもしかしてじゃないですか。」

 カードの四隅を指さす花。雪はハンカチと刺身セットを見比べている。

「このふたつの物もなんていうか、なんていうか、ね。私も花と同じ意見かな。」

「極めつけはこの写真よ。3つ揃ったら完璧じゃないかしら。」

 目を見合わせて頷く【何でも屋】とよく分からない顔で目を見合わせる木田さん夫婦。


 それを見た3人は、その場で結論を言う。最初は花が説明。

「今回は早いですね。見て即決で結論が出ました。カードの角の3か所に書かれたA、G、Iという英単語。」

 花の言葉を聞いて木田さん夫婦はカードをじっと見つめる。次に雪が話す。

「小さなハンカチに見えますが有名な猫用スカーフのブランドのスカーフセット。猫が大好きな刺身セット。」

 唖然と口を開く木田さん夫婦。最後は香だ。

「極めつけはこれ、アジにピントを合わせたこの写真。木田さんの奥様のファンじゃなくて、アジのファンが送っているんですよ。」

 いつの間にか皆の前に現れたアジが”ニャー”と得意げに大きな声で鳴く。それを見ていた木田さん夫婦が笑いだした。誠は刺身セットを小皿にのせてアジにあげている。


 ”ヒーヒー”と笑いすぎて変な呼吸になっている木田夫婦。香達は心配そうに見ている。

「確かに、言われてみたら、これほどアジって主張しているプレゼントもないわね。ほっとしたら笑い出しちゃったわ。よく見てあなた。写真も私よりもアジを主役にしているじゃない。私のファンなら私が真ん中よね。」

「ホントだ、人間じゃなくて猫のファンだったのか。相手が分からないから変なストーカーかと思ってどれほど不安に思ったか。ほっとしたら腹が立ってきたよ。」


 雪がまとめに入った。

「後は警察に猫好きを見つけて貰えば大丈夫ですね。アジを知っているんだから、この付近の人っていう可能性は高いと思います。猫のNPO団体とかにも捜索を手伝ってもらうと良いかもしれません。三毛猫好きがいるかもしれないし。

 犯人を探す視点が違っただけだから、きっと見つかると思います。最悪アジの写真会でもやれば、釣れそうです。」

 香と花も頷いている。

「私達の調査結果は以上です。後で書面に纏めて持っていきますね。」

「ええ、ありがとうございました。森林コンビに話して、犯人の捜索範囲を変えて貰います。」

 アジに挨拶をした【何でも屋】。よくやったという顔で頷いたアジは【何でも屋】を褒めるように”ニャ! ”と鳴いて帰っていく3人を見送った。


 後日、猫仲間の情報と防犯カメラに写っていた人を照会した所、高校生の女の子2人組が犯人だったと判明した。木田さん夫妻の怖かった気持ちを伝えてると共に差出人を偽名で出した事には保護者も呼ばれて警察からの注意等、色々あったが無事解決したとお礼のメールが花に届いた。

 花から転送されたメールを呼んだ雪と香も嬉しそうに笑っている。

「あのアジにファンが出来るだなんて。ある意味被害者はアジだったのね。」

 事件は無事に解決。高校生達も2度とこんな事はしないと反省と謝罪をしたという。

 今回の事件でアジはファンが出来る魅力的な猫である事が周囲に広まる事になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女三人 何でも屋始める 小梅カリカリ @koumekarikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ