第7話初依頼は不法侵入事件 ②

 2人を見送った3人は相談を始める。香が2人に話し出す。

「最初は断るつもりだったんだけれど、不法侵入だなんて何だか怖いじゃない。警察が出てきて何も発見できず分からなかったのを、私達が調べてもどうなんだろうと思うし。でも怖がっている田中さんを見ていたら、自分に何かできることは無いのかな、とりあえず行くだけ行ってみた方が良いのかもって思っちゃって。」

 雪も香の意見に賛成した。

「そうだね、私も行くだけでもやった方が良いと思うよ。最初は依頼を聞いた時は、私達役には立てそうにないし断った方が良いと思ってたんだけど。私も田中さんを見てたら香と同じように思ったの。

 でも私達が見て何も分からない場合、田中さんどうするんだろう。当面は防犯カメラを設置して様子を見るのかな。それともマンションとかに引っ越すのか。」

「そこは難しいですよね。そのまま住むのは怖いでしょうから。防犯カメラを増やすだけっていうのも。

 私も2人と同じように思いました。不安を感じていらっしゃるでしょうし、何か力になれるのならやりたいなって思います。」

 皆が頷くと、香が意見をまとめた。

「じゃあ、依頼を受けるって事で良いかな。早速明日連絡しましょう。

 私の次のお休みは日曜日。花は土日休みよね。雪は日曜日大丈夫かな。そう、2人とも空いてて良かった。田中さんのお宅に伺うのは日曜日って事で良いわね。」

「はい、午前中でどうでしょうか。午後は皆で話し合いたいですし。」

「そうだね、私も午前中から大丈夫。8時半にここに集合で9時に伺うって事でいいかな。2人は明日仕事でしょ。私、明日田中さんにメールしておくよ。」

 雪の提案にお礼を言う2人。メールは雪がお昼に送る事になった。

「料金とか日数はどうする。行ったら家の周囲の確認とかよね。費用はかからなそうだけど。」


 雪が少し不満げな顔になった。

「でも、今回の件って外部の人間ではない気がする。防犯カメラに映らずに彼女の自宅の庭に行くには、両隣か後ろの住宅か、それとも抜け道なのか。通りの防犯カメラの死角を突いたのかもしれないよね。言いにくいけれど、知り合いの犯行のような気がする。」

「そうですね、短い時間の犯行ですし。音が大きかったら田中さんも気がつくだろうから、静かに荒らさないと駄目ですよね。さっと荒らして田中さんが戻る前に逃げる。犯人は周囲の家の人間か、周囲の家から侵入して犯行に及んだのか。」

「うーん。ご近所が犯人かもしれないとなると怖いわね。うちの戸締りも気を付けないと。

いざとなったら私ボクシングやってるからね。雪は私の後ろに隠れてね。」

「私は空手で応戦しますよ。何かあった時は雪さんを私達で挟むホーメーションにしましょう。」

「そうね、それでいきましょう。」

 香と花によって、3人のホーメーションが決まった。


 微妙な顔をしてお礼を言うと、雪は話し合いを続ける。

「んー。どうやって動くかだけど、私が考えた事を言っていくね。

 庭の侵入経路を探す。実際荒らされた所の写真を見せて貰う。表と裏の通りを確認。念の為許可をとって動画に取っておく。

 次に花も言ってたけど、周囲の人達が一番怪しいよね。だから、周囲の家からコッソリと入れるかどうかを見ないと。田中さんから、その人達と揉めたりしてないか、最近トラブルに巻き込まれていないか、変わった事がなかったかもきかないといけないかな。」


「そうですね、私も他に特に思い浮かばないです。3人一緒に行動した方が良いですよね。」

「そうだね、私も香と花と同じかな。同じものを見ても意見が違うかもしれないもんね。

後は、田中さんへの質問か。誰かと揉めなかったかって聞きにくいし言いにくいよね。だから木田さん、部外者の私達に依頼するようにここにある連れてきたんだろうけれど。

 田中さんもここで暮らしている訳じゃない私達の方が話しやすいよね。警察だと緊張して話せなかったり地域の人に話が伝わったりしたらとか考えると、言いにくい事もあるかもしれない。」

「そうね。それにしても木田さんったら、私達が断らないだろうと思ってきた感じもする。あっさり断ったら少し驚いていた表情が出ていたもの。初めての依頼で喜んで引き受けると思われていたのかな。」

「というより木田さんの紹介を何もせずに断ると、この辺の人間関係に響きそうって私達が思って、断らないと思ったのかなと思いました。私達、田中さんの説得が無かったら、そのままお断りして楽しい飲み会に突入していたでしょうね。」

 花の言葉に納得した2人。


「近所への聞込みはどうしよっか、私は今回警察が動いて怪しい所はないと判断しているし必要ないと思うんだ。へたに聞込みして田中さんと近所との関係が悪くなったら嫌だし。

 それに警察が分からなかったのに、近所の人達の話が嘘をついても、私達に分かるとは思えないんだよね。」

「そうね、私も田中さん以外の人への聞込みはしなくていいと思うわ。

 田中さんが警察に話せなかった事を、守秘義務があって住民としがらみのない私達に話してれると良いわね。案外そこから何か分かるかもしれないわよ。近所や知り合いが犯人ならね。」

「うん。不法侵入で犯罪ですけど、今回はどちらかと言うと嫌がらせって感じもします。」


 捜査方針が決まったところで、後は一番難しくて悩む、料金と日数を決めないといけない。

「田中さんの所での、所要時間ってどのくらいですかね。そんなに広い範囲じゃないし周囲を見て録画するのに30分位。田中さんの聞き取り調査が2時間位。予備時間1時間。料金どうしましょうか。」

「うーん。費用は殆んどかからなそうよね。午前捜査に午後相談で1日で結果を報告して、何か必要な事があったら追加料金って形が良いのかしら。」

 花と香の意見に頷いた雪。

「こういう調査の通常料金は1日1万円で費用別にしておいて、今回は【何でも屋】の初めての依頼だから、7千円でどうかな。3人分とおじ様達の分、割り切れる方がいいかなって思って。」

「そうですね、1人目限定初依頼サービスで7千円。うん、良い感じだと思います。」

「私も賛成。じゃ金額は7千円にして費用は別途実費にしておこう。決まって良かった。自分達で料金を決めるって難しいわ。」


 料金の話で、経費を付けて行かないといけない事を思い出した香。

「そうだ、携帯も仕事で使うから経費に登録できちゃうじゃない。帳簿も付けないと。」

「そういえばそうですね。副業でも仕事なんですから、つけられそうな物は経費にしましょう。

 私古くて使ってなかったパソコン持ってきたんです。ネットには繋がってないんですけどワードやエクセルとか入れておいたんで、帳簿つけられます。雛形もいくつか入れてきたので、後で使いやすい物を選びましょう。

 皆が見やすいものが良いですからね。【何でも屋】に関係する場合は、レシートは経費にのせる時に使いますから、全部取っておいて下さい。仕事で事務やっているので、私帳簿つけられます。」

 事務職の花が張り切って皆に伝える。経理とかやった事のなかった香はホッとして喜んだ。

「私経理とかはやった事が無いから助かるわ、数字とか苦手なのよ。花様ありがとうございます。依頼が来た時は、依頼完了の打ち上げと業務内容とか経費の報告会がいるよね。」

 雪も香と一緒に喜び、拍手をすると花にお礼を言う。

「そうだね、花ありがとう。正直、経費とかまで考えてなかった。まさか依頼が来るなんて思ってなかったから。初日から初依頼、あれかなビギナーズラックかな。」

 それには、2人とも頷いた。

「後、話した内容をメモしたよ、議事碌というよりメモなんだけど後でパソコンに入力するから、その時にきちんとした形にすればいいよね。

 家で議事録っぽく整えて作っておくね。纏めるだけならすぐ終わるし、次印刷して持ってくるよ。書類とデータで保管しておいた方が良いよね。」

「ありがとう、雪。それなら議事録は私がパソコンに入力するわ。」


 大体決まったので、雪が最後に纏めて確認する。

「金額は7千円で田中さんにメールします。契約書は田中さん宅訪問時に持っていくって書いておくね。

 契約書も雛形を作って、明日の午後パソコンのメールで添付して2人に送っておくね。仕事が終わってからで大丈夫だから、確認して返信よろしくね。それを纏めて印刷して持っていくから。」

「はい、分かりました。雪さんありがとうございます。よろしくお願いします。」

「ありがとう、雪。よろしくお願いします。それじゃあ、祝初依頼受注って事で乾杯しましょう。」


 香がワインを開けて皆のグラスに注いでいく。皆笑顔でグラスを持ち上げる。

「依頼者が来たのがワインを飲む前で良かったわね。【何でも屋】の開業と初依頼を祝して乾杯。これから皆さん、よろしくお願いします。」

「乾杯、これからよろしくお願いします。」


 思いがけず依頼を受けた3人。これからの探偵業務やどんな依頼が来るか等、皆で期待や不安について語りつくした後、足取り軽く帰っていった。

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