第48話 オレと忍者屋敷と思わぬ再会
はあー、昨日は大変な目にあった。
とにかく今日は気分を一心して映画村を楽しむぞ。
というわけで修学旅行三日目。
オレは東映太秦映画村を訪れていた。
おお、さすがに街並みがすでに江戸時代にありそうな建物や風景ばかりで、すでに雰囲気満載だ。
時折歩いている人たちも江戸時代の格好をしている人達がおり、まるでその時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わう。
うーん、いいな。ここ。
普通に歩いてるだけでも楽しい。一人による観光だけど、ここに来て正解だったかも。
そんなことを思いながら、早速忍者屋敷の方へ行こうとしたオレであったが、
「――おーい! 誠一君ー!」
となにやら背後でオレを呼ぶ声に振り向く。
見ると、そこには全力ダッシュでこちらに近づく晴香さんの姿があった。
「は、はあはあ、よかった。やっぱりここにいたんだね」
「あ、あれ? 晴香さん? なんでここに? 伏見稲荷大社に行ったはずじゃ?」
「い、いやあー、それがさー、朝になってちょっと気分が変わってこっちに変更したんだよねー。おかげでグループは全員伏見の方に行っちゃったけど、アタシは別に全然平気だよ。うん、別に誠一君を追ってここに来たわけじゃないから」
はあ、さいですか……。
そんなことを思いながらオレが歩き出そうとすると、間髪入れず晴香さんが隣にぴたりと移動する。
「そ、それで誠一君はこれからどこに行くの?」
「へっ? そ、そうですね。忍者屋敷とか」
「あー! 忍者! 忍者いいよねー! うんうん! うちも次の巻では忍者出そうかと思っていたよー!」
「へ、へえ、そうなんですか」
「というわけでついていくよ。うん!」
なにやら半ば強引にオレと一緒に忍者屋敷に行くことになった晴香さん。
うーん、なんか落ち着かないなー。そう思いながらも二人で忍者屋敷の中に入る。
おお、中は思ったよりしっかりした作りだ。
まさに江戸時代を豊富うとさせる館。
しかも、あちらこちらに仕掛けやら抜け道などもあって、楽しそうだ。
そんな風にワクワクしながら早速障子の裏の隠し通路を行こうとした瞬間、
「そ、それでね。誠一君。一晩考えたんだけど、うち答え決めたよ……」
「へ、なんの答えですか?」
「……こ、告白の」
そのセリフを聞いた瞬間、ドキリとオレの心臓が止まる。
慌てて後ろを振り向くとそこには顔を真っ赤にもじもじとした仕草の乙女モードの晴香さんがいた。
「お、思えばうち……誠一君には単に読者になって欲しくて無我夢中でむちゃくちゃなことやってたと思うんだ……。あれっていわゆるやけくそっていうか、自分になびかない読者をどうしても引き入れたいっていう作者根性があったんだと思う……。け、けど、今にして思えばそれだけじゃなかったのかも……。うちの作品になびかない誠一君のことをどこかで意識するようになって、そんな誠一君がうちの作品を見てくれた時、すごく嬉しく感じて……だ、だからその……」
あ、いや、あの。というか、これはまずい雰囲気だ。
オレが慌てて昨日の誤解を解こうと晴香さんに詰め寄ろうとした瞬間、障子の向こう側から謎の手が伸び、オレの手を掴む。
「っとー! 先輩ー! 偶然っすねーーー!!!」
「へっ!?」
思わぬ大声にオレと晴香さんが振り向く。
見るとそこには汗だくでハアハアと息を切らした樹里の姿があった。
「い、いやー、先輩達がこの館に入るのを偶然見て、偶然入ったっすよー。あれー、偶然何してるんっすかー?」
「あ、いや、えっと、その」
樹里、何回偶然って言ってんだよ。
そんなオレのツッコミを許すことなく、まくし立てるように樹里は続ける。
「そーだ! 偶然ここで会ったっすから、先輩アタシと一緒にこの館回ろうっすー! アタシ、忍者とか好きなんすよー! この館もからくり仕掛けで超楽しそうですし、先輩一緒に回ろうっすー!!」
「なっ、ち、ちょっと待ちなさい! 誠一君はうちと回る予定なのよ!!」
「えー、そうなんすかー? でも、別に三人でもよくないっすかー?」
「よくないわよ! うちと誠一君の間に勝手に入らないでよー!」
「んー、そういうっすけど、先輩と誠一先輩って別にそんな特別な関係でもないっすよー? あれ、違うんっすかー?」
「ち、違うわよ! いい、よく聞きなさい! うちはこっちの誠一君に、昨日告は――」
「あー! あーあー!! あーあーあー!! 聞こえない! なにも聞こえないっすー!!」
「ちょっとアンタが勝手に叫んでるだけでしょうがー!!」
見ると晴香さんと樹里の言い合いがヒートアップし、この館中に聞こえるような叫び声へと発展する。
ちょ、二人共、やめてくれよ! こ、ここには他のお客さんだっているんだから!
そう思いながらなんとか二人の喧嘩を仲裁しようとした、まさにその瞬間。
「忍っ!」
ボンッ!
「えっ!?」
「ちょ、なにこの煙!?」
「に、忍者!?」
突如、オレ達三人を包むように煙が発生する。こ、これは忍者がよく使うけむり玉!?
そんなことを思っていると煙の向こうから人影が現れると、そいつはオレの腕を掴み、そのまま走り出す。
「え、ちょ!?」
「な、なに、何が起こってるの!?」
「ちょ、先輩! どこっすかー!?」
後ろでは二人のオレを探す声が聞こえるが、オレはそのまま謎の人物の手に引かれる。
ようやく煙がなくなり視界がハッキリしたところで、オレを引っ張っていた謎の人物の正体に気づく。
「あ、あなたは……せ、生徒会長!?」
「やあ、偶然だね。誠一君」
見ると生徒会長はいつもの学生服ではなく、全身を真っ黒な黒装束でつづんだ忍者の格好をしていた。
しかもご丁寧に背中には刀らしきものまで下げていた。
「あ、あの、その格好なんですか……」
「ん? いやなに、せっかくの映画村だからね。僕もコスプレしようと思ってね。本当なら侍の格好が良かったんだけど、忍者もわりかし好きでね。今日の僕はお茶侍ならぬ、お茶忍者といったところさ」
「はあ……」
ははは、と笑う生徒会長さんにオレは思わず苦笑いする。
見ると、どうやら忍者屋敷の裏道から外に出たようであり、屋敷の中からは晴香さんと樹里の慌ただしい声が聞こえている。
う、うーん、戻った方がいいんだろうかとオレが悩んでいると。
「時に誠一君。君に会わせたい人がいる」
「へっ?」
唐突に生徒会長が真剣な眼差しでそう言う。
会わせたい人? オレが尋ねるよりも早く生徒会長は答える。
「その人物はこの先の広間にいる。まあ、会えばすぐに分かるよ。いやはや彼女もなかなか頑固でね。本心では君のことが気になっているのだが、ご存知のとおりプライドが高くそれを邪魔している。しかし、もう修学旅行も残りわずか。観光も今日だけだ。ならば、最後のこの日に少しでも思い出を作るべきだろう」
「はあ?」
どういうことなんだろうかと頭をひねるオレに対し、生徒会長は「いいから行きたまえ」と背中を押す。
一体なんなんだと思いながら、オレは会長に言われた通りの道を歩く。
少し奥まったところを行き、周りを歩いている人の数がいなくなるのを確認すると広間に出る。
そこには着物の姿を着た一人の美しい少女の姿があった。
その美しさにオレは思わず息を呑みが、それが自分の知る人物であると分かると二重の意味で驚く。
「華流院さん……」
オレがその名を呟くと、その少女――華流院さんはいつもの澄ましたような表情でオレの方へ振り返るのだった。
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