第25話 オレの後輩と異世オレハーレムについて語る

「っていうか先輩。先輩って『異世オレハーレム』嫌いだったんですか?」


「え?」


 翌日。なぜだか例のロリ不良こと鬼島樹里がオレのクラスに遊びに来て、オレの机に両腕と顎を乗せながら聞いてくる。


「昨日、あっちの褐色の先輩が言っていたじゃないですかー。先輩、『異世オレハーレム』嫌いだって」


 ああ、晴香さんか。確かにそんなこと言われていたな。

 オレも特に否定しなかったし。

 ちなみに晴香さんは昨日の一件以降、魂が抜けたように机に突っ伏している。


「うん、まあ、どちらかといえば嫌いかな」


「えーっ!? なんでっすか先輩ー!? あんなに『異世オレハーレム』好きとか言いながら、アタシに薦めてくれたのに、そんなことってあるんっすかー!?」


 いや、オレ一言も好きとは言った覚えないんだが。

 そんな事を思っていると再び疑問そうな表情で樹里がオレに質問してくる。


「っていうか、先輩は『異世オレハーレム』のどこが嫌いなんすかー?」


「え、そりゃあ……あの序盤からの都合のいい展開だろう。死んでいきなり特にこれといった理由もなく神様のおじいちゃんに気に入られてチートなスキルもらうとか……」


「えー? そうっすかー。アタシ、おじいちゃんっ子だから別にああいうの気にならないっすけどー」


「いやいや、よしんばそこがよしとしてもその後のヒロインとの出会い頭、裸のヒロインに速攻惚れられるのはどうよ? しかも大した理由もなくだぞ?」


「でもゴブリンから助けたじゃないっすかー」


「だとしても前の世界で主人公をいじめていた連中がいきなり都合よく異世界に転移していて、そいつら見つけたからっていきなり復讐し出すのはどうよ!?」


「えー! でもあいつらムカツクじゃないっすかー! アタシ、ああいういじめやってる奴らマジ許せないっすよ! 主人公がボコボコのボコにしたのはむしろスカっとしたっす!」


「た、確かにそういう一面もちょっとは感じたが……けれど、そのあと街の領主にいきなり喧嘩を売る展開は……!」


「あそこも燃えたっすよねー! 実はいじめっ子達をあの世界に呼び寄せて異世界人の力で王国を支配しようとしていたのが実は領主だったとか驚いたっす!」


「そうそう、しかもヒロインが領主の婚約相手で無理やり奪われて、そこをすかさず主人公が助ける展開な!」


「あそこ超面白かったっすー! アタシ、あそこで初めて主人公に惚れそうになったっすよー! チートとかよく分かんなかったっすけど、領主達を一網打尽にボコボコにする展開はマジ激アツだったっすー!」


「分かる! あそこは一巻の盛り上がり! 山場だったよな! 個人的にはあそこを最後に持ってきた方がよかったのに……ラストがヒロイン達とのイチャイチャ展開で終わったのがなぁ……」


「えー? そうっすか? アタシはむしろ救出されたヒロインや領主の奴隷になってた人達が幸せに描かれていたのはむしろ嬉しかったっすよー! 主人公もちょっとエッチだけど、女の子達を優しく扱っていて好感持てたっすー!」


「あー、確かにな。バトル展開だけじゃなくハーレム展開もちゃんと完備して、そこで締める。今考えるとあの一巻の構想はよく出来ていたよなー」


「っすよー! っすよー! で、先輩は『異世オレハーレム』のどこが嫌いなんすか?」


「ん? 全部かな」


「またまたー! 冗談きついっすよー! これだけアタシと『異世オレハーレム』の魅力について語っておいてー! やっぱ先輩『異世オレハーレム』好きなんじゃないっすかー!」


 え? い、いや、そんなはずはない……。

 オレは決して、この作品が好きなんかじゃ……。

 そ、そうだ。オレはこの作品が嫌いなのであって、そのために読み込んでいるのであって……決してこの作品の信者なんかじゃ……。


「ところで先輩。昨日三巻読んだっすけど、先輩が一番好きなシーンってどこっすか?」


「そりゃやっぱりグラント橋奇襲作戦だろう!」


「ああー! 分かるー! めっちゃ分かるっすー! あそこマジ盛り上がったっすよねー!」


「おうおう! 主人公の無双っぷりもさる事ながら、新キャラの機転が美味しいんだわ!」


「アタシ、あの新キャラのヒロイン、マジ一目惚れっすよ! 可愛い上に三巻中目立ちっぱなしで!」


「いやいや、樹里。あのキャラの本領発揮はむしろその後からだぞ。特に六巻の活躍なんて全巻屈指の見せ場だぜ! オレもあの子が今のところ一番のお気に入りキャラでな!」


「うわ! マジっすかー! かーっ! 早くそこまで読みたいっすー! アタシ、字読むの遅いからな~!」


「いやいや、すでに三巻まで読んでるんだから十分なスピードだって、その調子で全巻読んでいけばいいんだって」


「了解っす、先輩! で、先輩ってやっぱり『異世オレハーレム』好きっすよね?」


「いや、嫌いだ」


 そう断言するオレであったが、なぜだか隣に座っている華流院さんがオレの肩に手を置くと優しげな笑みを向けた。

 なんで?

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