第22話 オレの後輩がラノベ信者になる

 いやー、昨日は変な目にあったなー。

 晴香さんに無理やり『一攫千金転生』を薦められるわ。華流院さんにショックなこと言われるわ。下級生のロリ不良に絡まれるわ。

 とはいえ、今日は平穏無事に過ごしたいものだ。

 そう思いながら、早速カバンから取り出した『異世オレハーレム』を読もうとした瞬間、思わぬ事態が到来する。


 ドカドカと誰かが廊下を走る音がし、勢いよくこの教室の扉が開かれると、そこには見覚えのある少女の姿があった。


「はあはあ……やっと見つけたっすよ。先輩……」


「げっ!?」


 その少女の顔を見た瞬間、オレは思わず声を上げる。

 それもそのはず。そこにいたのは昨日、オレに絡んできて『異世オレハーレム』を勝手に奪っていったロリ不良であった。

 ロリ不良はそのまま教室に入ってくると、ズカズカとオレの前に移動し、まるで親の仇を見るような目でオレを見下す。


「先輩……アンタに言わなきゃいけないことがあるんだよ……」


 そう言ってバンっと机に叩きつけてきたのは、昨日この少女に奪われた『異世オレハーレム』。

 げっ!? まさかこれって「よくもこんなクソ小説を見せてくれたなー!」って激怒するパターン!?


「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ! それを勝手に借りていったのは君の責任でオレに責任はないというか、内容に関する文句は作者に直接言って……!」


「先輩、この小説――バリ面白かったっすっ!!!」


「…………へ?」


 そのロリ不良が告げた一言にオレは呆気に取られる。

 今、なんと言った? その小説が面白かった? 『異世オレハーレム』が?


「つーかなんすか、この小説のアイディア! 転生、って言うんすか? あんなのよく思いつくっすね! 物語の展開も主人公がめっちゃ強くて読んでてちょースカっとしたっすよ!! あと女の子のイラストも皆バリ可愛いかったっす! っていうか、アタシ小説とか初めて最後まで読めたっす! 今まで小説って学校の課題とかで難しくて最後まで読めたやつなかったっすけど、これめちゃ読みやすかったっす! というか内容が気になってページをめくる手が止まらなくて、昨日で全部読んじまったっす! 先輩! これ、続きあるならぜひ貸して欲しいっす!!」


 なにやら矢継ぎ早にそうまくし立てるロリ不良。

 え、えーと、これはひょっとしてあれか……ラノベを読んだのが初めてだったから、それが滅茶苦茶面白く見えた現象か?

 オレは確認のために尋ねる。


「えーと、まず君の名前をいいかな?」


「アタシっすか? そういえば名乗ってなかったっすね。鬼島(きじま)樹里(いつき)っす。先輩はなんて言うんすか?」


「矢川誠一だ」


「じゃあ、誠一先輩っすね。よろしくっす」


「ああ、それで樹里だよね? 君、ひょっとしてこういう話読むの初めてなの?」


「ええ! つーか小説をちゃんと読んだのもこれが初めてっす!」


「漫画は?」


「たまーに見るくらいっすかね。ドラエモソとか、あとは不良漫画をちょっと読んだくらいっす」


「もしかしてファンタジー物って初めて?」


「ええ! だからマジびびったっす! なんすかこの話! すっげえ見たことのない展開ばっかで面白かったっすよ!」


 そう言って子供のような純粋な瞳でオレを見つめるロリ不良こと、鬼島樹里。

 あー、なるほど。大体わかりました。そういうことね。

 確かに『異世オレハーレム』は読みやすい。それこそ中学、小学生ですら楽に読める内容だ。

 いわゆる状況説明文がほぼなく、快活な会話で進められており、戦闘シーンも「バカーン!」「ドカーン!」「やったか!?」みたいな単純なものだからなー。確かに読みやすいわな。

 見ると樹里はそんな『異世オレハーレム』にすっかりハマったのかキラキラした目でこちらを見ている。


「で、先輩? 続きあるんすか? あるなら貸してくださいっすよ! ねえ、ねえねえねえ!」


「ま、まあ、あるな。つーか気に入ったんならあげようか? オレん家、それ同じのが三冊あるから」


「マジっすか!? もらえるならもらうっすよ! ひゃっほー!」


「ああ、っていうかそれアニメもあるし、よかったら今度アニメも見るか?」


「アニメあるんすか!? やっべー! 超人気作品じゃないっすかこれー! やっぱ名作なんすねー! すげー! すげーっすよ先輩!」


 そう言ってオレから本を借りるとすっかり興奮気味にはしゃぐ樹里。

 こうして奇しくもオレは『異世オレハーレム』の信者を一人作ることとなった。

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