第8話 オレの隣の美少女にコメントを見られた
『はじめまして。ウェブ版の「異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た」読ませて頂きました。小説版の方はすでに見させて頂きましたが、ウェブ版との細かい違いに驚きました。個人的には小説版の方が好みです。ただウェブ版でもあったゴロツキ少女を脱がせて、少女が惚れる展開はちょっとどうかと……あそこの展開でゴロツキの少女の心情などがあればもっと良くなったかと思いました。ただ更新のペースが早く毎日必ず一話更新しているのには驚きました。これからも小説版と合わせてウェブ版の方も見せていただきます』
「……こんなものか」
「誠一君。なにやってるの?」
「うおっ!?」
気づくと隣にいた華流院さんがすぐ傍でオレのスマホを覗き込むように肩に顔を置いてくる。
っていうか近い近い! 顔! 顔!
「それなろうの小説サイト? コメントしてるの?」
「え、ああ、まあ……」
「ふぅん。なんの小説にコメントしてるの?」
「いや、まあ、それはその……」
「?」
オレが言いよどんでいると華流院さんが不思議な顔をする。まあ、別に隠すことのほどじゃないか……。
「……『異世オレハーレム』」
「え?」
オレがそう答えると華流院さんがキョトンとした顔になる。が、すぐさまいつもの表情に戻り、今度は興味深そうにオレに尋ねる。
「ふぅん、そうなんだ。この間は確か小説買って読んでたよね? 今度はネットの原作小説読んでるの?」
「ああ、まあね……。なろう系は書籍化した際、ネットで掲載されているネット版と小説版とじゃ細かい違いが多いからね。中には内容ががらりと変わっているものがあるし。アニメや小説がクソでも、案外ネット版はそこがちゃんとしている場合もあるから、批判するならやっぱ原作の原作、ネット版もチェックしないといけないから」
「そうなんだ。で、どうだったの?」
「うん。やっぱりクソだよ」
間髪入れず答える。
「ウェブ版はマシになってるかと思ったけれど全然そんなことはなかったね。というかこれなら小説版の方がマシ。まだあっちのほうが動機とかちゃんと詳しく書かれていたし、ウェブ版じゃ描写不足だったのがちゃんと書かれている。まあ、それを言うならアニメ版はもっとクソだね。尺がないのはわかっているけれど、小説だとちゃんと理由あった行動がアニメだと唐突になっている。クソ度で言うならやっぱアニメが一番で次にウェブ版、まあ、小説版が一番マシかな」
と思わず熱を込めて話してしまった。
あかんな。やっぱクソ作品の批判をしていると熱くなってしまう。少し落ち着こう。
「それって小説は良かったってこと?」
「まあ、クソに変わりはないけれど、一番マシなクソじゃないかな。まだギリギリ読めるレベルだし」
「ふぅん、そうなんだ」
「けど、全体の流れが大体同じだから結局なろうのクソ作品に変わりはないよ。つーか、書き直すなら最初のこの都合のいいチートから……」
「なら、そのこと作者にコメントで言えばいいんじゃないの? なんでそんな毒にもならないような普通のコメントなの?」
うっ、痛いところを突かれる。
確かにオレのこの本音をこの作者のコメント欄に書けば罵詈雑言のひどい地獄絵図になるだろう。
だが、オレはそんなことはしない。たとえ、どんなにその作品がクソであろうとも、それをわざわざクソと声高に掲示板に書くのはクソ以下のクソがすることだ。
「わざわざそんなことはしないよ。その場限りの友人同士の話のタネならともかく、こうしたネット上の公共の場、しかも永遠に残るであろうところに「私はあなたの作品が気に入りません。クソです」とか書き込むのはいかにクソ以下の所業だよ。たとえオレがクソだと思っていてもこの作品が好きな人がいる。オレのそのコメントで作者が傷つくことだってあるし、そもそも作者だって人間なんだ。自分が気に入らないからって言葉のサンドバッグにしていい理由がどこにある? オレは批判はするし、クソだと思ったものはクソだって言うかもしれないけれど、こうした場でわざわざ作者やそのファンを貶めるようなコメントは絶対にしない。まあ、いわゆる線引きかもしれないけれどね」
オレがそう呟くと華流院さんは僅かに驚いたような表情をしたがすぐに「ふぅん、そうなんだ」と、どこか微笑みを浮かべる。
「……で、気になったんだけど、誠一君のそのハンドルネームなに?」
「あっ」
と、華流院さんが指した先にあったのは『ジャスティスヒーロー』というハンドルネーム。
「これはその……小学生の頃から使ってるハンドルネームで……ってか、別にどうでもいいじゃん」
小学生の頃にたまたまなろうで登録した際、つけたネーム。
そのあと変えるのが面倒で、たまに気になった作品にコメントする時もこの名前でコメントしている。
まあ、そのおかげか、たまに作者とかに名前を覚えられたりするのだが……。
「……そうなんだ。小学生の頃から使ってるんだ」
と、華流院さんが呟く。
見るとそこにはいつもの彼女の表情があったが、なぜだかその瞬間、彼女のトーンがいつもと違った気がした。
その後もオレと華流院さんは特に話すことも衝突することもなく平凡な日を過ごした。
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