夢で逢いましょう
飯島彰久
第1話 夢は現実より奇なり?
隣にいるのは、英文学科の涼子ちゃん。美人だなー。俺の隣にいるのが信じられないよ。
「あの……あたし……」
「ん? どうしたの?」
歩きながら彼女がモジモジしている。これはもしかしてもしかすると?
「……あ、その……なんでもないです」
なるほど。まぁ、ここは往来が多いキャンパスの目抜き通りだしな。こんなところじゃ言いたいことも言えないだろう。
「涼子ちゃん、とりあえずそこのカフェテリアでも入ろうか。ちょうどノドも乾いてきたし」
「そうですね! そうしましょう」
やっぱり。チャンスを狙っていたんだなぁ。ここで助け船を出してあげるのは常套手段だけど、案外これが効果ある。
ということでカフェテラス。ウチの学校はキリスト教系の学校だけに女子が多く、その女子のウケを狙ってかこういうオサレ施設が充実している。
「何飲む? 買ってくるよ」
「そうしたら、アイスティお願いできますか?」
「無糖でいい?」
「はい、お願いします」
この辺は野郎がちゃんとしてあげないとね。ジェントルなところを見せておくのは基本中の基本って感じだろう。
自分は全部入りのアイスコーヒーを選んで食券を買って窓口へ。
2つ飲み物が揃ったところで席に戻る。今は3限の途中の時間だからカフェテラスも空いている。当然、彼女の心情をおもんばかって、窓際だけど隅の目立たないテーブルに席を取った。
「はい、アイスティ」
「ありがとうございます」
「今日は暑いねー」
「そうですね。あたしだけだと思ってたんですけど、山岸さんも暑かったんですね」
「天気予報で暑くなるって言ってたから、ちょっと薄手の服にしてきたんだけど、それでもちょっと暑かったね。涼子ちゃんは大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ここはちょうどいい温度ですし」
「そう、なら良かった」
一通り、世間話なんぞをしてみる。まぁ、お約束の展開というか、こうしておくと話しやすくなるからね。
「……」
涼子ちゃん、真剣な顔で黙っちゃった。これも想定内ではあるんだけど。
「あ、あの!」
「ん? どうしたの涼子ちゃん」
「や、山岸さんって今好きな人とか彼女とかいるんですかっ!」
「今のところはいないねー。こんな野暮ったいフツーの男に声をかけてくれる女の子なんてそうそういないって」
「そんなことないです! 山岸さんはその……えっと……ステキです!」
「! ありがとう。涼子ちゃんにそんなこと言ってもらえるなんてうれしいよ」
「じゃ、じゃあ……その……あたし……あ、あたし山岸さんの彼女に立候補してもいいですか?」
ほら来た。この展開。もう一緒に歩いてるときからバレバレだったんだけどね。
「涼子ちゃん……えっと、俺でいいの?」
「いいんです! あたし、山岸さんのことが好きです!」
もう慣れたもんだけど、こう言われるのはやっぱりうれしいもんだ。何回言われても言われたりないくらいうれしくなる。
「ありがとう。じゃあ、俺たち付き合ってみようか?」
「ホントですか! 良かったあ……あたしじゃダメだと思ってドキドキしてたんです」
「そんな……涼子ちゃんみたいに可愛くて性格もいい女の子だったら、イケメンだって寄ってくるでしょうに」
「あたし、そういうの苦手なんです。ちゃらちゃらしたのダメだし、中身がない人は一言会話すればすぐわかっちゃうから余計に……」
「そうなんだぁ。じゃ、俺を選んでくれたってことは……」
「山岸さんはちゃらちゃらしてなくて知的だし、中身もちゃんとあって女の子に優しいから……」
「ありがとう。うれしいよ」
「あたしこそ、あたしみたいな女の子を彼女にしてくれて本当にうれしいです!」
「じゃ、改めて今日からよろしくね、涼子ちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします、山岸さん」
ジリリリリリリリリ。
うっせぇなぁ……なんだよこれ……。
目覚ましか?
えっと……うんと……この辺か? おりゃ!
目覚ましが止まった。と同時に目が覚めた。
うん、夢だったな。
俺の名前は山岸透。大学生。モテの殿堂とも言われるちょっとだけ偏差値の高いキリスト教系の大学に通っている。
出身は青森だけど、高校からこっちに出てきているのですっかり訛りも抜けて標準語でしゃべることができる。
とりあえず、しばらくぶりに見た夢だけど、英文学科の涼子ちゃんが相手だったか。これはいい感じだぞ。
俺には誰にも言っていない、友だちはもちろん親にすら話していない特殊能力というか、まぁそんなもんを持っている。
それは、夢で見たことが見たままに現実になるというもの。
もちろん、全部ではない。恐竜に追いかけられて死にそうになった夢が現実になったら、現実世界に恐竜が現れないといけないし、ましてや死にそうになるのはまっぴらごめんだ。
そういう夢は現実化しない。
リアルな世界で、リアルに存在する人が現れたときに能力が発現するらしい。
らしい、というのもこれも100%発現するとは限らないから。
今日見た涼子ちゃんの夢も、現実化しそうな感触はあるけどどうなるかはわからない。学校が舞台の夢だったから学校に行ってみないと何とも言えない。ただ、俺は今日3限の時間は空きなので、可能性は高いと視ている。
果たしてどうなることか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます