第6話
六
「ん……っ、こ……こは……?」
目が覚めると、私は土の上に敷かれた柔らかいシーツに{包}(くる)まれていた。
大きな満月が見える。月面にあるクレーターまではっきりとわかるくらいの奇妙で非現実的な、異常に大き過ぎる月。それはとても綺麗だが、薄気味悪さの方が遥かに上回っていた。
辺りは深い闇に包まれた不気味な森林、右も左もわからない。一見して【迷いの森】と呼ぶのに相応しいだろう。
もしかして森に住む獣達が息を殺して潜んでいて、もう既に獲物である私を見つけだし狙っているのではないか? などと考えると、戦慄が走り、小さな音にも過敏に反応してしまう。
「そんなに怯えんでいい。大丈夫、大丈夫。夜風が木の葉を揺らしただけじゃよ。獣なんておりゃせんわい。たとえおったとしても、獣は火を怖がるでのう。ここに近付きはせんよ」
突然聞こえてきた声の先に目を向ける。私は、少し離れた場所で焚き火の前に座っている一人の老人の姿を見つけた。
「やぁ、娘さん。目が覚めたようじゃのう?」
老人は見るからに立派な長くて白い顎髭に触れながら、気さくに話しかけてきた。
「あの……お爺さん。これ、もしかして貴方が?」
「ん? ……あぁ。土は固く冷たいし、汚れるじゃろうと思うてな。年寄りのいらんお節介じゃよ。気にせんでいい」
「いえ、そんな! 助かりました。本当にありがとうございます!」
「礼には及ばんよ。何て事はない」
そう言うと、お爺さんは燃え盛る焚き火の炎をじっと見つめていた。
夏なのに、焚き火だなんて熱くないのだろうか? ……なんて無粋な事は思わない。
この焚き火は寒さを凌ぐ為ではない。明かりを灯す為の役割を果たしているのだ。キャンプファイアーと同じようなものだろう。
「あ、あの……お爺さん。ここは……?」
「ミズホ! どこだ⁉ 返事をしてくれ!」
『ここはどこか?』と老人に尋ねようとした時、私を呼ぶ彼の声が静かな森の中に響き渡った。距離は結構近いようだ。
「ソウくん⁉ ソウくん! 私はここだよ! ここにいるよ!」
私は出来るだけ大きな声で彼を呼んだ。その声を聞きつけた彼は、深々と生い茂る不気味な森林の中からひょこりと顔を出した。
「ミズホ!」
「ソウくん!」
彼は急いで私の元に駆けつけると、安心したのか……『ふぅ』と大きく息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。
「良かった、見つかって。怖がってるんじゃないかって、本当に心配したよ」
随分と走り回って、私を捜してくれていたようだ。彼の息は既に上がっていて、はにかみながらも苦い表情を見せる。
「……ミズホ。そこにいる御老人は?」
彼は老人に対し、少し警戒しているように思えた。まぁ、無理もない……こんな不気味で怪しげな森に、突然現れた奇妙な老人。警戒しない方がおかしいという話だ。
けれど私は、色々とお世話をしてくれた老人が疑われる事に何だか心が痛み、気が付くと必死に弁明していた。
「大丈夫だよ、ソウくん! 悪い人ではないよ! 私が目が覚めたら既にここにいて、色々と親切にしてくれたの」
老人は色素の薄いグレーの瞳で私達をじっと見つめると、木の横に立てかけてあった杖を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「儂はこの宴の参加者じゃよ。お主達は……儂の見たところ、ここに来たのは初めてのようじゃな?」
私の言葉でようやく少しだけ警戒心を緩めた彼は、老人に話しかけた。
「じゃあ、やはりここは……」
「おお、ここは人ではない者達が集まる夜宴の島じゃ。もうすぐ海辺で宴が始まるぞ? お主等も早く向かうがいい」
老人は優しく、穏やかに笑った。
「あ、あのっ! 人ではないって……? じゃあお爺さんも……人間ではないんですか?」
私は、恐る恐る老人に尋ねてみた。
「儂は、奥岩島の仙人じゃよ。ここの宴に出される酒が何とも見事に美味くてのう。よく参加するんじゃよ。あの酒の味は病みつきになるぞい。お主達もいかがかな?」
そう言うと、仙人はさも愉快そうに笑った。
「……さて、娘さんも目が覚めたようだし、儂もそろそろ行こうかの」
仙人が杖を向けると、先程まで赤々と燃え上がっていた火の塊が一瞬にして消えさった。
私はその不思議な光景に、まるで【マジックショー】でも見ているような気持ちになり、思わず『おおっ!』と声を張り上げてしまった。
隣では彼が『まるで、魔法だ!』と、子供のようにキラキラと目を輝かせている。
「良ければ、儂が案内しようかの? 何せ初めてだ。わからない事だらけじゃろう」
「本当に⁉ いいんですか⁉」
「いいんじゃよ、いいんじゃよ」
「有難いです。とても助かります」
私と彼は、お互い顔を見合わせて喜んだ。
「おっと、忘れてはいけない事がある。ちょっと待ちなされ」
仙人は布で出来た袋から何かを取り出し、それを私達に渡す。中身は……お面? しかも、おかめとひょっとこ。
「それを被りなされ。ここでは宴会に参加する者は皆、仮面を被らなければならないルールがある」
「もし、そのルールを破ったらどうなるんですか?」
彼は真剣な顔をしながら、仙人に問いかける。
「そうじゃな……仮面を被れば仲間と見なされ、もてなされるじゃろうが、仮面がない者はよそ者だと認識され、恐ろしい目にあうやもしれん。まぁ、全員が全員ではないがな」
老人は笑顔で物騒な言葉を言い放った。
「恐ろしい目……ですか」
「そんな事……あの兎面達、一言も言ってなかったよね? 自分達から来いって言ったくせに、肝心な事言わないとか、本当に有り得ない!」
私は兎面の双子に憤怒した。……しかし、説明が多すぎる小説は、情報を与えられすぎて思考が停止したり、自分の想像する世界を思い描けない分、面白味に欠ける。
――いや、これは【小説】ではない【現実】だ! やはり情報は少し多い方が助かるし、出来れば教えておいて欲しかった。
「大丈夫じゃよ。海辺に出る道の前に、仮面はわんさかと置かれておるわい。ちなみにそれは儂のお手製でお気に入りじゃ! 特注品じゃぞ? 是非使ってくれ」
これ、お気に入りなんだ。予備があるならもっと可愛い面がいい。……なんて、仙人のあの嬉しそうな顔を見ておいてそんな卑劣な事が言える筈もなく、私はとりあえずおかめの面を頭にかけた。
ふと隣を見ると、彼はとっくにひょっとこの面を顔に被せていて、とても楽しんでいるように見えた。どうやら満更でもないみたいだ。……彼のこういうところが、少し残念だと思う。
「それとお主達、{白兎神}(しろうさぎのかみ)と{黒兎神}(くろうさぎのかみ)に会ったのか?」
「……えぇ、この世界に来る前の話ですが」
「あれには気をつけた方がええ。あれはちょいと厄介な存在じゃ。退屈を嫌い、規則を嫌い、遊戯を楽しむ。いつも自分の思い通りになる玩具を探しているんじゃ。まだ幼いが、悪魔の申し子のようなもんじゃよ。子供ながらの残虐性を秘めておる。……あの子らは心を惑わしおかしくさせる、あまり関わらん事だよ」
仙人は些か辛辣な表情を見せながら、私達にそう助言した。
――その時、大きな発砲音が島中全体に鳴り響き空に赤や緑、黄色などの煙が立ち昇る。
「おぉ! 宴が始まる合図じゃ。急ぐとしよう! 七年振りの宴じゃ。胸が鳴るぞ」
「七年振り……」
「ソウくん? どうかした?」
「……いや、何でもないよ」
ひょっとこの面を被った彼のその表情を、私は読み取る事が出来なかった。
仙人は布袋から自分用の面を取り出す。私は、仙人は一体どんな仮面なんだろう? と興味津々に、後ろからそっと覗き込んだ。
「天狗……」
「大傑作じゃろ?」
「……お爺さん、何だか和風な人なんですね」
私は思わず苦笑いを浮かべる。
「あぁ、儂は人の世を好んでおってな。おかめもひょっとこも大好きじゃ。人間が描く七福神も好きじゃなんじゃよ。実物とは、姿も形も全く違うんじゃがな」
そう言うと仙人は可笑しそうに笑いながら、天狗の面を左頭の方にかけた。
ずっと私達の後についてくる大きな月と追いかけっこをしながら、私達は暗く不気味な深い森の中をひたすら歩く。生暖かい風が身体にまとわりつくようにして、私から離れない。非常に不愉快だ。
足場がはっきりせず、落ちている木の枝を踏んでパキッっという音が鳴る度、背筋がゾクリとした。
徐々に海辺に近付いているのだろうか? 煙の甘ったるい匂いが漂い、鈴や太鼓のシャンシャンという音や、ドンドンという音が、微かに聞こえてきた。
突然後ろにいる彼が私の肩を叩き、私は足を止める。立ち止まる私達に気が付く様子もなく、仙人は浮足で先を行った。
まだまだ静寂な森の中。彼は、『ミズホ……』と小さな声で私に話しかけてきた。
「この世界では基本、誰の事も信じない方がいい。勿論、あの老人もだ」
「え……どうして? あのお爺さん、凄くいい人じゃない」
先程まで仲良く話していたのに……あれも全て、彼の演技だったという事なのだろうか?
私は正直、彼にはお面など必要ないのでは? と思った。……だって彼はいつも、偽られた道化師の仮面を装着しているのだから。
「兎が言っていたろ? 白か黒かと。言葉のまま考えると善と悪。あの老人が【白】の仮面を被っていないとは言い切れない」
「……ほっほっほ!」
少し前を歩いていた仙人が、いつの間にか少し先で立ち止まっていて、軽快に笑い出した。……この距離では、私達の会話は聞こえていない筈なのに。
老人は振り返り、道を引き返す。そして私達の前に立つと、非常に穏やかな笑みを浮かべた。
私は仙人のその表情を見て、ふいに店長の顔を思い出した。皺くちゃで長い歴史を感じるような、誠実で強くて尊い、とても優しい微笑みだ。
「そうじゃ……青年よ、君は正しい。娘さん、ここではむやみに誰も信じてはいけない」
仙人は頭にかけられた面を顔に被せると、奇妙な風貌で話を続けた。
「ここには他に決まりがあってね」
――楽しんではいけない。この世界に取り込まれてしまうから。
――楽しまなくてはならない。皆はそっと見張っているよ。……楽しめない者は許されない。
――怖がってはいけない。ここにいる間は、皆が仲間だから。
――怖がらなければならない。この中にいるのは良い者だけとは限らない。……得体の知れない者達が紛れ込んでいるかもしれない。
「……この言葉、ちゃんと覚えておくがいい」
仙人は一通り話を終えると『儂も、天狗の面を被った得体の知れない者かもしれないぞ? 信用はしない事だ』と楽しそうに笑った。
甘い匂いの中に薄っすらと潮の匂いを感じる。賑やかな音楽に、歓声が聞こえる。私はおかめの面をそっと顔に被せると、森を抜け、砂浜に足を踏み入れた。
「すごい……」
海辺に集まる仮面達の、秘密の宴会会場。そこは沢山の仮面をつけた者達で溢れ返っていた。
暗闇に灯るオレンジの火が激しく燃え盛る。火の威力を増した【それ】は、まるで昇り竜のように暴れ、躍り狂っていた。
その【昇り竜】の周辺には、色とりどりの衣装を纏った者や獣達がいて、美しい笛の音色やパーカッションのリズムに手拍子を合わせると……皆、我を忘れたかのように愉快に踊る。
祭りの夜店のように、見た事のないような食料や飲み物が、ズラリと並んでいるが、ここではお金など必要ないらしい。皆好き勝手に手に取り、好きに楽しんでいる。
「……美しい。こんな世界が本当に存在していたとは」
「そうじゃろ? 青年よ。目に見えるものだけが真実ではない。目に見えないものにこそ、本当の美しさが隠れているというもんじゃ」
「……そうですね。俺は今まで、こんなに美しい世界を見た事がありません」
彼は感嘆の声を漏らした。
無理もない。私も先程からずっと、この胸の高鳴りを抑える事が出来ないくらいに気分は高揚し、感動していたからだ。
「おぉ! 奥岩島の爺さん! あっちの方で、もう酒盛りが始まっているぞ? はよきんしゃい!」
突然仙人に話しかけてきたのは、狸面を被った小さく小太りな老人だった。見る限り、仙人とは随分と親しい間柄のようだ。
「何⁉ それは急いで行かねばならん! ……申し訳ないが君達、儂はこれで失礼するよ。存分にこの宴を堪能すると良い。ここは【夜宴の島】だ。何もかも忘れて歌い踊れ」
仙人は私達にそう告げると、狸面に連れられ、あっという間に見えなくなってしまった。
「……とりあえず、俺達も色々と見て回ろうか?」
「うん!」
賑やかで騒がしい中、彼と私は夜宴の島を見て歩き回る。
目の部分だけを仮面で隠してはいるものの、一目見ただけで見目麗しい事が充分にわかる女性が、それに見合った美しい歌声で歌い始めると、鎌鼬が軽やかに女性の周りを舞う。荒ぶる風を巻き起こし、鮮やかな紙吹雪を宙に撒き散らしながら。それが、とても美しかった。
「! ソウくん! あれを見て!」
一箇所に集められた幼い童達が、揃って一斉にシャボン玉を飛ばすと、まるでこの宴会は水の中で行われているような錯覚に陥る。無限とも思えるくらいのシャボン玉が次々と夜の空に昇っていくのを見て、皆が歓喜の声を上げた。
この場に存在する者達全員が、その美しさに深く酔いしれる。きっと、お酒の酔いも早く回る事であろう。
まるで呼吸の泡のように、一面に浮き上がるシャボン玉を見て……私は無意識に、夜科蛍が執筆した【鏡花水月】のヒロインの事を、【水の中を優雅に泳ぐ人魚】と表現した美しい描写を思い出していた。
――そうだ! ネットで見つけた夜科蛍の話を、彼に話さなくては。
……いや、それはまた後でいいだろう。
今はこの世界を、ただひたすら、何も考えずに楽しみたい。私はそんな事を思いながら、意識を再び【夜宴の島】に向けた。
美味しそうな魅惑の匂いにつられ、少し小腹が空いてきた私達は、肉焼きや飲み物を手に取ると、お面を少しずらしてゆっくりと口に運ぶ。
今まで見た事もないような美しい虹色の飲み物は、口の中で弾けるように、私の中に溶け込んでいった。それは、私の心を一瞬にして虜にしてしまえるような何とも言えない味だった。
気付けば私は、もう三杯も、その宝石のように美しい飲み物をおかわりしてしまっていた。
「ミズホ、飲み過ぎ!」
ソウくんが笑う。
「だって美味しいんだもん!」
私も笑う。
周りでは他の面達も皆、楽しそうに笑っていた。
「ねぇ、ミズホ? ここにいる者達は皆、あの面の下で……一体、どんな表情をしていると思う?」
突然、彼が私にそう問いかけた。
「? 笑ってるんじゃない? だって、そこら中から笑い声が溢れているもの」
「わからないよ? もしかしてあの面の下では、とんでもなくおっかない顔をしているのかもしれない」
「もう、脅かさないでよ!」
私は思わず吹き出して笑ったが、もし彼の言う通り、あんなに声を上げて笑ってる仮面の下が怒りの表情だったら……なんて考えると、この世界そのものが違ってみえる。なので、深く考えない事にした。
海の方に目を向けると、海は穏やかに波音を立てていた。
イカダを作りこの海に出たら、一体どこに繋がっているのだろう?
そんな事を考えながらボーッと歩いていると、目の前にいた幼い少年に気付けず、ぶつかってしまった。少年は少しよろけたものの、何とか転けずに済んだようでホッと安堵の息を漏らした。
「ご、ごめんなさい! 少し考え事をしていて……大丈夫ですか?」
「……いえいえ、お嬢さん。大丈夫ですよ。お気になさらないで下さい」
狐面を被った淡い藍色の甚平を着た少年は、少年らしからぬ丁寧な言葉使いで私にそう言った。
「おや……貴方達は【人間】、なのですか?」
「え⁉ どうしてわかったの⁉」
「ミズホ!」
彼は、焦ったような声を出し、私を制止する。
私は頭に【はてな】を思い浮かべながら彼を見ると、狐面の少年は口元に手を添え、クスクスと上品に笑った。
「そう聞かれて馬鹿正直に話すのはナンセンスです。お気をつけて」
狐面は、『まぁ隠さなくても、その出で立ちで大体わかりますがね』と静かに笑うと、ひょっとこ姿の彼の前にゆっくりと移動した。
「貴方……実に興味深いです。何故、この地にいらしたのですか?」
狐面は彼の方を見て、首を傾げた。
「え? 何故って……この世界に興味があったからだよ。ずっとずっと、異世界というものに憧れを抱いていたんだ」
彼は相手が子供だからか、正直に理由を話しているように見える。すると、少年は更に首を傾げながら彼に尋ねた。
「貴方……嘘をついていますよね?」
「え……?」
少年は、何の確証があってそんな事を言うのだろう? 彼も驚き、言葉を失っているようだった。
「――いや、嘘とも言い難いのだろうか? 確かに貴方の中にはこの世界を美しく思い、異世界への憧れと純粋な心をお持ちのようだ。けれど本質的な貴方からは、この世界に対し、激しい憎悪や怒りのようなものを感じたものですから」
そんな少年の言葉に、彼はまるで図星を突かれたかのように押し黙る。
怒り? 憎悪? ……彼が?
初めて来たばかりの夜宴の島に? ……まったく意味がわからない。
「私、思ったら何でも口にしないといられない性分なのですよ。気に障ったのなら謝ります」
少年はぺこりと頭を下げた。
「……いや、いいよ。気にしないで」
「そうですか。それなら良かったです」
彼は今、仮面の下で……どのような顔をしているのだろう?
わからない。想像もつかない。
表情というものは、とても大切なものなのだと改めて認識する。
笑っているのか、怒っているのか、泣いているのか、喜んでいるのか……仮面一つで全てが隠されてしまい、容易に判断できなくなる。
私は急に、不安で胸が押し潰されそうになった。
「さて、……私はそろそろ失礼しますよ。あまり長居をすると見つかりたくない相手に見つかってしまうので」
「……見つかりたくない相手?」
ものを言わぬ彼の代わりに、私が少年に尋ねる。
「えぇ。ここには兎の面を着けた双子がいるんですがね? 私、その双子が苦手……と言うより大嫌いなのですよ。ソリが合わないとはこういう事なのですかね。とにかく、不愉快極まりない存在なのです」
狐面の少年は、あからさまに大きな溜息を吐いた。
「それに、もう用事も済みましたからね」
少年が指をパチンと鳴らすと、突然現れた木の葉が少年の周りを囲い、優しくそっと包み込む。
「――では失礼」
そう言うと、少年はフッとその場から消え去った。
「うわぁ……あんなに小さくても、やっぱり人間じゃないんだね。狐面を被ってたし、今の子供は狐の神様か何かなのかな?」
「……そうだね」
明らかに声に張り合いが感じられない彼。
私はそんな彼の事が心配になり、一つ提案してみる事にした。
「ねぇ、ソウくん。少しここから離れない? 私、ずっと面着けてるから、何だかちょっと疲れてきちゃったよ」
「……そうだね。俺もちょっと疲れた。それに、この島をもっと探索するのも悪くないしね」
そう言った彼の声は、先程に比べると少しだけ元気を取り戻したような気がして、私は胸を撫で下ろした。
「よし、そうと決まれば行こう!」
私達は沢山の人混みの中を掻き分け、少しずつ宴から離れて行く。……実際、人ではないのだけれど。
賑やかな音は徐々に遠ざかり、私達は再び暗闇の中へと消えていった。
私達は先程とは逆方向の道を歩く。……とは言ってもここはやはり【島】だ。見渡す限り、森と海しかない。
宴会場からかなり離れた森の中で、木で作られた休憩場所のような場所を見つけた私達は、一旦そこで腰を下ろした。
目の前には不気味な月が見えていて、そのあまりの大きさに、手を伸ばせば届くのではないか? と、つい手を伸ばしてみる。
月に向かって手を翳してみると、更にその月の大きさを実感する事が出来た。
彼はひょっとこの面を頭にずらす。久し振りに見たような気がする彼の表情は、何だか凄く疲れているように感じた。私もおかめの面を頭にずらす。
「ミズホって……そんな顔してたっけ?」
彼が笑いながら、白々しくそんな事を言うものだから、取り敢えず頭を軽く小突いてやった。
「もっと可愛い面が良かったけど、お爺さんがせっかくくれたんだし……文句は言えないよね」
「ミズホのおかめ姿、なかなかサマになってたけどね?」
「……ソウくんのひょっとこもね」
私は顔から面を外して彼の笑顔が見れた事にとても安心し、思わず顔が緩んだ。
「それにしても、本当に凄い世界だね」
「ん……?」
「本当に綺麗だった。宴に参加している人達は皆、やっぱり奇妙で少し恐ろしくも感じるけれど……心を魅了してやまない不思議な世界。正にファンタジーだね」
「……そうだね。本当に不思議だ。あの目の前にある月になんて、見ているだけで今にも喰われるんじゃないかって気持ちになるよ。いきなり大口開けて、ガブッとね」
「確かに! 飲み込まれそうなくらい大きいよね! あんなに大きな月、初めて見たよ!」
私がクスクスと笑っていると、彼はじっと月を見つめ、そっと口を開いた。
「あの月をぶっ壊したら……中には何が入ってるのかな?」
突然の彼らしからぬ発言に、私は少し目を丸くしたが、思った事を素直に述べてみた。
「月の……住人?」
彼は『ぷはっ』と隣で吹き出した。
「月の住人って、かぐや姫や兎の事? ミズホは本当にメルヘンだよね!」
ソウくんは声を上げて笑った。私は少し不貞腐れながらも、今度は逆に彼に問いかけてみる。
「じゃあ、ソウくんはあの中に何が入ってると思うの?」
「俺? うーん、そうだなぁ? ――宇宙人。もしかしてあの月の中は、宇宙人の秘密基地かもしれない」
「宇宙人⁉ 月に⁉ ないよ! ないない! けど、それ面白いかも!」
周りから見たら間違いなく変人同士の会話なのかもしれない。けれど私は、こんなに私の事を理解してくれる彼と話している時が一番楽しい瞬間なのだ。
だから……こんな時間がずっと続けばいいのになって、心の底からそう思った。
「あ、そうだ! 私ソウくんに言わなきゃいけない事があったんだ!」
「ん? 言わなきゃいけない事?」
「うん、あのね! ここに来る前にネットで偶然に見つけたんだけど……夜科蛍がね、夜宴の島に来た事があるみたいなの!」
「夜科……蛍……」
彼は【夜科蛍】の名にピクリと反応する。その顔は先程までとは違い、急速に表情を失っていった。
「え……? ソウくん、どうかした……?」
「……いや、何でもないよ。続けて?」
「う、うん。ならいいけど……」
私はとにかくネットで得た情報を全て彼に伝えた。その間、彼の方からは特に何を言う事もなく、黙って私の言葉に耳を傾けてくれていた。
「夜科さんって年齢不詳だし、性別だって不明で、謎のヴェールに包まれてるけど、対談とかしてたんだね。何だかびっくりした! ……けど、やっぱり夜科さんの情報には何も触れられていなかったよ。やっぱり秘密なんだね。色々と」
私は目の前の月を眺めながら、『んーっ!』と腕を上げ、背筋を伸ばした。
「ねぇねぇ! ソウくんは夜科さんって男だと思う? それとも女だと思う?」
私は彼の方に笑顔で振り返るが、一瞬にしてその顔はピシャリと凍りついた。
彼が、五十嵐想が……まるで能面のように、不気味なまでに無表情だったから。
「夜科蛍は、女だよ」
「……え?」
「鏡花水月の夜科蛍は、女なんだ」
彼は『女だと思う』ではなく、『女だ』と、そう断言した。私は彼の突然の爆弾発言に、驚きを隠す事が出来なかった。
けれど、もしそれが本当だったとしても、何故ソウくんがその事を知っているのだろう?
「ねぇ、どうして夜科蛍は女の人だなんて言い切れるの?」
「……色んなルートを使って調べたんだよ。ただそれだけ」
彼の様子が明らかにおかしい。何だか急に素っ気なくなった気がする。……私の気のせいだろうか?
「じゃあ、もしかして……夜科さんが夜宴の島に来た事があるって事も……?」
「勿論、知っていたよ。……だから何?」
特に悪びれる事もなく、シラッと言う彼の態度に段々と腹が立ち、思わず私の口調に怒気が混じる。
「知っていたなら、どうして教えてくれなかったの⁉」
「……別にいいじゃないか。君には関係ないだろう? わざわざ知る必要もない」
「関係ない事ないよ! 私、夜科さんの大ファンだもん! それに夜宴の島にも関係ある事でしょ? 思いっきり関係あるじゃない!」
「……大ファンが聞いて呆れるよ。何も知らないくせに」
……何で? さっきまで笑ってたよね?
どうしていきなりそんな事言うの? 何で急にそんなに不機嫌になるの?
「じゃあ、ソウくんは一体……夜科蛍の何を知ってるって言うの?」
「……少なくても、君よりも知っているよ。それも、嫌ってぐらいにね」
彼のキツく鋭い視線は、まるで鋭利な刃物のように、私の胸を容赦無く突き刺した。
彼の感情を持たないような冷めた表情は、まるで吹雪のように近付こうとする者を容赦無く凍結させる。
近くに感じ始めていた私と貴方との距離は、実際は前と変わらず、遠いままだった。
「喧嘩だー」
「喧嘩だー」
聞き覚えのある声が重なって聞こえてきた。……兎面の双子達だ。二人は楽しそうにケラケラ笑いながら、こちらに向かって歩いてくる。腰につけられた巾着袋から、微かに鈴の音が聞こえてきた。
「やはり、お前、黒。間違いない」
「黒い感情、プンプン匂う。お前邪悪」
「初日の夜、白と黒は仲違い」
不愉快なくらいに高らかな笑い声が、森中に大きく響き渡った。
キャッキャとはしゃぐその姿は、仮面さえ無ければ普通の子供と変わらないような気もする。
それ程までに、彼らから悪意を感じない。ただ純粋に、この時を楽しんでいるように思えた。
そう、ただ純粋に……
彼は無言で立ち上がると、兎面の前まで進む。
急に目の前に立ちはだかった彼の姿を見て、双子は同時に首を傾げていると、彼は兎達の胸ぐらを掴み、高く持ち上げた。
「いちいち、うっせぇんだよ。糞ガキ共が」
「う……ぐぐ……」
私は、彼の言葉に耳を疑った。彼の行動が、信じらなかった。
――目の前にいるこの男は一体誰だ。
「……この宴会の主催は誰だ。さっさと答えろ。そいつに会う為に俺はここに来たんだから」
彼は冷酷な瞳で双子を睨みつける。兎達は苦しそうな声を出しながらも、彼に反抗の意思を見せつけた。
「……しゅ、主催者なんて、いない、バーカ」
「そ……んな事さえ知らない、お前、バーカ」
「……あぁ?」
彼は更に力を強めた。仮面に隠されていてはっきりとはわからないが、きっと双子達は歪んだ表情を浮かべているに違いない。苦しそうな呻き声が、それを物語っている。
「うぅ……っ!」
――出ろ、声! 動け、足! これ以上彼が変わってしまう前に、早く止めないと!
「やめて!」
私は思わず声を張り上げた。
その声に彼は手の力を緩め、双子は地面に強く強打する。私はすかさず彼と双子の間に割り込み、彼に向かって叫んだ。
「もうやめてよ! ソウくん!」
「……どうして止めるんだ、ミズホ。さっさとそいつらを寄こせ」
「……どうしてですって⁉ いくら不気味で怪しい双子だとしてもこの子達はまだ子供なのよ⁉ そんな事もわからないの⁉ ……駄目、この子達は絶対に渡さない」
私は双子達を背に隠し、彼を睨みつけた。彼の目には相変わらず生気は感じられない。
ギュッと握った拳に力が入る。その手はブルブルと震えていて、抑えようとしても止まる事を知らない。
それは、彼に対する怒りからか? それとも、何も出来ないもどかしさからか?
いや……単純に恐怖からかもしれない。
怖い。彼が怖い。……怖くてたまらないんだ。
(お姉ちゃん、大丈夫だよ)
突然、私の頭に響く……優しく、幼さの残る声。
……誰?
(僕は白兎神だよ。お姉ちゃんの後ろにいる。あ、後ろは振り返らないで)
双子の? けど、いつもと話し方が全然違う。
(お兄ちゃんは……あの宴で何かを口にした?)
あの宴で彼が口にした物? 彼は確か、肉焼きと真っ赤な飲み物……そう! 彼はルビーのように美しく情熱的な真紅色の飲み物を手に取っていた。
(――それだよ。あの宴に置いてあるものは、大体が普通に食べられる物ばかりなんだけど……ごく稀にそうでない物も紛れ込んでいるんだ。お姉ちゃん達は飲んだ者の心を惑わすと言われている、魔女の薬を飲んでしまったんだね)
……魔女の薬???
(不思議な事に魔女の薬は飲み手を選ぶんだ。選ばれた者は、無意識に自分が一番望んでいる物を手に取ってしまう……お兄ちゃんは今、心に秘めていた歪んだ想いが増大し、抑え込んでいた感情が暴走してしまっているんだよ。けど魔女の薬は大抵、飲んだ者の心を後押しするくらいの効果しかない筈なんだ。本来は自分の意思で、少からず制御出来る筈なんだけど……きっとお姉ちゃんはお兄ちゃんの悩んでる内容に、知らず知らずに触れてしまったんだね。お兄ちゃんが変わる原因となってしまったきっかけ、そのキーワードを出してしまったんだ。それで歯止めが効かなくなったんだよ。……心の弱い者ほど魔女の力に強く影響されてしまう。お兄ちゃんはきっと、弱い人なんだよ)
きっかけ……キーワード……
【夜科蛍】
――間違いない。彼は、私が夜科蛍の話題を出したあの時から……まるで人が変わったかのようにああなった。
じゃあ、これは全部……私のせいなんだ。
(……ううん。そうではないよお姉ちゃん。これがお兄ちゃんの本当の姿なんだ。多少薬の影響で、感情が大きく膨れ上がってるかもしれないけど……今の姿が、間違いなくお兄ちゃんの心の奥に眠る本心なんだよ。【レッドナイトムーン】が、それを表に引き出したに過ぎない。お姉ちゃんが責任を感じる必要なんてないんだよ)
でも……!
「……さっきから、何をブツブツ言ってるんだ? また自分の世界にでも入り込んでるのか?」
皮肉じみた彼の言葉など無視し、私は白兎の言葉に集中する。すると、彼は呆れた表情を見せながら私に話しかけてきた。
「……まぁいい。俺はこいつらに聞きたい事があるんだ。邪魔をするなら君でも容赦しない」
(……お姉ちゃんが飲んだのはきっと、【アクアマーメイド】だね。僕、何となくわかるんだ。アクアマーメイドは困難に立ち向かう為の勇気と自信をくれる、今のお姉ちゃんにぴったりな薬だ。お兄ちゃんはきっと、頭の中では止めたいと思ってる。助けて欲しいと思ってる。だから……お姉ちゃんが止めてあげて)
頭にこだまする幼く優しい声は、私に力をくれた。
私が、彼を何とか元の彼に戻して……この子達を守らなければ。
「……ソウくん」
私は彼の前に立つと、思いっきり彼の左の頬を引っ叩いた。パシン! という鈍い音が、辺りに響き渡る。
「いって……」
「痛い? そりゃ痛いでしょうね? 本気で叩いたもの。たかが飲み物の力なんかに左右されるなんて、本当に弱い男ね。……情けない」
「一体、何の話だ?」
「貴方、幼い子供相手にやっていい事と悪い事の区別もつかないの? 本物の五十嵐想って男は、こんなしょーもない男だったってわけだ。……何だかがっかり」
「……何が言いたい? はっきりしろよ、聞いててイライラしてくる」
「別に? 秘密主義者の本当の姿は、小さい子供相手に酷い事をするような下劣で最低な男だった。ただそれだけの事よ」
「……君に俺の何がわかる? 知ったような口を聞くのはやめてくれないか? 君に俺の気持ちなんて、わかる筈がない」
「そんなのわかるわけないでしょ? だってソウくん、いつもなーんにも言わないじゃん。思ってる事を何も言わないくせに、わかってもらいたいだなんて図々しいのよ」
「黙ってくれないか、もう。今は君の話を聞いているだけで虫唾が走る」
「逃げるんだ?」
「……何?」
「女に言い負かされて、逃げるんだ?」
私の言葉に怒りが頂点に達したのか、彼は木で出来た椅子を何度も何度も蹴りつけた。
ベンチのような形の椅子は、少し脆くなっていたのだろう。簡単にその形を変えてしまった。
尖った木の破片が飛び散り、辺りにバラ撒かれる。椅子は大破されてしまい、もう座れそうもない。
「……いい加減にしろよ。黙れと言ってるのがわからないのか⁉」
「私が話しているのを、貴方が止める権限なんてないよね? それに物に当たるとか、本当にカッコ悪いからやめてくれない?」
「うるさい! 黙れよ!」
彼は激しく声を荒げた。
「そんなに苦しいならね⁉ もう全部ブチまけちゃえばいいじゃない! 貴方には今まで親身になって話を聞いてくれる、そんな相手が一人もいなかったの⁉」
「うるさい……うるさい! うるさい!」
彼は苛つきを止める事が出来ないのか、髪を激しく掻き毟る。呼吸は荒く、必要以上の換気活動を行なってしまったせいか過呼吸を引き起こしており、パニック症状も見られる。
目尻に溜まる涙。震える手足。絶え間なく流れる汗。血走る眼球。
一目見ただけでわかる。今の彼の精神状態は、普通ではない。
しかし彼はそんな状態にも関わらず、まるで野生の狼のように私を鋭く睨みつけた。
手を出した瞬間、勢いよく噛みちぎられそうなくらいに鬼気迫るものを感じる。……しかし、私はただ震えて食べられるのを待つ子山羊ではない。
「どうしてそんなになるまで自分を追いつめてしまったの? ……ねぇ、何がそんなに辛いの? どうして一人で抱え込むの? 貴方が自分自身で心を閉ざして壁を作ってしまっている事に、何で気付かないの⁉」
「黙れッ!」
彼は手を勢いよく上に振り上げる。
私は、『打(ぶ)たれる!』と思い、咄嗟にキュッと目を瞑った。
……あれ? いつまで経っても痛みがこない。
恐る恐る目を開けてみると、彼の振り上げられた手がわなわなと震えているのが見える。
彼の悲痛な表情を見て、ギリギリ寸前のところで彼の意思が【それ】を止めた事がわかった。
「――おいっ! 女! お前今、あの結晶を持っているか⁉」
黒兎の少女が声を上げた。
「え、結晶⁉ 店長のだよね? あれは、確か彼が……で、でも! 今日彼があれをここに持ってきているかどうかなんて、私にもわからないよ!」
「……いや、こいつなら必ず持って来ている筈だ。それにこいつが持っているというのなら、ますます好都合だ」
黒兎はその小さな手を彼にかざし、聞いた事のない、まじないのような言葉を口にした。
その瞬間、彼の身体が眩い光を放つ。
「⁉ お前! 俺に一体、何をした⁉」
彼は吠えるように兎に食らいつこうとするが、【中】の彼がそれを抑制しているようだ。彼は今、身動きを取る事が出来ない。
黒兎はなおも不思議な言葉を唱え続ける。白兎はその隣で黙って静観している。
目も眩むような輝きが辺り一面を包み込み、その光の中に小さな黒い影のシルエットが映り込んだ。
――あの結晶だ!!
美しい結晶は空中に浮かび上がり、彼の頭上で粉々に砕け散る。
その瞬間、砕け散った欠片が彼を紺碧の渦の中へと飲み込む。それは夜の空か、深い海か? 彼を閉じ込めた円状のそれは、徐々に透明化していき、やがて視界から見事に消え去った。
「ソウくん! 大丈夫⁉」
私は急いで彼の傍に駆け寄った。酷い顔色だ。真っ青に染まった彼の顔は、疲労の色を隠しきれない。
「うっ!」
「ソウくん⁉」
彼はその場で嘔吐した。それも、出たのは普通の吐瀉物ではない。ドロドロで真っ黒な液体が、絶え間なく彼の口から放出されていく。私は、彼の背中を優しくさすり続けた。
「心潜む、闇、出た」
「心蝕む、毒素、出た」
双子達は、以前の話し方に戻っていた。
「闇? 毒素? ねぇ、彼は大丈夫なの⁉」
私は懸命に兎達に尋ねるが、二人は互いにそれぞれの場所を指差し、クスリと笑う。
――黒兎は森を指差す。夜明けと共に森は霧に包まれ、白く霞み始めて行く。
――白兎は空を指差す。朝焼けが空一面に滲むように、広がり始めている。
「夜明ける。一日目、終わり」
「夜明けた。二日目、始まる」
「宴は残り十六夜。盛大に楽しめ」
その言葉と同時に、彼は急に意識をなくし、その場に倒れ込んだ。大声で彼の名を呼び、身体を強く揺するが、一向に目を覚ます気配がない。
その内にだんだんと私まで意識を保っているのが辛くなってきた。目がトロンとし、上手く頭が働かない。
「ソ、ウくん……」
私は彼の上に被さる形になりながら、ゆっくりとその目を閉じていった。
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