ライトの契約~最弱の少年は美少女な精霊達と共に最強の魔王へと成り上がる~

五味葛粉

第一章 落ちこぼれは精霊使いへと成り上がる!

第1話 火の精霊ソエル

魔王―――無限に等しく存在する各魔界において、その魔界でもっとも強い者がそう呼ばれる。


 俺が生活するこの『第7魔界セレンディア』でもそれは例外では無く、

 それはつまり俺の父である魔王クロリスもセレンディア最強である事を示していた。


 しかし、

 だが、しかし、


「おいライト!これ、お前の報酬な」


 ギルド内、受付で報酬を受け取った鋼の鎧を着た男が俺に渡してきたのは、

「え?ちょ、ちょっと待てよ、報酬は元金の十分の一だって」


「確かに言った!」

 男は遮るように叫び、

「言ったけどお前自分で俺達の十分の一も働いたと思えるか?荷物運びもろくに出来ない、回復薬は落として割る、使えない雑用に払う報酬があるか?えぇ?」


「それは……でも、」

 約束しただろ。とは言え無かった。


 こいつの言っている事は間違いでは無い。

 そう、魔王の息子である筈の俺は魔法が使えない、どころ荷物運びすらろくに出来ない、落ちこぼれを絵に書いたような無能だった。


「分かったらほら、これ持ってさっさと消えな。がくる前に……って」


 鎧の男は俺の後ろを見て目を見開いている。

 が来たのだろう。


 カツン、

 と後ろから足音が聞こえた。


 その瞬間、騒がしかったギルド内が静寂に包まれる。

 受付嬢をナンパしているチャラ男も、テーブルで酔っ払っている髯おやじも、掲示板前で話し合っていた魔法使い達も、

 皆一様に口を閉じて俺の背後、ギルドの入り口に視線を向けた。


 振り向か無くても分かる。

 無数の切っ先を突き付けられているかのような殺気、押し潰されそうな程の魔力、


 そして入り口から差し込んだ太陽の光を塗り潰す影。

 その頭部から伸びる二本の角。


 どれをとってもでしかあり得ない。


 驚きから一転、青ざめた顔になって走り出した鎧の男を庇うように振り返って両手を広げたが、


 時既に遅し、風のように俺の横を通り抜けたは腰の剣を引抜き叫ぶ。


「私のをイジメルなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 ――――――――――――――――――――――

「ギルド全壊はやりすぎだよ


 あの後は大変だった、いつもなら腕を切り落とすだけで怒りを収める姉さん(充分やり過ぎ)だが、今日は腕を落とされた鎧の男が俺の事を罵倒(小声)したもので、ブチ切れた姉さんが魔法でギルドごと吹き飛ばしたのだ。


「それに俺の扱いは俺が無能だからで、別にイジメられてる訳じゃ」


「待て」

 ピシッ

 と片手で制し、


では無くと呼べといつも言っているだろう?」


「……ごめん、義姉さん」


 義姉さんは何故か姉さんと呼ぶといつも怒る。

 前に理由を聞いた時は鬼のように顔を赤く染めて、姉だと結婚がどうとか言って話をはぐらかされた。


「分かれば良い、今日は疲れただろう?冒険者は体が資本だ、まだ早いが休んでおけ」


「うん、……でもその前に少し走ってくるよ」


「あ、おいライト!」


 義姉さんの制止を無視して宿を飛び出した。


 弱い俺が休んでいる訳にはいかない、街が夕暮れに染まる中、いつも通り街の近くにある秘密の練習場に向かいながら考える。


 姉さん……義姉さんの事を、

 正直言って捨子の俺としては義理という言葉は好きでは無い。


 誰もが魔力を生まれ持つこの魔界で魔力を持たずに生まれてきた俺は始めからゴミ扱だった。


 実の親に奴隷のように扱われた挙げ句十歳で家を追い出された。


 当然教養もなければ魔力も無い俺に働き口も無い。村では子供から大人まで俺を蔑み近寄らない。それどころか石を投げられる始末だ。


 飯屋のゴミ箱を漁り、八百屋、魚屋、肉屋と盗みもやった。


 しかし、それも長続きはしない。

 大人達に捕まった俺は散々殴られた挙げ句に瀕死の状態で魔物の出る森に捨てられた。


 当然魔力を持たない俺に人間を越える化物である魔物が倒せる訳は無く、俺はそこで一生を終える筈だった。


 しかし、

 その時全てを諦めて死を覚悟した俺を救ったのが姉さんだったのだ。


 文字通り命の恩人、あの時の事は今でも夢に見る。

 生まれて初めて俺に優しくしてくれた人。俺に心をくれた人だから。


 そこまで思い出したところで練習場に着いた。

 街の近くにあるのに誰も近寄らない場所。


 深い森の中にあるちょっとした空き地程度のスペースの中心で火の玉がふわふわ浮いていた。


 


 そう思って見ていると頭の中に直接声が聞こえてきた。


『おはようライト、今日は早いのね、早速昨日の話の続きを聞かせてちょうだい?』


「……」


 その声を無視して、脇にある太い木に向かい合い魔法の練習をしようとするが、

『ちょっと無視しないでったら!ねぇ!』


「……」

 目を閉じてイメージする。


 集中、集中しろライト。俺にだってきっと出来る。


『ねぇったら!そんな無駄な事するより私とお話しましょうよ、ね?』


「……」

 集中、集中……


『ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねねねねねねねねねねねねねねねねねねねね』


「ア―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「うるっっさいな!!何で邪魔するんだよ!!」


『だってつまんないんだもん!早く続きを聞かせて頂戴』


 反応された事が嬉しいのか火の玉は俺の周りをくるくる飛び回り、まるで甘えるように、鈴の鳴るような可愛らしい声を頭に響かせる。


「練習が終わったら話すから、それまで待っててよ」


『イヤーー!!待て無い待て無い!!昨日からずっと待ってたんだから!それに練習なんて意味無いよ』


 またそれか、と正直うんざりする。

 この火の玉と出会ったのは三日前だが、ずっとこうだ。


「それはお前が決める事じゃない。諦めなければ絶対に出来るんだ、絶対、絶対に」


 半ば自分に言い聞かせるように言う。


『無理な物は無理!魔力が無いんだからどうにもならないよ』


「そんなの、分からないだろ!眠ってる力が」

『無い!』


 火の玉は重ねるように叫び、

『そんな力があったら私の事を認識出来ないんだってずっと言ってるじゃない、それに魔法が使いたいなら契約してあげるとも言ってるのに』


「……契約ね」


 この火の玉は自分を精霊だと名乗りそれどころか契約を結べばとてつもない魔力が手に入る、と言う。


 でも、

「そんな都合の良い話があるわけないだろ、精霊や契約なんて本でしか見た事ないけど、お前みたいな火の玉じゃなかったし」


 本で見た精霊は何故か全員美少女だった。作者都合とかモチベーション維持のため、とか書かれていたが学が無い俺には理解出来なかった。


 きっとこの世界の根幹に関わる程重要な事なんだろう。それだけは分かる。


『だからさ、契約を結べば姿が変わるのよ、説明したでしょ!』


「だからって何でもかんでも信じた訳じゃない、大体、俺はまだお前が魔物じゃないかと疑ってるんだからな」


『はい、ウッソーー!』


「何?」


『魔物かどうか疑ってるならあんな昔話聞かせてくれないでしょ?それに私の話もちゃんと聞いてくれたし』


「それは……」


 確かにこいつの言う通りだ。でも最初に話を聞いたのは信じた、よりも力になりたい、からだった。


 この場所がある意味で有名になったのは本物の幽霊がいると噂になってからだ。


 イタコやら呪術師やらインチキ臭い人達からプリーストや神官、果ては聖女まで訪れたが正体は掴めずしまい。


 それからここには誰も近寄らなくなったらしい。

 誰にも見つからずに魔法の練習が出来るなら幽霊など怖くない、と思いここに来たら火の玉が浮いていた。


『貴方もしかして私が見えるの?』


 精霊は魔力を持つ者には認識出来ない、

 何年も何年も一人ぼっちだったと精霊は語る。

 少女のように美しい声で、雨に打たれ続けたように冷たく震える声で。


 力になってあげたいと、そう思ったんだ。


 でも、

 同時に怖くもあった。


 精霊との契約は魂の契約。魔力の塊たる精霊の命とも言える核と人間の魂の一部を入れ換える事。


 それによって人間は莫大な魔力を、精霊は人間の体をそれぞれ手に入れる。


 それだけなら話は簡単だった、でも現実はそう甘くない、デメリットがあるのだ、それも俺に、

 ではなく精霊に、


 永遠の命を失うという代償が。


 あまりにも大きな代償にしかし精霊は鈴の鳴るように明るい声で、


『大丈夫、貴方は弱くなんて無いわ、力が無くとも貴方には強い心がある。だから、さぁ契約を結びましょう?』


『貴方の心と私の力、二つ合わせれば私達は何にだってなれる』


 精霊は歌うように、

『助けたいんでしょう?力無き者を』

『守りたいんでしょう?愛する人達を』

『変わりたいんでしょう?何も出来ない自分から』


『成り上がるんでしょう、自身すら救えない落ちこぼれから、全てを救う最強の魔王に』


 精霊は涙に濡れる少女のように震える声で、

『だからお願い、一人ぼっちの私を助けて未来の魔王様』


「……精霊」

 これほどの言葉を浴びてそれを無視出来る程、俺は大人では無かった。


『精霊じゃなくて私の名前はソエルよ。ソエル・サラマンド・フレイム、それが私の本当の名前』


「ソエル……その、よろしく……」

 全てを受け入れるように俺は目を閉じた、


 徐々に、徐々に火の玉の熱が顔に近づいて、


 触れる直前、

「グギャアオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 と耳をつんざく轟音と共に、魔王軍襲来を告げる鐘の音が街から聞こえてきた。

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