彼女と感覚を共有するハメになった

雅塵

第1話

 人間が得る感覚には主に5種類存在する。視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚。これらは五感と呼ばれ、人間一人一人が他と異なる特別な感覚を得る。他者と全く同じ感覚というのは得られず、自分だけのものだ。

 しかしそれは言葉によって表現するほかなく、自分が体感した感覚は他者に100パーセント正確なものを伝えることは出来ない。

 しかし、それが可能になれば人は真の意味で孤独ではなくなり、本質的に人と「繋がる」ことが出来るのではないかと私は考えた。

 そして、長年の研究によりある機械が完成した。名は「感覚リンク」

 これを実用化させる為の最終段階に入るためには被験体が必要で、実験台になる人間が必要になった。子供達には惨劇かもしれない。

 しかし我々は秘密裏に動く存在。下手な真似をすればお縄にかけられる未来しか待っていない! 許せ、子供達よ。しかしその先に、人類の新たな進化が待っている。──そう信じて。




「おい、豪徳寺」

「授業中だ!起きろ」

「………んあえ」

 長い夢を見ていたような気がするが、内容は全く思い出せない。

 思い出そうと努力するが、無理だった。

 代わりに、目の前の先生が鬼の形相でこちらを睨んでいる事は容易に把握出来た。

「すいません、普通に寝てました…弁解の余地もありません」

「お前ここ最近たるんでるぞ、テストも近いんだからちゃんと授業受けろ」

「はい、すいません、でも先生の授業がつまらないんすよ〜」

 クラス全体が少しだけ笑いに包まれる。何度も見た光景だ。適当に戯けて壁を作る。今までもこれからも、死ぬまで一生本心を悟られないように。

 油断すると、内密にしなければならない事柄が表に出てしまうのが豪徳寺の悪癖でもあった。

 誰にも言えない秘密があるのは彼だけではなく、窓側の1番後ろに座っている彼女もまた、同様の秘密保有者だった。

 黒く艶のある長い髪をしていて、目は若干垂れ目ながらも大きく、美人に分類されるのは間違いないが、前髪で若干顔が隠れているのが玉に瑕だ。

「おい、梅ヶ谷、そろそろ行くぞ」

 彼女の名前を呼ぶと今にも消えてしまいそうなか細い声で返事をされ、背後から付いてくる。

 側から見ていると豪徳寺が梅ヶ谷を従えているかのようだが、まぁ半分くらいは合っているといっても過言ではない。

 だがしかし、本当はクラスメイトに勘違いされるからやめて欲しいのだが。

 下駄箱に着くと、見知っている顔が近付いてくる。

「豪徳寺、もう帰んの?」

 クラスメイトの向丘、豪徳寺とはそれなりに親しい仲だ。

「もう放課後だし、別に帰宅してもおかしくないだろ?俺も色々やることあんだよ」

「色々やること、ねぇ…」

 向丘は豪徳寺背後に隠れるように佇んでいる梅ヶ谷を一瞥するが、特に何も言及してこない。

 それはそうだ、いつものことだし見慣れている光景としか言いようがない。

「ま、いいや、お前がいつも放課後何してるのか聞いたところでだんまりだしな」

「ただ、毎日毎日梅ヶ谷さんを後ろに付けて遊びまわってんのは良くないな」

「別に遊び回ってる訳じゃ」

「分かってるよ、冗談だ。でも学校中に怪訝な目で見られるのも嫌だろ?単なる友人としての忠告だから気にすんな」

 適当に戯ける向丘に苦笑するのは何度目だっただろうか、回数を重ねすぎて数えてすらいない。

「ご忠告どうも、じゃあまた明日な」

「へいへい」

 彼らはまた今日もある場所へ向かう。

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