第2話 新妻の意気込み
新婚旅行に行こう、と提案された時のことを思い出すだけで頬が緩む。
大好きなアルフレッドの低音ボイスに愛を囁かれ、すれ違い生活の辛さなどすっかり吹き飛んでいた。
アルフレッドはどれだけシエラを幸せにするつもりなのだろう。
「ねぇ、メリーナ。こっちとこっちだとどちらがアルフレッド様に可愛いと思われるかしら?」
「ローズピンクのドレスは愛らしいですし、オレンジのドレスは華やかで、どちらも奥様にお似合いだと思いますわ。それに、どんなドレスを着ていても、旦那様は褒めてくれると思いますけど」
新婚旅行に持っていくドレスや装飾品を侍女のメリーナと一緒に選ぶ時も、羽が生えたみたいにふわふわした心地だった。
それに、アルフレッドが公爵として仕事をこなし、シエラも女主人として社交界に顔を出すようになり、メリーナからの呼び方が「お嬢様」から「奥様」に、アルフレッドのことは「旦那様」に変わった。
結婚しているのだから当然といえば当然なのだが、押しかけ花嫁だったシエラがアルフレッドと思いを交わすまでに色々あって、ずっと「お嬢様」のままだったのだ。
だからこそ、呼ばれる度にそわそわしてしまい、口元が緩むのを止められない。
思わず歌い出してしまうのには目を瞑って欲しい。
「それでは駄目よ、メリーナ。アルフレッド様に飽きられたくはないもの! ただでさえ、わたしは年下で色気に欠けるのだから、努力は怠ってはいけないわ」
シエラはもうすぐ十八になるが、アルフレッドは二十六になる。
どうしたって八歳の年の差は埋められない。
アルフレッドは、シエラのことをかわいいと言ってくれる。
どんな姿のシエラでもただ笑っていてくれればいいと。
しかし、社交界で言葉を交わした貴婦人たちは、落ち着いていて、優雅で、お淑やかだった。
もちろん、女性としての魅力も色気もたっぷりで。
公爵家の妻として、彼を愛する女性として、このままではいられない!
なんとかして、アルフレッドにシエラの魅力をアピールしなければ。
(わたしも、大人の女性になるために頑張らないと……っ!)
そうすればきっと、アルフレッドはシエラに手を出してくれるはず。
毎日アルフレッドの低音を聴けるだけで、耳が、心が、幸せに満たされる。
シエラにだけ見せてくれるアルフレッドの素顔も愛おしい。
互いの愛が深まれば自然とそういうことになると思っていたのだが、アルフレッドとは添い寝止まりなのである。
アルフレッドの仕事が忙しく、すれ違い生活が続いていたからだろうとは思うのだが、妻として、女として、色気や努力が足りないのではないか。
新婚旅行の話が出たのは、ちょうどそんな悩みを抱き始めた時だった。
二人で初めての旅行。アルフレッドとずっといられる貴重な機会。
この機にさらに愛を深め、夫婦の仲を進展させるのだ。
「新婚旅行で、アルフレッド様ともっとラブラブになってみせるんだから!」
と、気合を入れて出発したのだが。
出発前から何故かアルフレッドは硬い声音で、どこか緊張しているようだった。
心ここにあらず、といった様子で、シエラの話にも気のない相槌を返すだけ。
ここ最近仕事が忙しかったことを知っているから、具合でも悪いのだろうか。
そう思い、領地に戻ることを提案したらすぐさま否定された。
一応、アルフレッドも新婚旅行を楽しみにしていると思ってもいいのだろうか。
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