044 テスト・落ち着く・変な意味
「……終わった」
「ん……」
中間テスト一日目、数学2と古典のテストが終わり、遥はぐったりと机に突っ伏した。
斜め前の席の雪季も、同じようにぐでっとしている。
今日の科目はこれで終了。
残りの日程は明日と、土日を挟んで月火の三日間だ。
「先は長いなぁ……」
「今のうちに詰め込めるだけ詰め込んどけよ、特に明日の日本史」
「うぅん……休みたい」
都波は涼しい顔でカバンを担いでいる。
さすがは学年トップクラスの秀才だ。
本日は午前で学校は終了。
部活もないので、各自下校となる。
バイト先からの情けもあり、テスト期間はシフトも入れなくて良い。
都波の言う通り、放課後は最後の追い上げのチャンスなのである。
「遥、お疲れ」
「ああ……渉。お前も余裕組か?」
「まあ、それなりにな」
「くそぅ……」
「そういう自分はどうだったのよ?」
渉に続き、絢音がこちらへ寄ってくる。
自然と五人で固まって、遥たちは教室を出た。
「古典はたぶん、漢文がセーフならまあまあだと思う……」
「数2は?」
「……」
「……」
「うしっ、焼肉の日程決めるか」
「都波ぃ……」
「雪季はどうなの?」
「ん、疲れたけど、おっけー」
「ええ!? なんで!」
遥は思わず驚嘆の声を上げた。
雪季だけは自分の味方だと思っていたのに、なにやら自信ありげだ。
「遥とは違う」
「くっそー! 俺もまだ分からないぞ! 勘で書いたところが合ってれば……」
「まあ、平均点の半分なんて、よっぽどじゃなけりゃ割らないだろ」
「渉、やめてくれ。よっぽどなんだよ、俺は」
「偉そうに言ってんじゃねぇよ」
わーわーと騒ぎながら、五人で昇降口を出る。
るりも合流し、そこそこの大所帯になった。
最近は周りが賑やかだなぁ。
遥はなんとなく幸せな気持ちになりつつ、校門まで歩いた。
「じゃ、俺たちはここで」
「雪季ちゃーん! またね!」
「ん、じゃあね」
渉とるりが二人並んで別方向へ歩いていく。
一緒に勉強をするのかもしれないし、恋人同士のんびりするのかもしれない。
大人っぽい渉と、元気溌剌なるり。
やっぱり意外と良い組み合わせだな、と遥は少しだけ微笑ましくなった。
「……愛佳、勉強しよ」
「んあ? またか。まあいーけど」
「……ん、パフェ食べながら」
「お前、そっちが目当てだろ」
「ん、まさか」
どうやら、雪季と都波はカフェにでも行くらしい。
相変わらず仲が良い二人だ。
(しかし、都波を味方につけるとは、なんて羨ましいやつだ……)
都波も雪季にはなんだかんだ甘いようなので、ますます焦りが募る。
実際、雪季は今日のテストも上手く乗り切ったらしい。
自分も混ぜてもらおうか。
そう思ったが、やめておくことにした。
雪季が一緒だと、お互い集中できそうにない。
ひょっとすると、雪季もそう思っているのかもしれない。
さすがにテスト前、ということか。
「遥、またあとで」
「ああ。先に帰ってるよ」
「帰り、買い物寄る?」
「あ、頼むかも」
「分かった。連絡する」
「ああ。あんまり遅くなるなよ?」
「ん」
一連のやりとりをざっと終わらせてから、遥は思った。
自分も雪季も、もうすっかり二人暮らしに慣れてしまっているらしい。
「じゃあな」
「んー」
「またね。絢音も」
「え、ええ。それじゃあ」
去っていく雪季と都波を見送りながら、遥はぐっと伸びをした。
テストで凝り固まった身体がほぐれ、少しだけ眠気がくる。
「ふぁぁあ。さて、俺も帰るかな」
「勉強するの?」
「しないとヤバいしなぁ。とりあえず、日本史だけ詰め込むよ」
「……そ、そう」
帰ったら、とりあえず昼メシを食べよう。
呑気にそんなことを考えていた遥は、次の絢音の言葉を、一瞬聞き逃してしまったのだった。
「い、一緒に勉強……しない?」
◆ ◆ ◆
「ほい、お茶」
「あ、ありがと」
二人分のグラスに麦茶を入れて、遥はそれをテーブルに並べた。
帰りにコンビニで買った昼食を食べながら、日本史の教科書をパラパラとめくる。
結局、今日は絢音と二人で勉強することになった。
遥にしてみれば、頭のいい絢音がそばにいてくれるというのは願っても無いので、大歓迎だった。
が、絢音側にはおよそ得がなさそうなので、若干気が引けなくもない。
極力頼らないようにしよう。
そう思いながら、遥は部屋に絢音を招き入れたのだった。
「絢音はなにするんだ? 英語?」
「私も日本史。英語は、多分大丈夫だし」
「くっ……なんて羨ましいんだ……」
明日の日程は1限目が英語、2限目が日本史だ。
正直なところ、前日の詰め込みは日本史の方が効果的だというだけで、英語ももちろんマズい。
遥もいつか、大丈夫、なんて言ってみたかった。
当然ながら、大丈夫な科目は一つとしてない。
「英語もちょっとくらいやれば?」
「うーん……その方がいいか」
「日本史飽きたら、教えてあげるわよ」
「う、うん……」
絢音も自分のノートを取り出し、二人で黙って勉強する。
さすが絢音、当たり前だが、雪季と違ってちょっかいをかけてきたりしない。
心なしか、いつもより捗る気がした。
あっさり30分ほどが経ち、集中力も上手い具合に増してきていた。
不意に、絢音がテーブルの上の麦茶を飲んだ。
それに合わせて、遥もグラスに口をつける。
ふぅ、と二人同時にグラスを置くと、なんとなく、絢音と目が合った。
「なんか、絢音と二人ってのもいいな」
「えっ! な、なによいきなり!」
「いやぁ、普段ずっと雪季と一緒だと、緊張するというか、振り回されるというか。でも絢音と二人だと、落ち着いてるし」
「そ……そう」
「うん。いや、変な意味じゃないんだぞ? ただ、ふと思ってさ」
「……うん」
「絢音がどうかは分からないけど、こういうのもいいな、と思って」
「……まあ、私も、落ち着く、かも」
「え……お……おう」
予想外の絢音の反応に、遥は少したじろいでしまった。
絢音といえば、基本的に遥に対しては雑な扱いをしてくることが多い。
遥はそれを嫌だとも思っていないし、むしろ気楽で良いとさえ感じていた。
だから、今絢音がこんな風に返してくるのが、遥には意外だったのである。
なんとなく気恥ずかしくなって、遥は頬を掻いた。
絢音も頬を染めてもじもじしている。
あれ、なんだ、この空気は。
遥は顔がほのかに熱くなるのを感じて、もう一度麦茶を飲んだ。
「……」
「……」
「……遥?」
「ん?」
「……やっぱりまだ、恋愛が怖い?」
そう尋ねた絢音は、どこか緊張したような表情をしているように、遥には見えた。
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