【番外編スタート!】超絶美少女と同居することになったけれど、恋愛恐怖症の俺はきっと大丈夫

丸深まろやか

001 美少女・手紙・オムライス


 自分の部屋の前に、見知らぬ少女が立っている。


 月島遥つきしまはるかはマンションの階段からひょこっと顔を出し、謎の少女を観察した。


 背中に小さなリュックサックを背負い、セーラー服と水色のカーディガンを着て、ドアに背を向けている。

 はるかの高校の制服はブレザー。

 つまり、同じ学校の生徒ではない。


 黒いセミロングと、ぱちっとした目。

 小さくて形の良い鼻と、薄い唇。

 白い肌が夜なのに透き通って見える。

 やたらと美少女だった。


(なんなんだ一体……)


 自分が部屋を間違えている可能性も考えたが、何度確認してもそこは遥の住む203号室だった。


(帰れないじゃんか……)


 とは言え、いつまでもここに隠れているわけにもいかない。

 時刻は夜の10時過ぎ。

 バイトで身も心も疲れ切っていた遥は、なるべく早く部屋でくつろぎたかったのだ。


「あのー……」


 意を決して、恐る恐る声をかけた。

 少女はピクッと身体を跳ねさせてこちらを向くと、遥の顔をまじまじと見つめ、一つ頷いた。


(……なんで、頷く? それにしても、めちゃくちゃ美人だな、この子……)


「そこ、俺の部屋なんですけど……何か用ですか?」


 少女は少しだけ、何か考えるように頭を捻った。

 整った外見から繰り出されるその仕草が、冗談みたいに可愛らしい。


 しかし、彼女の口から出た言葉の方が、もっと冗談じみていた。


「……今日から二人の家」


 本当に、まったく、意味がわからなかった。



   ◆ ◆ ◆



『最愛の息子、はるかへ。お前がこの手紙を読んでいるということは、もう雪季ゆきちゃんはそっちに着いたということだろう』


 いや待て。

 なんだこの手紙は。


 丁寧に読むのもバカらしくなり、遥は少女に手渡された手紙をざっと流し読んだ。

 どう見ても父親の字だ。


 要点をまとめると、つまりはこういうことだった。


 海外で働く遥の父親は、仕事先でひとりの日本人男性と意気投合した。


 ①日本に子供を置いてきた

 ②置いてきた子供が心配で仕方ない


 この二つの共通点を持っていた二人は、「じゃあ子供同士を一緒に住ませれば安心じゃん!」ということで意見が一致したらしかった。


 長い付き合いだから分かっていたこととはいえ、遥は自分の父親のアホさに頭を抱えた。

 思わず気が遠くなる。

 相手の男も同様だ。

 大切な一人娘を男子高校生と同居させるなんて、一体何を考えているのか。


 当然ながら、言いたいことは他にも大量にあった。

 この雪季ゆきというらしい少女にも、聞きたいことはいくらでもある。

 が、今はこの状況をどうにかしなければならない。


「雪季、さん?」

「……ん」


 雪季は遥の愛用するクッションを抱きしめながら、ゆっくりこちらを向いた。


「状況は理解してるのか?」

「ん」

「……いいのか? これで」


 雪季はためらいもなく、コクンと頷いた。

 思わずため息が出る。


 仕方ない。

 親同士が決めたことだ。

 それに手紙によると、既に高校の編入手続きや、雪季の私物の発送も完了しているらしかった。

 全くもって納得はいかないが、今さら突っぱねるわけにもいかない。


 幸か不幸か、父親の勝手に振り回されるのには慣れている。

 遥は腹を括ることにした。


「俺は月島遥つきしまはるかだ。君は……」

水尾雪季みずおゆき

「水尾さんね。分かった。さっそくで悪いけど、一緒に住むからには色々覚えてもらう。いいか?」

「ん」


 雪季はあっさり頷いた。無口だが、どうやら協調性はありそうだ。遥はひとまず安堵した。


「じゃあ水尾さん、とりあえず」


 “グゥ~”


「……」

「……」

「……うん、分かった。まずは何か食べよう」


 雪季は恥ずかしそうにうつむき、もじもじしていた。

 かなり長い時間、部屋の前で待っていたのだろう。


「ちょっと待っててくれ」


 遥はエプロンを着け、キッチンに立った。

 慣れた手つきで調理を進め、ものの20分ほどで二人分のオムライスが出来上がる。


 テーブルで向き合い、雪季と二人で手を合わせた。


「いただきます」

「……いただきます」


 一口食べて、雪季は目を輝かせた。


「……美味しい」

「だろ。俺のオムライスは最強だからな」


 父親に習った、遥の一番の得意メニューだった。

 普段はパンやインスタント食品で済ませることが多いが、今日はさすがにそういうわけにはいかない。


 雪季は幸せそうにオムライスを頬張り、みるみるうちに皿が空になっていった。

 その雪季の様子を見ていると、遥はこれから始まる同居生活も、なんとかうまくやっていけそうな気がするのだった。


 ある一点の不安を除いては。

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